47話目 大人買い40箱
多分だけど、あたしの動画がメチャクチャ再生されてるってことは、注目度が高いハズ。つまり、今のあたしの価値は、勢いも込みでいったら相当ある。
それに、社長からしたら、手塩にかけたペットをやられた憎い相手だもんね。
けっこー失礼な文章だったかもしれないケド……あたしは目的を達成したい。
しばらくして、返事がきた。丁寧な感謝文とともに、なんかのアドレスが書いてある。――なになに、ここで詳細をお話ししましょうって?
エイホウさん、このアドレスって何?
『専用チャットです』
ほおほお、なら行きましょう。ポチッと。
その途端、VRを開始したとき耳にした声が聞こえてきた。
『おお、来たか』
「あなたが……カルイザワ社長ですか?」
『そうだ。初めましてだな、シャボン』
「ええ」
あなたにとってはね。
「早速ですけど、文面は見てくれましたか?」
『ああ。だがアレは、どっちで戦うんだ。リアルか、それともそっちか』
はぁ? 現実でファイトするワケないでしょ。――ってか、あたしサボテンだし。
「当然コッチです。コッチで1対1のバトルをやれば盛り上がりますよ」
社長の「はっ」という笑い声が聞こえた。
『面白い奴だな。――いいだろ、明日の正午は空いてるか?』
「大丈夫です」
『じゃあ、新宿の本社前でゲリラバトルだ』
「ありがとうございます! 必ず倒します!」
社長は大笑いした。
『このクビ狙ってる奴は山ほどいるからな。そうカンタンには死なねえぜ?』
「じゃあ、あたしがもらいます」
『おう、楽しみだ』
通話は終わった。
ふーっ……。
あたしはイスに座ったまま、指を組んで前に伸ばした。
さすが社長、すぐに決めたわね。
今、午後6時。残り18時間。
「Eクン、あたし、ちょっと用事ができたから帰るわ」
「え? ――あっ、すみません、シャボンさん」
「いーのいーの。Eクンの世界が見つかってよかったわよ」
あたしは工房のみんなにも挨拶したのち【終了】した。
プライベートルームで、販売できたものを確認すると、半分ほどのカードが売れてる。
「ポイントは、6万弱ね」
ふふふ、ユニットの価値が大・復・活! 嬉しいわ~。
次にあたしは、【開始】して、喫茶「サラマンダーの夜」に行った。
「こんばんは、シャボン」
「銀ちゃん、ずっといるのね」
「君もね」
ほほお、返されたわ。そう言われると、確かにそうなんだケドさ。
「シャボン」
テーブルにはおっちゃんもいた。
「社長との対決は、どうなった」
「ええ、バッチリよ。明日の正午、本社ビルの前で勝負の約束」
「まったく……。お前の周りの時間は速いな」
おっちゃんは苦笑してた。
「で、ここに来たってことは、社長対策か」
「その通り!」
ズビシッと、人魚ちゃんを指差した。
「社長相手には万全を期したいの。あたし、今から『箱』でカードを買うから、おっちゃん達には、足りないカードをトレードしてほしいんだけど」
「なるほど。ついでにデッキ構築もやるってコトか」
「ええ」
千載一遇のチャンスだものね、必ずモノにするわ。
銀ちゃんがパチンと指を鳴らして、テーブルをもう1セット出してくれた。
あたしはそこに座り、購入画面で「箱」を39箱買う!
「おーっ」
おっちゃんたちの驚きの声。ふっふっふ……もう貧弱な少女とは呼ばせないわよ?
あたしは、ドン、ドン、ドンと、3カートンをインベントリから机に出した。そこに、残り9箱と、そしてカエル園長からもらった1箱を追加!
「しめて……40箱!」
うは~~~! 大人買い、超気持ちいいっ!!
本当は、もうちょっと地道にやろうかと思ってたんだケドね。社長との戦いが決まったのに、出し惜しみして負けるとかサイテーよ。一生後悔するわ。
あたしはカードの確認作業を行っていった。――あ、インクの匂い、ちょっと気持ちいい。園長の言うことが分かっちゃったわ。
「シャボン」
おっちゃんが口火を切った。
「魔色だが、何色にする」
「ん~……社長がいつも、何色を使ってるか分かる?」
「まず間違いなく『青』だな」
腕組みするおっちゃんの言葉に、銀ちゃんもうなずいた。
「青で染めるか、あるいは『2×4』かはムズカシイ判断だけどね」
「ああ、カメラの前で戦ってるのが驚くほど少ないせいだな。おそらく、応用の効く『2×4』だと思うが」
ああ、『Two-by-four』ね。ラビちゃんがネイティブ発音してくれたデッキだわ。
「おっちゃん。それって、魔色2を4色そろえて、使える魔法を突っ込んだヤツよね?」
「そうだな」
「なんで青は確実だと思うの?」
「そりゃあ、呪文を拒否するカード、【中止呪文】があるからだぜ」
え?
「それ、強すぎない!? 脱法カードなみのヒドさよ!?」
「弱点はある」
おっちゃんは人差し指を立てた。
「キャンセル系魔法は、相手に触れているか、もしくは呪文の光が見えていることが必要だ。さらに、相手が唱え終わるまでに【中止呪文】を唱えることもせにゃならん」
「ねえ。【中止呪文】を【中止呪文】で消すことはできるの?」
「できるぞ。【中止呪文】の発動自体は一瞬だが、キャンセル系魔法には残滓が設定されてるからな。たいてい1秒だが、そのタイミングで使えばいい」
ほおほお。
「あたしも、その【中止呪文】を唱えられる?」
「まずムリだ」
ぐはぁ。
青の呪文を載せておきます。
【中止呪文/Cancel Spell】
レベル2・青魔法/アンコモン
分類:瞬間
残滓時間:1秒
効果:準備中か、もしくは残滓状態の呪文ひとつを不発にする。
「あたしの前で、魔法が使えると思わないことね!」
――スラヴェナ、イェーディル国第三王女
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