45話目 ヒトってなかなか、自分のスゴさに気付かない
なになに? どういうこと?
Eクンは、銀ちゃんのほうを向いてうなずいた。
「ええ、最初のアバター選択のときに、エディット機能のあるキャラを選んで作りました」
へー、そんなキャラがいたの。ならフツーっぽいけど。
「スゴいよ、E-MIX君!」
銀ちゃんは、目を輝かせてEクンに近寄った。
「すまないけど、ちょっと顔や髪を触らせてもらっていいかな。――あ! もちろん、ヘンな意味は決してないから!」
「え……? い、いいです、けど……」
銀ちゃんが、戸惑うEクンを、まるでガラス細工でも扱うかのように、繊細に触り始めた。
――あ~、コレ、耽美な世界に疎いあたしでも分かるわ。アヤしい銀狐お兄さんの命ずるままに、「笑って」とか「ちょっと悲しんでみて」とか弄られる機械の美少年って、絵になりすぎ。
「E-MIX君、ありがとう」
銀ちゃんはホレボレしたようなため息をついた。
「いやはや……。スゴいね」
「えっと……すみません。何がスゴいんですか?」
Eクンに同意。
「銀ちゃん。あたしも教えて欲しいわ」
「ああ……2人ともVR歴は短いんだね。分かった、説明するよ」
銀ちゃんは、編集作業のさいに使ってた自分の椅子を持ってきて座った。
「E-MIX君は、どうやってアバターをカスタマイズしたんだい?」
「フツーです。用意されてたボディや顔のパーツを当てはめたダケですけど」
あらま。1から作ったワケじゃないのね。
「あたしが聞く限り、Eクンがやったのって、モンタージュでしょ? 簡単っぽく聞こえるんだけど」
「ああ……そう思うよね」
銀ちゃんは、うんうんとうなずいた。
「たしかに、止まった顔は作れる。だけど、この3Dアバターは動くからね。しょっちゅう『不気味の谷』が発生するんだよ」
「あー」
「で、カスタマイズに手を出して、ことごとく挫折するんだ。調整した端から、別の不具合を引き起こしていくことに、耐えられないんだよ」
不気味の谷。聞いたことあるわ。ロボットが人間に近づいていくと親近感を覚えるんだけど、一定の部分まで近づくと、かえって強烈な違和感を覚えるって現象ね。
「E-MIX君には、表情を色々変えてもらったけど……いや、自然だね。自然すぎて気付かなかった。どれくらい時間かけたの?」
「結構かかりました。3時間ぐらいです」
「3時間『で』済んだの!?」
銀ちゃんはEクンの手を握った。
「天才だね! ねえ、君、生産職とか興味ある? とくに、ユニット造形でその腕を使ってくれたら、天下獲れるよ!」
「え……えっ?」
おいおい、Eクン困ってるでしょ。
ペチッと叩いてやった。
「銀ちゃん、早まりすぎよ。なんか興奮してるのは分かるけど」
「いやあ……ごめんごめん」
銀ちゃんは苦笑した。
「達人って、自分のスゴさに気付かないんだねえ」
へえ、そんなものなのね。
かくして、銀ちゃんに、新宿東口の鍛冶工房を紹介された。
「うわっ! スゴい子が来たよ!」
入るなり、Eクンがワッと囲まれる。
「うっひゃ~、銀から言われなきゃ気付かないよ~。出来が良すぎてスルーしちゃうもん!」
「カッコいいわ~。カスタマイズの仕方、教えて!」
「こっちの技法もどんどん取り入れていいから!」
多くの人に囲まれて、Eクンはワタワタしてた。でも、次第にみんなが落ち着くと、やり方を説明してあげてる。
「えっと……。僕は絵がヘタで、モンタージュを合わせる手法だったんですけど……」
「それがスゴいから! どんだけの人が不気味の谷にやられたか!」
うわ~、ほめられてスッゴク照れてる。でも、嬉しそう。うんうん、認められて良かったね。
お話が盛り上がってるようなので、あたしはみんなの作ったユニットを見せてもらってた。――あ、ショタゴブリンやショタスケルトンを発見。さっき見たのとは別バージョンね。色んな人が色んなバージョンを製作してるみたい。
んー、いっぱいいるし、見てても全然飽きないわ~。
――飽きた。
すみません……あたしにこの環境はキツかったです。
みんな、スッゴク優しいんだけどね。一通り見ると、やることがなくなっちゃったのよ。
Eクンは、お目々キラキラさせて工房に馴染んでる。はー、ココが合ってたのねえ。
視線に気付いたのか、Eクンが焦った様子でこっちに来た。
「すみません、シャボンさん! なんか、僕だけハシャいじゃって……」
「いーのいーの。あたしも、ユニット創作にチャレンジさせてもらってたし」
Eクンはペコペコしてから、みんなとの創作談義に戻った。
実際、ゴブリンを【変身】の魔法でアレンジしてたの。ンでも、スライムがグズグズに溶けたみたいになったから止めちゃった。
教えてくれたリスの女性が曖昧に笑う。
「これは……レーティングエラーですね」
げふぅ、グールの共食いすらセーフだったのに。よもやあたしが、異界の神を産み出してしまうとは。
せっかくなので、持ってる【ゴブリン】に保存した。3日で飽きる謎オブジェにしましょ。
その後は、ここのリーダーのリスリスさんにサインをお渡しして、それと引き換えに、動画投稿の仕方を教わってた。
「はい、シャボンさん。これが一番カンタンだと思いますよ」
「ありがとうございます、リスリスさん」
あー、流石クリエイターさんたちだわ。発表できる場所のアクセスから流れまで、慣れてるから超分かりやすい説明。
というわけで、無事にあたしとラビちゃんの勇姿を投稿することに成功したのでした。ポチッとな。
そしてまた、活気あふれる工房で、のんびりとみんなの創作活動を眺めてた。うお、向こうでシルクハットの猫さんが竜作り出したわ。
「リスリスさん。みんなスゴいですね」
「え、どうしてですか?」
「だって、こんなに可愛かったり、カッコよかったりするユニットを作れるんですから」
「ありがとうございます」
リスリスさんは深々と頭を下げてくれた。
「私たちも、シャボンさんみたいなスゴい人からほめてもらえると、とても励みになります」
「――え?」
慌ててプイプイと手を振った。
「いえいえ、あたしは単に、大地の竜をラッキーで倒せたダケですし。みんながお膳立てしてくれてたのを、オイシイ所だけいただいた感じで」
「まあ、そんなご謙遜を」
「フツーですって、あたしは」
「あら、それはダウトですよ」
リスリスさんは、茶目っ気たっぷりに、銀ちゃんが投稿した動画を見せてくれた。――うわ、再生数がスゴい伸びてる。社長のサプライズイベントだし、かなり伸びたわね。
「ここのコメント欄、見て下さい。ほら」
「はあ」
リスリスさんが、指を差してコメント表示を開いてくれた。
「な……なにコレ~!?」
とんでもない称賛の嵐に、あたしは目を疑った。
新たなユニット造型に使われている呪文です。
【変身/Polymorph】
レベル4・青魔法/レア
分類:一般
準備時間:5秒
能力:ユニットの外見を変更する。
「なんにでもなれるのよ。あなたが望むのなら」 ――ヴェスパーの歌姫
231/350




