56話目 〖迷宮〗の悪魔
あたしの手紙を見たおっちゃんは、ツヤのある銀髪をガシガシかいた。
「くそっ。〖迷宮2・倒れた冒険者〗……正式名称だ。ハッタリじゃねえな」
「ヤバいの?」
「軽はずみなコトは出来ん」
白魚のような指で口を拭う。
「そもそも、〖迷宮〗という脱法呪文は、【終了】させない効力を持つ常動魔法だったんだが……。ムリヤリ外部から電源を落として、強引に起こすワザが使えた」
「え?」
ちょ、ちょっと待って。
「それじゃあ……この〖迷宮2〗は?」
「――マホロバ・リアルの方では、脳死した。ついさっき起きた事件だ」
何よソレ、メチャクチャ凶悪じゃない!
「ちょっと! こっちはライトでしょ!? ――大丈夫よね?」
おっちゃんは、肯定も否定もせず、テーブルの上に出した新宿の地図をじっと見つめてた。
――あ。
「ご、ごめん……アイス。あなたに当たるなんて……」
「いや、いいぜ。いくらでも聞いてやる」
落ち着いて答えてくれたことで、あたしも冷静さを取り戻せた。
ラビちゃんを助けることが大事。今は、敵の行方を注視しましょう。
マップ上には赤い点が表示されていて、ゆっくりと動いてる。――あ。
「西口の魔法陣に乗ったら、点がワープしたわね」
「代々木に飛んだか……」
縮尺を変えて、広域が映し出される。
「ヤマノテか、あるいはチューOか」
「ねえ、アイス。これって正規呪文?」
「ああ、銀魔法の【追跡】だ。ちとイジってるがな。――む?」
また赤点がワープした。今度は国立競技場の北東。
「なるほど……Oエド・ラインだったか」
おっちゃんはスグさま該当路線を脇に表示させた。青山一丁目、六本木、麻布十番と、次々に赤点が瞬間移動する。
そして、ついに点がゆっくりと北へ動き始めた。
「おっちゃん。敵が電車から降りたわね」
「だな」
浜松町に程近い駅だった。名前は「大門」。
「この辺りは、〈悪魔〉のアバターが根城にしてるんだ」
「名前つながりで?」
「ああ。東京タワー近くのダンジョンにも潜りやすいから、利便性も高い」
赤い点は、じれったいほどノロノロと北上したのち、動きを止めた。
「おっちゃん。ここがアジトでしょ? スグに行ってブチのめしましょう」
「待て、シャボン。捕まった少女の居場所が特定できてない。ここにいなかったら最悪だ」
「ぐっ……」
あたしは歯を食い縛った。
今もラビちゃんは心細い思いをしてるハズ。60秒を60日ぐらいの体感で震えてるかもしれない。
――自分の無力さをこんな形で感じるなんてね。
おっちゃんは、誰かと通話していた。
「うむ、『ざまぁ団・第33支部』か……。分かった、引き続き見張っててくれ」
あたしの方を向いて、ゆっくりとOKサインを見せる。――いよっし!
「ブッ潰せるわ」
「まだだ」
おっちゃんが手を広げて制した。
「ここの支部長は、ストレーションって名前の〈悪魔〉でな。格上の相手にケンカを吹っかけちゃあ、脱法呪文で追い払った挙げ句、編集マジックで勝利動画を投稿する外道だ」
「うへぇ~……って、正体まで分かってるの?」
「2体目以降のアバターはカネが掛かるからな。代金をケチる『ざまぁ団』は多いんだ」
「なーるほど」
泳がせてたってワケね。
「んじゃまぁ、小者のザコっぽいし、サクッと倒してラビちゃんを助けられるわね」
「問題は、ヤツのよく使ってる脱法呪文なんだ」
「え? どうして?」
おっちゃんは顔をしかめた。
「〖強制終了〗って呪文でな。どんな相手も、1秒でマホロバから現実に戻しちまう効果がある」
「へー」
便利ね。【終了】には5秒かかるから、逃げるときも相手を追い払うときも使えるわ。
――あれ?
「ねえ……。〖迷宮〗って、【終了】が出来ないけど、〖強制終了〗なら出来るってオチ?」
「そうだ」
「んでもって……。〖迷宮2〗は、強引に起こすと脳死?」
「ああ」
「――〖強制終了〗で起こしても?」
おっちゃんは、マジな顔のままゆっくりとうなずく。
ヤバいじゃん!!
〖迷宮〗は、各色に亜種が作られてます。
以下はオーソドックスなタイプです。
〖迷宮/Labyrinth〗
特技/『脱法ですが何か?』
分類:常動
範囲:半径100m
効果:【終了】を使用不可にする。
条件:スロットに入れた者はマホロバから脱出できない。
「まァ、ゆっくりしていけや。ゆっくり……な」
――カルイザワ、OK社社長




