57話目 助けるのはプロにお任せ(なお、その後は)
1秒でラビちゃんが殺されるって……何よ、その反則攻撃! チートもチート、冗談じゃないっての!
――あ。
「ヤバいわ! ミカエル園長が、うっかり電源を切っちゃったら!」
「大丈夫だ。すでに俺たちから連絡を入れてる」
おっちゃんは冷静だった。
「向こうもプロだからな。ヘタに弄ることはない」
「ふぅ……良かった」
大きく息を吐いたけど、すぐまた「あれ?」と首を傾げた。
「それなら、なんで連絡したの?」
「アバターナンバーの確認だな。ウサギ少女のそれが分かれば、どんなに似たダミーを置かれても、彼女を特定できる」
「おー」
そりゃ大事だわ。
だけどね、おっちゃん……あたしの真の疑問って、ソコじゃないのよ。
1度フシギに思ったら、芋づる式にスルスルと疑問が出てくる。――ん、やっぱり重要だわ。聞いときましょ。
「ねえ、アイス」
「何だ?」
「あたしね、このマホロバ・ライトって、ゲームだと思ってたわ」
おっちゃんは、マップから視線を上げた。
「まあ、『ゲームも出来る世界』だよな」
「だけど、こっちですら、脳死が起きるかもしれないのよね?」
「――ああ」
あたしは、ぐっとアイスに顔を近付けた。
「この案件……。マホロバ・リアルの冒険者さんたちが、とっくに介入してるでしょ」
そう。
人が死なないことを売りにしてたマホロバ・ライト。
そこで、〖迷宮2〗と〖強制終了〗のコンボが脳死を引き起こす恐れがあるって分かったら。
「――うぅん。むしろ、リアルの方以上に、本腰入れてやってるわよね?」
おっちゃんは、天井を見てフーッと息を吐いた。
「今は言えない」
すぐさま念話を飛ばした。
(脳ミソでのおしゃべりもダメ?)
(ダメだ)
機密関係は本当にお口チャックね、おっちゃん。
もっとも、その姿勢こそ、ビンゴって言ってるようなモンだけど。
「じゃあ、勝手に喋るから聞いてて。――あのね、あたしは自分で助けたいのは山々だけど、そりゃあ、プロが解決してくれるなら、その人たちにお任せするわ」
「……」
「おっちゃんは、あたしが助けに行くよりも、その人たちの方が成功率が高いって信じてるんでしょ?」
あたしを一瞥したおっちゃんは、かすかにうなずいた。――十分よ、それで。
「なら、あたしも信じる。ラビちゃんの命がかかってるから」
あたしは、おっちゃんの両肩を押さえた。
「だけど、助けたあとの〈悪魔〉は、あたしに倒させて。だってね、『あたしがターゲットになって、ラビちゃんを巻き添えにした』んだもの。これから先、傍観者として助けてもらうダケってのはイヤなのよ。――あ、でも敵は〖強制終了〗を使うんだっけ。それって『現実オンリー』なの? 『プライベートルーム』への2択じゃなくて」
おっちゃんは、静かに息を吐いた。
「〖強制終了〗についてなら、YESだ。絶対にマホロバから追い出される」
「あー……それはちょっとマズいわね」
脳のサボテン化がこれ以上進行したら、多分2度とマホロバに戻ってこれないわ。
「実はあたし、『ずっとマホロバに入ってる』って条件でゲームをやってるの。だから、〖強制終了〗を食らったらアウトね」
「――なるほど。体調か」
おっちゃんは、すんなり納得してくれた。あたしが動けないって事情と合わせて、詮索しないでくれたみたい。
「だが、それなら尚更、待ってた方がいいだろう。――いや、この事件が解決したあとも、当分の間は人目を避けるべきだな。〖強制終了〗1発で退場はキビしいぞ」
「ん~」
たしかに、そんな脱法呪文なら、フツーに使ってる人も多いだろうしね。ヘタしたら、善意で「速くログアウト出来るよ」って使われちゃうわ。それで人生終了ね。(そしてサボテンライフが本格始動)
あー、とんでもない皮肉だわ。ラビちゃんは現実へ返したいのに、あたしは現実送りを断固拒否とか。
「くっそぉ~、〖迷宮2〗めぇ……」
肝心な〖強制終了〗には無力とか、どーしてポンコツなのよ~……。
「――あ」
あたしは手を叩いた。
「おっちゃん。〖迷宮〗の脱法呪文って持ってる?」
「ああ、研究用にな。どうした?」
「それって、もしかして……」
疑問を尋ねたら、おっちゃんはいい返事をよこしてくれた。
――やった! それならいける!
早速あたしは、対社長用デッキにスロットを入れ替えた。
しばらくしたのち、おっちゃんが言葉少なに誰かと念話する。
「――よし、待たせたな」
おっちゃんが親指を立てた。
「冒険者たちが少女を確保したそうだ。彼女は、無事に【終了】したとよ」
「よかった……!」
緊張の糸が切れて、肩への重みをずっしりと感じたけど、こんな疲労ならジャンジャン来なさい、大歓迎よ。
すぐに園長へと念話した。
(ミカエル園長、ラビちゃんが戻ったそうですね)
(あ! はい、シャボンさん! ええ、ついさっき現実に戻ってきました!)
それから少しの間、「シャボンさんにはお騒がせを……」とか、「いえいえ、あたしの方こそ実は……」と謝罪合戦を繰り広げたのち、明日改めて伺うことにした。
あ、ラビちゃんとのやりとりも明日ね。すっごく怖かっただろうし、マホロバに今すぐ来てなんて言えないわ。ミッちゃんや他の先生たちに存分に癒やしてもらってね、うん。
「はぁ……本当に良かった……」
両手で顔を覆ったら、ちょっと泣いてたわ。
「シャボン」
アイスが立ち上がった。
「憂いは去ったが、大門に行くか?」
「ええ、もちろんよ」
ラビちゃんにやってくれたお礼を、たっぷりとお返ししてあげなくっちゃね。
不敵な表情に切り替えたあたしは、インベントリからレーヴァテインを出した。
「キッチリと、ブチのめすわ」




