38話目 天使「モフモフは癒やし!」
ウサギのラビちゃんと握手して、しっかりフレンド登録を交わしたあたしは、いっぺん【終了】して小部屋に戻ったあと、すぐに新宿西口から【開始】した。
ラビちゃんも、わずかに遅れてやってくる。
「シャボンさん。来ました」
「よし。じゃあ行きましょっか」
みんなは大人バージョンらしいけど、アバターを変えるのは30分掛かるらしいのね。だから、ラビちゃんは子供バージョンのままで登板。
つ・ま・り……なでやすい位置に耳があるのよ~! あ~、モフモフ気持ちい~!
「あ、あの……ちょっとくすぐったいです……」
「はぅ、ゴメン」
おっとと、ハマりすぎには注意ね。
さて、一緒にやってきたのは東京湾。アクアラインの真ん中にある、海ほたるパーキングでした。
「お姉さん……ここって……」
「ええ、ブラックドラゴンのダンジョンよ」
尻込みするラビちゃんをナデナデする。
「大丈夫、今まで何人もがここの竜を倒してきてるし。楽勝よ」
竜は全部で8匹いて、すでに知られてるのは4匹なんだって。とくにここは、目立つからスグ分かったんだとか。
豪華客船みたいな形で有名だったけど、マホロバだと本当に巨大な船「グレート・ファイアフライ号」になってた。船の最上部……っていうか、元々は駐車場だったエリアに大きな魔法陣があって、その中では風が弱い。
魔法陣の南側からは、光のスロープが伸びてて、目と鼻の先にある大きな祠へと続いてた。入り口がポッカリと開いてるから、ちょっと高波があったら海水で沈みそうなんだけど、その辺はゲーム的処理でセーフみたい。あたしももう溺死はイヤだし、ナイス判断よ。
今は空いてる時間なのか、ここにダンジョンアタックする人はあたしたちダケみたい。
「ラビちゃん。あたしの魔色は緑5の黒3だけど、ラビちゃんの色は?」
「えっと……青、白、銀、紫が2つずつです。『Two-by-four』ってデッキを真似て作りました」
おっと、ネイティブ発音。バイリンガルね、ラビちゃん。
「お姉さんに、デッキを見せてもらってもいいかな」
「はい」
お互いにスロットのカードを確認。おっと、【巨大な盾】30枚。うんうん、授業で使ってたもんね……あら?
「ラビちゃんのデッキってば、ほとんどユニットがいないのね。お姉さんの領土が【ガイア】だったから、マナ0で出せるのに」
「す、すみません……」
「あっ、ううん。責めてるんじゃないわよ?」
慌てて手を振った。
「サポート呪文がいっぱいあったし、すっごく頼りになりそう」
うん、把握しきれないほどね。
「お姉ちゃんがラビちゃんへの攻撃を防ぐから、ラビちゃんは、お姉ちゃんを呪文で守って。ね?」
「はい」
キュッと口を結んで、コクンとうなずくラビちゃん。はぅ~、いじらしいわ。
早速ラビちゃんは、小さな杖の先端に銀の光を集めた。ふわっと弾けると、銀色のセパタクローみたいな球体が浮かんでる。
「ラビちゃん、このユニットはなんて言うの?」
「えっと、【衛星球】です。これを飛ばして、先のエリアを確認できます」
「おお~、スゴ~い。録画もできる?」
「はい」
ふむふむ、【雄蜂の斥候】の銀色バージョンってトコね。
「ンじゃ、あたしも展開するわね」
【紡ぎグモ】を3体前に配置。そして、【雄蜂の斥候】を1体、後ろから撮影させる。
「ふっふっふ……。このドローンくんは、あたしたちの勇姿をバッチリ収めるという使命があるのよ!」
「えー……?」
「よし、ラビちゃん。ドローンくんに向かって、ポーズ! レッツ・ゴー!」
「お……おー」
きゃぅ~ん、大きく拳を突き上げるポーズもカワイ~!
――ええ。ダンジョンではマジメにいきますとも、ハイ。
ひんやりした細長い洞窟を、ラビちゃんと連れ立って歩く。光源はなさそうなんだけど、やっぱり視界はきくという謎仕様。
あたしが喚びだしてるクモちゃんズとドローンくんは、ラビちゃんを護衛するシフトにしてる。
――お、左に折れ曲がってるわね。
先行した【衛星球】が、突き当たりをふよふよと横に入ると、途端に「ガキン!」って音がして銀の光が弾けた。
(ラビちゃん)
そっと念話を送る。
(もしかして、【衛星球】がやられた?)
(は、はい)
とすると……。
(ここからは、敵のエリアってワケね)
インベントリからレーヴァテインを出して構える。
(ラビちゃんはクモちゃんズの後ろに)
(はい)
フフフ……。まずはラビちゃんに、頼りになるお姉さんっぷりを見せてあげるわ。
ガサガサと音を立てつつ出てきたのは、デカいハエみたいなユニットだった。羽はないけど、体長50cmぐらいある。
「うげ……」
あ、目が合った。向こうは複眼だけど、こういうのって分かっちゃうモノよね。
ソイツは、体勢を低くしてダッシュしてくる。
「ヤバッ!」
予想以上に速い! でも、なんとか対処可能!
すぐさまレーヴァテインを振りかざした。
ガギン!
「え」
洞窟の壁にブツかった。
「しまっ……!」
ガブッ!
「ギャー!!」
「お姉ちゃん!」
「大丈夫! ダメージは問題なし!」
すぐに杖を短く持って……打つべし! 打つべし!!
パシュッ!
幸い、ハエ型モンスターは弱かった。
「けど……うげぇ~」
キモい奴に引っ付かれると、精神的にクるわね……。不潔そうだったし、ヘンなビョーキ持ってないでしょうねぇ?
あたしはラビちゃんを見た。
こういう時こそ、モフモフで癒やしたいけど……。うぅん、「奴に触ったあたし」がラビちゃんに触るのが、どーしよーもなくイヤだわ。
「あ」
そこでラビちゃんは、何かに気付いた素振りを見せた。
「もしかして、呪文ですか?」
「ん~、ちょっと汚れをなんとかしたいけど、そういうのってないわよねぇ……」
「大丈夫です、あります」
「え?」
ラビちゃんは、小さな杖の先に銀の光を集めて、あたしにトンと付けた。光が弾けると、あたしの服の汚れが元通りになる。
「【清掃】って呪文です。汚れは、時間が経てば元通りになりますけど、これだとスグにキレイになりますよ?」
お、おぉぉ……!
「ラビちゃん!」
「わぷ!」
「ありがと~!」
あたしは存分にモフモフした。
いい仕事をした呪文を載せておきます。
【清掃/Clean】
レベル1・銀魔法/コモン
分類:一般
効果:きれいにする。
夜眠る前、小人さんのために食べ物を用意するんだ。
それから掃除を頼むと、朝になったら家がキレイになってるのさ。
でも、ご用心。
気に入った食べ物じゃないときは、前より散らかっちゃうからね。
――サイロンのおとぎ話より
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