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二十七話 幸運と未知存在

 あまりに遠い為シルエットしか見えない、巨大な影。月明かりに照らされた不気味なそれは、ゆったりとした速度でこちらへ近づいてきていた。雑魚の群れのそのまた奥に位置するソイツを見張り台に設置してあった望遠鏡で観察し、1人うなる。


「やっぱり来たかボスクラスー……。辛うじてマウンテン級ではないけど、かといって初心者であれの相手を出来るかというと、それはまぁ無理があるっぽいしー……」


 深々とため息をつきながら巨大な影の正体を推測、展開中の防衛作戦をどう変更するか、打っておくべき手は無いか、次善の策を考えてみる。とりあえず私が出張らなければどうしようもないのは確定として、問題は、私自身の戦闘力はさほど高くない事だ。

 ……前にこの事を言った時、あの4人を始めとして知り合いのほぼ全員に揃いも揃って否定されたのはともかくとして、単一の戦闘力で換算した場合、平均より若干強いかどうか、というのは確かだろう。もちろん『Free to There』終了時点が基準なので、今の初心者達と比べれば十分な戦力ではあるだろうけども。

 しっかし、羽ばたかずに飛ぶ奴なんて記憶にないのだけども。あれか、『Fragment of "The World"』になってから新規で追加された新しいボスか。

 反重力とか空気より軽い気体を溜めるとかそんなんか。周りの手下がうざい位周囲を回ってるのは進む為の風を作る為か。


「しかし、うざいなー……もし空気より軽い気体方式だったら自爆を持ってる可能性が高いから近距離は危険だしー、逆に反重力だったらバリア系もってる可能性高いから遠距離は効かないしー、どうしたもんかー」


 どちらにせよ一度魔法なり剣なりで殴ってみない事には何も分からないが、相当に警戒しておかなければまずいだろう。最悪、対処が遅れたがためにあいつ一匹に町を蹂躙されるという可能性もある。……そんなモンスターがサービス開始初日から登場するあたり、やっぱり『Fragment of "The World"』のゲームバランスはおかしいと思う。

 とか何とか、ぐだぐだと考えていると――



 望遠鏡で眺める先の巨大な影が、ぐにゃりとその形をゆがめて宙に溶け消えた(・・・・・)



「なぁ!?」


 思わず望遠鏡に顔を押し付けてその周囲を見回すが、どこにもあの巨大な影は見当たらない。望遠鏡から目を離し、自分の目で全体を見回してみる……が、間の悪い事に月に雲がかかり、全く視界が効かなくなってしまった。

 頭の中で鳴り響く警鐘に従って素早くフレンド一覧を表示。そこから5人一組にしたグループのリーダーに任命した新人達と、ディーグ達4人、フォスカーを選んでチャットを繋いだ。


「飛行モンスター群のボス格がいきなり姿を消したよ-! 何してくるか分からないから、周囲に厳重に注意してー! 5人組の方は防御態勢を取って後退ー!」


 それだけ言って見張り台を飛び出し、チャットは繋いだままガランと人の気配のしない町を駆ける。


『は? 消えただと?』

『また面倒そうな気配がするなぁ』

『もう少し具体的に述べてもらいたいものだな。そう、具体的にというからには、』


 ディーグ、トーレ、フォスカーの順番で流れてる声を聞き流し、『八方守護陣盾』をアイテムボックスから取り出して背負うようにして持つ。


「後退した5人組に追加指示、花火の射出場の防御に参加して守りきる事ー! 何がどんな形で襲いかかってくるか分からないから、十分気をつけてねー!」


 それに対して『了解!』『了解です』等々帰ってくるのを確認し、ようやく私は町の外に出た。上を見上げても真っ暗で何も見えないが、まだまだ狩りつくせない程多くのモンスターで蠢いている筈だ。これを (しばらくとはいえ)私1人でなんとかしない事にはどうにもならないだろう。


「……ねーディーグ。そっちまだ終わらないー?」

『緊急そうだからペースは上げるが、あと10分くれ』

「りょーかいりょーかい……はぁ、その間は1人で相手しなきゃいけないのかー」

『文句言うな』

「るっさい戦闘狂ー」


 期待を込めてチャットで話しかけてみるが、つれない返事しか返ってこない。10分で殲滅しきれる自信があるのは本来ならすごい事なのだが、ペースを上げる、という発言の通り、ディーグ達はほどほどに手を抜いて楽しい戦闘を長引かせていたので、慣れた今ではあまりすごくも嬉しくもない。

 それに、基本的に私のような中堅プレイヤーは(こう言っても何故か思いっきり否定された)自分の実力や切り札は隠す物だ。手順さえ踏めば戦争やPvPが基本的には何のデメリットもなく(もちろん勝敗によって受けるものは別)仕掛ける事が出来た『Free to There』。VRとしてリニューアルした『Fragment of "The World"』でも仕様は変わっていないだろう。

 ディーグ達のような戦闘狂はともかくとして、私のような平和主義者はできるだけ自分の手札を秘匿し、その読め無ささで身を守るのも一つの術だ。


「ま、とはいえ時と場合ってもんがある訳でー、今回の場合は不可抗力だよねー、うん」


 はぁ、とため息をひとつついて、暗闇に沈んだ空を改めて見上げる。繋ぎっぱなしのチャットに向かって声かけを1つ。


「フォスカー、閃光弾よろしくー」

『ふ、無論だ。目がくらんで敵共々戦闘が出来ぬ程の光量の物を使っ』

「いや、うん、ほどほどで頼めるかなー」

『注文の多い奴め。仕方ない、視力の良すぎる鳥どもだけが視力を失う程度の微光量のものを使』

「早めに頼めるかなー、町が落ちそうで気が気じゃないんだけどー」


 そこまで注文してチャットを一方的に切断する。あの喋り好きに付き合っていたらただでさえ少ない時間が完全に無くなってしまう。そうすれば町が落ちる訳で、多少強引でもこのほうが平和なのだ。ちなみに平和になる中には私の精神状態も含まれていたりする。

 巨大な盾を構えて羽ばたき、『始まりの町』を囲う壁の少し上あたりに滞空して暗闇を睨む。数秒後に上空でいくつかの閃光が走って、多少はまばらになったモンスター達を魔法の光が照らしだした。


「……ん?」


 ふとその中に不純物がある気がして目を凝らす。同時に、こんな状況前にもなかったか、と、ボスクラスが消えたあたりから引っかかっている違和感を頭の中から引きずり出してみて、


「……………………」


 出てきた答えともいえない答えに、私はとりあえず、身構えた。

 えー……更新まで時間がかかった癖にあまり進んでません、ごめんなさい;

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