53話目 怒濤の真実をひとまず飲み込んで出した答え
あたしは早速、ネットでサーチしたり、エイホウさんに聞いたりして、カルイザワ社長を調べてみた。
カルイザワこと井沢社長は、元々マジカルドーン社の社長だった。会社が大きくなりすぎたというので、3人だけで新しくゼロ・カルイザワ社――通称OK社を立ち上げたみたい。
その3人が、それぞれ切磋琢磨した結果、VR「マホロバ」が完成。4月3日にスタートする。
そして……VR内の死が脳死となる「4.3事件」が発生、9862人が脳死した(その後、431人が追加認定され、10293人が脳死したとある)。
ゲーム開始当時は、現実の町並みにラスボス並の強さを誇るゴブリンがうろついてたり、空を飛ぶと羽交い締めにして地面に道連れにするハーピーなんかがウヨウヨしてたとのこと。――ああ、そりゃ死ぬわ。
翌日、謝罪会見。そのとき、社長がノドをやられていて、機械音声というのが明らかになってる。主に喋っていたのは、福田という大柄な坊主頭の人。
会見にて、1週間後のマホロバ閉鎖を告げる。すぐに閉鎖しないのは、入っている人の脳がどうなるか分からないため。
質問の嵐に答えているなか、マジカルドーン社の後任社長が自殺という報道が出る。カルイザワ社長の表情だけ変わらなかったことから、サイコパスだの殺人鬼だの言われる。
6日、社長の母親と、社長の5才の1人娘が殺害される。
加害者はマホロバで脳死した息子の父親。その人も直後に自殺。
社長の他の家族はすでに死亡しており、社長は天涯孤独になる。
9日、VRマホロバから決して出ない100人ほどと、社長が話し合いをする。出てきた社長は、マホロバの閉鎖を撤回する。
猛バッシングを受けるけど、社長の意志は変わらず。
文書による社長の回答は以下の通り。
“望んだ者のために続けたいと思った。俺を信じた奴らを裏切る行為は、2度とゴメンだ”
社長の行為は罰せられないのか調べたけど、どうやら不能犯というものみたい。いわく、「『VRで人が死んだら実際に死ぬ』とは、誰も想定していなかったから」だそう。
民事としては、8ケタの見舞金を亡くなった方1人ずつに出してる模様。裁判も色々起きてるみたいだけど。
――気になるのは、その「マホロバ・リアル」の方って、未だに人を殺したときの処遇が曖昧なのよね。
傷害うんぬんは【治癒】で治っちゃう世界だし。大ダメージを与えても、治るからセーフ。トドメを刺したら殺人罪って言っても、ステータスを見ないと分からないもの。
そこに輪をかけて問題なのが、脱法呪文だわ。掛かったらオシマイみたいな呪文を唱え始めたとき、先手を打って殺すのはアリかナシか。
で、実質、殺人罪の適用はされてない。
社長はもう1つ、私的な文書を出してた。
“文句があるなら、いつでもマホロバに来い。現実より安全だと証明するため、俺はマホロバにいる。話し合いでも果たし合いでも受けるぜ”
そのさい、安全性向上のため、「冒険者」という制度を作って、治安の維持に努めてる。とくに一番強い人は、「英雄」とか呼ばれてるみたいね。
その後、ブランドやら風俗やらも巻き込んで、なんとか存続。そして12月、人が死なないVRとして、「マホロバ・ライト」をオープン。リアリティは格段に落ちてるみたい。――正直、あたしにはリアルそのものって感じだけど、個人差あるみたいだしね。とくにあたしの場合、本体サボテンだし。アテになんないわ。
他にも、「マホロバ・リアル」は体感時間が3倍になるだとか、今後はマホロバ内での土地の売買を考えてるだとか、山ほどツッコミたい所はあるけど、情報が多すぎて煙吹きそう。
ただ、言えるのは、ここがマホロバ・ライトで良かったってコトかしら。もしリアルだったら、最初のスカーレットちゃんで死んでたものね。
あたしは次に、マホロバに反対する人たちについて調べていった。
大事故が発生したことから、閉鎖しろって言う人や団体は多いみたい。中でも一番大きいのが、「マホロバの閉鎖を願う団体」。――ゲッ、ここって、今の名前は「ざまぁ団」って言うの? うわあ……ベアクローとか、ここに入ってたのね。
なんでも、支部ごとに性格が違うらしくて、「閉鎖しろとデモをする」支部から、「ともかく暴れ回ってマホロバを閉鎖に追い込もうとする」支部まで様々とのこと。最近は後者の方が多くなってきてるとか。
――はぁ、ざまぁ団って、元々はそういう集まりだったのね。で、始めはマトモな人のデモだったけど、今は、面白半分で入ってきた人に乗っ取られた状態ってトコかしら。クマやらウマシカやらを思い返すと、多分これよね。
ともあれ、あたしのいるマホロバ・ライトに、まともな運営サポートは期待しない方がいいわ。リアルの方じゃ、命が消えるんだから。そっちを優先するってのは、むしろ当然ね。
あたしは【開始】して、喫茶「サラマンダーの夜」に入っていった。中にはおっちゃんがいる。
「アイス。あたし、ひととおり調べてきたわ」
「ああ。――続けられそうか、シャボン?」
「ええ、マホロバは続ける」
あたしにとっては、ここが世界の全て。悲しいスタートだったとしても、諦めるって答えはない。
「あたしは、この世界があって救われたもの。――おっちゃんも銀ちゃんも、脱法呪文の対策カード開発に力を入れてるんでしょ? なら、それを応援するわ。より安全にマホロバを使えるようにすれば、もっと救われる人は増えると思うから」
「おう。――ありがとな」
おっちゃんは、優しくほほ笑んでくれた。




