35話目 そして電脳天使へ
その後、続々と戻ってきた被害者の会のみんなに、アイテムを返していった。
「正直、無くなってると思いましたよ。それでも、竜退治に参加できるとか嬉しいじゃないですか」
とりわけ、白馬ヘッドさんからは嬉しがられた。えへへ、コッチも嬉しいわ。
――そうそう、【大地の竜】もみんなでゲットしたものだけど、MVPだからって、みんなあたしが持つようにって言ってくれた。んー、大人だわー。
あ、その代わり、倒してた【嵐の翼竜】は、みんなに分配したわよ。多分だけど、実用的なのはこっちね。
【魔力視覚】って魔法をかけてもらって、あたしたちは更に入念に忘れ物チェックをやった。
ゴゴゴゴ……。
「あ、ビルだ!」
誰かが気付いて、あたしも見上げた。
巨大なカルイザワビルは、ゆっくりと着地して、元通りの位置に収まる。
んーむ……悔しいけど、サプライズの企画としては上々よね。被害者が増えてるけど、あの社長は大笑いしてそう。
あたしたちは、ビルの前で「社長のバカヤロー!」コールをしたあと、ビルの1階受付で、残りのアイテムを預かってることを伝えた。それと、映像も投稿してね。この辺は、おっちゃんと銀ちゃんが手慣れてたんでお任せモードよ。
ンで。
被害者の会のみんなと別れたあたしたち3人は、喫茶「サラマンダーの夜」にやってきた。
アイスが椅子に座ると、指を弾いてコーヒーカップを出す。
「シャボン、1円うんぬんってのは何だ?」
「それはね……」
丁寧に答えてあげると、大笑いしてた。
その後、おっちゃんはちょっぴり居住まいを正す。
「シャボン、お前を巻き込んじまったな。スマン」
「ううん、おっちゃんたちこそ、あたしを助けるためにカード開発のことをバラしちゃって良かったの?」
「ああ、どうせ俺たちが対策カードを作ってるのは、奴らの上の連中も知ってるだろうしな」
銀ちゃんも、映像にアフレコを入れつつうなずいた。
『あ~っと、天使危ない! ――いや、セーフ、セェーーフ。【巨大な盾】発動! これで5枚目! ギリギリうちの人魚が、【悪魔の契約】でクールタイムを解いてました。いやはや、憎いね~!』
あらま、ノリノリね。ちょっとキャラも変えてるし。
あたしはアイスにほほ笑んだ。
「おっちゃんたちと関われてよかったわ。対策カードを作ってる側とか、メチャクチャすごいじゃない」
「大したもんじゃないぞ」
「けっこう大規模だと思うけど、会社ぐるみ?」
「んー、ダメな大人どもが勝手に集まってるダケと思ってくれ」
お、ちょっと含みがあるわね。おっちゃん、こういう質問にはYESかNOかハッキリ言いそうだから、ぼかすってことはYESだわ。だけど、それを言えない立場と。
「おっちゃんたちは、このVRがうまく存続してほしい?」
「そりゃ無論な」
アイスはうなずいた。――あ、銀ちゃんも。どっちも銀髪だけど、銀ちゃんは黒っぽくて、アイスはちょいブルー入ってるわね。
「俺は、善人が泣きを見るようなシステムは良くないと思ってる。だから、みんなが安心して利用できるような仕組みを構築したい。そのために、オリジナルカードを作ってるんだ」
おおう、理念がまぶしいわ。なんてゆーか、少年社長よりもよっぽどゲーム会社の社員っぽいわね。
ンでも……良かった。方向は同じみたい。
「あたし、ここの喫茶にちょくちょくお邪魔していい?」
「ああ、いいぜ」
アイスは銀ちゃんを指差した。
「だが、銀には気を付けろ」
「なんで?」
「コイツ、しれっと動画投稿してるからな。お前も無許可で撮られてるぞ」
「えぇ~。出演料もらおうかしら」
「おお、もらっとけもらっとけ」
銀ちゃんは苦笑しつつも、作業の手は止めなかった。――あ、コッチ見たわ。
「私は、シャボンが本気で望むのなら、キチンと契約を交わすよ?」
「アハハ、ないない」
手をプイプイする。
「お金は取引を円滑にするためのものであって、ギクシャクさせるものじゃないわ。もし、銀ちゃんが動画で大儲けするようなら、あたしに還元してくれるでしょ」
「信じてくれて嬉しいね」
「それに」
あたしはアイスに視線を向けた。
「銀ちゃんがあくどいコトしたら、おっちゃんが教えてくれそう」
みんなして笑った。
「あ、そうそうおっちゃん。【眠りの竜】、無事倒せたわ」
「マジか。お前、コレで3匹目か? ハイペースだな」
「ふっふっふ……順調にドラゴンバスターの道を歩いてます」
「【緋色の竜】のカードはどうする?」
「う~ん。できれば、交換したままでお願いしたいかな~って。好きに処分してくれて構わないから」
「分かった。じゃあ、預かっとく」
「――ん、ありがとう」
甘えちゃってるわね~、あたし。おっちゃんには、いずれキチンとお礼しないと。
「ンじゃ、おっちゃんからもらった緑のレア4枚と、杖のレーヴァテインは、そのまま使うわね」
「ああ」
あたしはお別れを言ったのち【終了】して、小部屋へと戻った。
「エイホウさん。現実のサボテンってどうなってる?」
『栄養入りの水分を、適切に自動で補充しております』
「ありがとう」
サボテンとしての生命は続くっぽいわね。大富豪さんに見つかって、あっさり終わってもおかしくないケド。
いつまで出来るか分からない。
でも、だからこそ、いつ終わってもいいように全力で生きる。
その瞬間まで、電脳天使として頑張ろう、うん。




