61話目 サイコロを振ると鬼が笑う
次の日、マホロバ学園にやってきたあたしは、ラビちゃんにガバッと頭を下げられた。
「お姉ちゃん、ごめんなさい!」
立ったまま、最敬礼よりも深い謝罪。う~ん、体やわらかいわね~。
「大丈夫よ、ラビちゃん。頭を上げて」
おずおずと体を起こした白ウサギちゃん。は~、儚げでカワイイ!
もちろん、優しく抱きしめてあげた。
「あっ……」
「いいのよ。ラビちゃんが無事だったことが、1番嬉しいわ」
「お姉ちゃん……」
「それとね。今後の用心のために、どういうふうに誘われたのかを教えて」
「は、はい」
それによると、魚人の少女「アイス・vo」(VOじゃなくて小文字!)が、『天使ちゃんの友達なの、うふふ』とか言って近付いてきたらしい。――おいおい、「うふふ」って、あーた。おっちゃんのキャラ知ってたら、絶対やらないわよ?
昨日の放課後、学園のみんなと外出中に話し掛けられて、あたしのことをホメちぎった挙げ句、『シャボンちゃんがすぐ来るから、ビックリさせてあげよ? だから、ナイショ。ね?』とか言って、ラビちゃんだけ連れ出したんだとか。もちろん、ワープ後には脱法呪文で雁字搦め。――うわ~、やり口が腐ってるわ~。
あたしはラビちゃんをヨシヨシしてあげた。
「ラビちゃん、次からはあたしにメッセージで確認してね」
「はい」
「ん。ならOKよ」
すかさず念話で、チャンネル・オン!
(緊急用に、ラビちゃんには4ケタの数字を教えておくわ。相手があたしの知り合いかどうか分からない場合、そのパスワードを聞いてみて。1つでも違ったら、すぐ【終了】して先生に連絡。OK?)
(はい!)
あたしはその数字を言ってチャンネル・オフした。ふ~、この世界、どこで聞き耳立ててるか分かったもんじゃないからね。大事な話は全部ヒミツの会話よ。――あ。
あたしは、すぐまたチャンネル・オンした。
(そういえば、ラビちゃん? このオンオフ切り替えって、面倒よね。混乱しない?)
(え?)
ラビちゃんは、赤いお目々をパチクリさせた。
(あの、お姉ちゃん……。テレパシーのオンオフ機能って、自由に変えられますよ?)
(え、本当に?)
(はい)
ラビちゃん、コクン。
あたし、ぐはぁ。
(えっと、お姉ちゃん……。わたし、授業でやりました……)
(あはははは……そうなんだ)
なんでも、色んなパターンがあって、ステータス画面でオンオフを変えたり、開始と停止のワードを変えたり出来るんだとか。あるいは、動作によってもチェンジ可能。
(あとは、チャンネルをつないだまんま、念話を閉じたりも出来ます)
(あ~……そりゃあ便利だわ)
ラビちゃんの指導によっていくつか試した結果、「手でグーを作ったとき、親指の腹で人差し指の側面を押しっぱなしにしてると念話が繋がる」状態にしておいた。あと、手がマヒったら困るから、別のワードや操作方法も併用させといたりね。
あたしはウサギちゃんをなでりこなでりこした。
(ラビちゃ~ん、ありがとう~。お姉ちゃん、本当助かったわ)
(シャボンお姉ちゃんも、分からないことがあるんですね)
(あっはっは~。もー、知らないコトだらけよー)
――いや、自慢にならないケドね。
んでも、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥よ。
こうやって覚えたことは、スッゴく身につくの……。ハズいけどね!
えーさて、今日は別にあたしが先生というわけではないので、授業参観枠としてラビちゃんの様子を見てた。――おっと、女の子チームでお話ししてるわね。とくに、ペアを組んでた狼のハスキーちゃんとは、ギュッと手をつないでる。うんうん、ほほ笑ましいわ。その手を放さないであげてね。
(シャボンさん)
あ、カエル園長さんだわ。
(ご心配をお掛けしました)
(いえ、こちらこそご迷惑を)
やっぱ3ぺこぺこしちゃうわね。
(シャボンさん。今後は、より一層の警戒を行うとともに、授業も変えていくつもりです)
(えっと、それって先生も変わるとかですか?)
(はい。――と、噂をすれば)
ちょうどそのとき、本日の先生が校庭に出現した。
「シュシュ~!」
えっ!? 昨日の黒人少年(6才)!?
「オオ~! お姉しゃん、また会えたっシュね~!」
驚異の速さで近付いてくるや、ヒシッと手を握ってくるアフロボーイ。
「これはもう、運命っシュ! 今から全52話の恋愛ドラマが始まるっシュ! もちろんハッピーエンドっシュよ~!!」
手をブンブンしてくるけど、あたしはかえって冷静になった。
「えーっと……鬼六、先生?」
「シュ?」
「いいとこ、前後編のコメディだと思うわ」
「シューッ!?」
あー、うん。ラビちゃん救出で頑張ってもらったから、一応お返事はするけどね。本気で恋愛したいなら、アバター変更をオススメするわ。あと、あたしってば、トゲのある女よ?(リアルで)
ミカエル園長が、傷心アフロをポフッと叩いた。
「ふぉっふぉ……鬼六先生や。子供たちが待っとるぞい」
「ちょほほ……。分かったっシュ」
子供たちに笑われるなか、降参のポーズを取ったアフロ先生は、その両手をゆっくりと閉じた。――と、右手が赤く光る。
アラ、赤魔法? 何が始まるの?
手を下ろして、今度は静かに開いていくと、そこにはサイコロが1つ。
「今日は鬼六が、『男の世界』を教えるっシュ」
幼児の声帯で渋さを出そうとしてるあたり、コメディなら逸材だわ。
右手でサイコロをもてあそびつつ、左手で【ゴブリン】を召喚。
『ギャギャー!』
ふむふむ。ショタゴブじゃなく、由緒正しい悪ゴブね。
「さて、生徒のみなしゃん? ゴブリンの攻撃力、速さ、生命力はいくつっシュか?」
すると、口々に「いち、にぃ、いちー!」って答えてくれてる。まー元気。
鬼六先生はニッコリした。
「その通りっシュ。さて、今から鬼六が、ダイスを振るっシュよ? よ~く見ておくっシュ!」
先生が地面にコロリンチョすると、すぐに1の目が出た。――あ、上に大きな吹き出しが。サイコロの出目にくわえて、アラビア数字でも示されてる。間違いなく1ね。
直後、ボコッとゴブリンが衝撃波のようなものに襲われた。
「「えぇーっ?」」
子供たち、ざわざわ。対して、あたしの心はニマニマ。――ふふふ、ダイスの出目分だけダメージとかいう魔法、あったのよね~。40箱も開けたら、そのとき何度か目にしたわ、えぇ。
ゴブリンは、薄くなって消えてった。授業用のモルモットよ、さらば。
「シュッシュッシュ……」
アフロ先生も、不敵な笑みを浮かべてた。
「これは、鬼六の大好きなダイス魔法、【パラメデス】っシュ」
握りしめた手を赤く光らせた先生は、再び自慢げにダイスを出した。
3つも。
「「「「「ええーっ!?」」」」」
いやいやいやいや! ソレはあたしも驚きなんだけどー!
ダイス魔法のご紹介です。
(本編では【パラメデス】と表記しております)
【原始の賽子/Palamedes】
レベル3・赤魔法/アンコモン
分類:一般
効果:キャラクターを対象としてダイス1個を振り、出た目のダメージを与える。
「俺の負け? そいつはどうかな。振るまで分からねえのがサイコロだぜ」
――博奕打ち
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