64話目 芝の女王「オーメン」
あたしはデュエルOKって返事をすると、すぐに新宿へ戻った。――いや、実際はこんなに早くないわよ? 正確には、『一旦スロットから〖迷宮〗を外して【終了】! それから改めて〖迷宮〗を入れて【開始】!』 こーんなメンドイ作業やってるのよ。ぐはぁ~。
んー、だけど、〖強制終了〗を食らってサボテンライフを開始するワケにもいかないし。あうぅ……おっちゃん達~? 新呪文の開発、待ってるわよ~?
西口のカルイザワビルに入って、地下行きの魔法陣に乗った。サクッとワープした先は、壁一面に無数のモニターがあるサロン。
うひゃ~、なんかの司令室みたい。ほぉほぉ、みんな色んなフィールドでデュエルしてるわねえ。
とりわけ、中央の大画面がスゴかった。肩を露わにした青いサキュバスが、真っ赤な衝撃波をミノタウロスに炸裂させてる。大きなミノちゃんは、ド派手に吹っ飛んでKO……って、吹っ飛んだ先の建物、金閣寺っぽいんだけど。火達磨の牛肉とともに炎上とか、ネタ的に大丈夫?
『ホホホ、これで妾の5連勝じゃ』
艶やかな黒髪のサキュバスは、羽根扇子を優雅に広げた。
『次なる戦士は……と、おぉ、愛しい天使が来たようじゃのぉ』
あらま、モニターの向こうからも見える仕組みなのね。
十数人の観客さんたちも、今来たあたしを見てザワついてる。
「おい……殺人鬼キラーのシャボンだ……」
「芝の女王VSサボテンだと……!?」
「天使と悪魔がバトル……」
「ひょっとして、女王を倒せるかも……!」
「やっべぇ、こりゃ録画録画……」
――あ、これ銀ちゃんに声掛けとけば良かったかしら? んー、そっかー。あたしの映像を見た上で挑戦状をくれてる時点で、相手も実力者のハズだもんねー。ゴメン、銀ちゃん。
あたしは、人垣をモーゼのように分けて、ゆっくりとモニター前に立った。
「あなたが、メッセージの主ね?」
『左様。妾がイシュタールじゃ』
「えーっと……芝の、女王?」
『ホホホ。〈悪魔〉の多い地域で、少し名が知られとるダケよの』
あー、大門・芝だったっけ。このサキュバスさんもソコが根城、と。
観客さん達が、「シャボンさん、こっちです」って、豪華な扉に案内してくれた。お礼を言ったあと、両手でゴゴゴと押し開けると、そこにはストーンサークルのある平原が広がってる。
「よく来たのぉ、シャボン。戦いの舞台は選べるが、如何にするかえ?」
「ん。ここでいいわ」
遮蔽物はストーンヘンジの石だけだし、飛んじゃえばレーヴァテインを振り放題よ。
「あたし、昨日も悪魔退治をしてきたの。エクソシストには定評があるからね」
「ホォ、それは楽しみじゃ」
すると、どこからか、ネイティブな発音で“Ready,Fight!”って聞こえた。あ、これ戦闘開始の合図ね。
あたしがレーヴァテインを取り出すと、イシュタールは白い光を指に集めてた。――って、【祝福】じゃん。さっきまで授業で見てたわ。
「あのー、悪魔がそれやるの?」
「ホホ。神のご加護じゃ」
うわーい、悪魔がほほ笑んでる。とっても世紀末ー。
さて、【祝福】ねぇ。さっきのミノちゃんも、大ダメージで吹っ飛ばされてたし、絶対アレでしょ。ダイス3つをゴロリンチョ。
ってことは……このあと【三連撃】も使うハズだわ。そのとき、一気に【中和】で消しちゃえばOKよ。
あたしは、【中和】を準備しながらイシュタールに向かって勢いよく飛んだ。
「ホホ」
悪魔は蠱惑的な笑みを浮かべつつ、黒い光を拳に宿す。
――え、赤じゃない? それに、呪文名が……。
「〖オーメン〗?」
「ホホホ」
イシュタールは素早く手を開いた。
ころころころ。
ダイスは3つ。出目は――6、6、6!
どぐぉおっばあああぁぁああーーーっ!!
「ぐふっ……!」
黒い奔流があたしに直撃した。すかさずイシュタールは【闇の衝撃】も発動させて、ダメージ2倍で36点。
「ぶっ……うげ、ぇ……」
土手っ腹をブチ抜かれたような一撃だったわ。吹っ飛ばされはしなかったケド、たまらず膝をつく。
「ホホホ……なまじ【痛み止め】が入っとると、衝撃を逃がせんからのぉ。体がキツいぞえ?」
悪魔に心配されちゃったわ……こなくそっ!
あたしはすぐに【中和】を撃って、イシュタールの【祝福】を消した。
「もう、ガンガン消してやるわ!」
【祝福】とか、張られてるダケで危険よ!
だけど、女王様はなおも余裕たっぷり。
「ホホ……相済まぬのぉ」
拳が赤く光ってる。魔法名は【エコー】。
「チェックメイトじゃ」
え?
手が開き、コロコロコロっとダイスが振られた。
出目は、6、6、6。
どぐぉおっばあああぁぁああーーーっ!!
キッチリ【闇の衝撃】も発動されて、もういっぺん36点。オーバーキルであたしは死んだ。
ぐはぁ……手も足も出ず。ドーナツってこんな気分かしらね……。
あ、だけど、サイコロ関係のシングルカードが思いっきり変動するわ、コレ。まずはチェックしときましょ。
死んでプライベートルームに戻されたあたしは、ネットで【パラメデス】のカードを検索して、安いものをジャンジャン買い漁っといた。
ふふふ……あたしはね、死んでもタダでは起きないのよ。〖オーメン〗とかいう魔法、いきなりダイス3つ振るとか、絶対強いもんね。検索しても引っかかってこなかったあたり、まだ出だしのハズよ? そしたら、一緒に【パラメデス】だって値上がりするかもしれないじゃない?
だから、「最悪、捨ててもいい金額で拾っておく」の。
敗北を知ったあたしは、成長するのですわ! オーッホッホッホ!




