19話目 トカゲ「コモンです」
クマのベアクローは、怪訝な顔をした。
「はぁ? ――って、なんだ、NPCか」
あらら、いきなりデメリットが前面に出たわね。
手でプイプイと否定する。
「いいえ。あたしはプレイヤーです」
「え?」
ベアクローは、ますます眉間にシワをよせた。
「なんの……用ですか」
「ええっと、そのカードですけど~」
【地震】を指差してやる。
「これって、少年クンが持ってたカードですよね? ――そうでしょ、えーっと、E-MIXくん?」
「は、はい」
首振り人形のようにブンブン振る美少年。艶やかな黒髪がぴょんぴょんハネてる。
「僕が、ベアクローさんと、トレードしようって出してたカードです」
「ま~あ」
ワザとらしく、口を覆ってみせる。
「それで、E-MIXクンの変えてもらったのは、【巨大トカゲ】だけなのぉ?」
「え……えっと、1対1交換だし、いいと思ったんです、けど……」
戸惑う少年から視線をズラしてやると、クマのおっさんは明らかにキョドってた。
「お互い、納得してトレードしてたんだぞ? 大体、外野が口出すんじゃねえぜ」
ま、本来はそうだけどね。
「え~、でもでもぉ、【巨大トカゲ】ってコモンですよ~? こっちの【地震】って……あ、ほら、レアじゃないですか~」
カードにバッチリ書いてあったわ。
タダ同然のコモンと、1枚1000円のトレードとか。
限度があるわよ、おっさん。
おっさんは、明らかにイライラしてた。
「シャボンって言うのか? コイツも……いや、彼も、嬉しそうだったし、いいだろ?」
ほほぉ、謝罪なしですか。
フザけないで。
「まだ、トレードは成立してませんよね?」
「はぁ?」
「あたしが代わりに持ちかけます」
有無を言わさず【地震】を回収し、E-MIXクンの持ってた【巨大トカゲ】と取り替えた。
「ねえ、E-MIXクン。あたしなら、【巨大トカゲ】を2枚出せるわ」
「え?」
「あー、それに、【エロス】2枚に【蜘蛛の糸】2枚……ううん、緑のコモンを2枚ずつ出せる。合計40枚!」
「そ、そんなに!?」
「そうよ。だってコッチの元手はタダだったもの」
E-MIXクンの動きが止まった。
「え? ――タダ、なんですか?」
「そうよ。コモン同士で変えてもらったわ。別の、いいおっちゃんとね」
クマさん、あなたとは違うんです。
ベアクローは、舌打ちして席を立った。おー、2mぐらいあるわ。
「言っとくが、俺はオドしてねえぞ」
「ええ。だけど、『語るべきことも語ってない』わよね」
情報の非対称性ってヤツ? たいてい、売り手側が詳しくて、買い手側はよく知らないのよ。
順調な業績ってコトを電話で確認しても、虚偽記載で一発KO……あー、イヤなこと思い出したわ。
あたしは周りを見回した。依然としてガヤガヤしてる。
「もっと大っぴらに騒いでも良かったんだけど、それは止めておくわ。意外にあなたが冷静だったのと、E-MIXクン本人も応じてたからね」
「――そりゃ、どーも」
クマのおっさんは、あたしをニラみつけたのち、のっしのっしと部屋から出て行った。
席についてるE-MIXクンが、あたしを見上げる。
「え、えっと……シャボンさん?」
「なあに?」
「その……【地震】のカードって、価値があったりしますか?」
「ん~、分かんない。ちゃんと、自分で調べて」
E-MIXクンは、ステータス画面を色々と操作したのち。
「あ」
思わずって感じの声を漏らしたあと、立ち上がった。およ、あたしよりもちょっぴり背が高い。
「シャボンさん、ごめんなさい」
ペコリと頭を下げられる。
「【地震】のトレード、無しにしてもらっていいですか?」
「ええ、いいわよ」
「ありがとうございます」
ペコペコ。
「それと、さっきベアクローさんとのトレードを止めてくれたのも……」
「あれは気まぐれ。カードの価値は、ちゃんと調べてからの方がいいわよ?」
「ありがとうございます」
握手を求められたので応じると、やっぱりフレンド登録が出た。とりあえずYESにしときましょ。
「シャボンさん。ご恩は忘れません」
「重く考えなくていいわよ。じゃあね」
は~。トレードに来たのに、なんかそんな気分じゃなくなっちゃったわ。
あたしはクールに部屋から去ることにしたのでした。
「さてと、しばらくブラついてみましょっか」
新宿西口から南のほうへ向かってみた。もちろん、バサリと空を飛んでね。
「おお~……絶景かな」
自分自身がドローンになった感じって言うの? 今までダンジョンだったから、開放感がスゴいわ。
スグ手前に甲州街道があって、角にはファーストフード店。バスターミナルの建物に、タイムズスクエアまで見える。
「おい」
突然、声を掛けられた。
振り向くと、クマのおっさんも天使の羽を生やして飛んでる。
「お前な、エモノを横取りすんなよ」
うわあ……何様のつもりなんだか。
「ベアクローさん。あなたがやってたのは、相手を泣かせるトレードよ」
クマは忌々しそうに舌打ちした。
「フザけんなよ……サボテン?」
「!」




