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幕間 競う者追われる者

 いつ何度見てもフォーのステータス配分は偏り過ぎだ、と、ルガードの中の人はせっせと雑魚を駆逐しながら考える。

 今振っているあのハルバード。本来ならばレベルがもう30は上のキャラでないと扱えない筈なのだ。それを重量制限すら受けずに、つまり軽々振り回していると言う事は、いくら筋力値(STR)に大きなボーナスがつく竜種だと言ってもあり得ない。

 つまり、レベルアップのステータスボーナスを全て筋力値(STR)につぎ込んでいるとしか考えられない訳だが……そうなると、所謂ビルドエラーというものになる筈だ。が、こうやって画面の中で動くフォーを見ていると、どうもそうは思えない。

 画面のこっちで首をひねる中の人。その間もルガードを操作する手は止めず、気が付けばさっき湧いてきた雑魚の群れは綺麗に片付いていた。


「やはりスピードが変わるな」

「そうだねぇ。フォーちゃんもういっそ僕らの永続パーティ入っちゃえばいいのに」

「ごめんなさいー。ギルドが違う人はちょっとー……町もまだ軌道に乗ってませんしー」

『いやマジな誘いなんだけどねぇ?』

『絶対お断りだってのー。フォーをあんたらみたいな戦闘狂に預けられるかー』

『戦闘狂はないだろう、戦闘狂は……』


 キャラ同士の会話はそれぞれの頭の上にフキダシが出る事で行われ、中の人同士の会話は左側に開いた専用枠で行われる。その両方に忙しく返事をしながらなおかつ戦闘をする訳だが、3人とも程度に若干の差はあれど廃人なのでその程度は簡単だ。


「でも神様、今回はどうしたんでしょうねー?」

「何がだ?」

「あぁ、確かに。やたらと武器防具の類が多いから気にはなってたんだよねぇ」

『ちなみに戦争頻度の上昇フラグだと僕は見ているよぉ』

『冗談じゃないな……』

『え、汚れ堕ちた混沌神の実装フラグじゃなかったっけー?』


 洞窟型ダンジョンを快調に進みつつ、キャラと中の人でテンション差のある会話を交わす。

 話題は今やっている、アイテム収集型年末年始イベントの景品について。雑魚がそこそこの低確率でドロップする“不思議な花”というアイテムを集めて各町に設置されたNPCに渡せば、その数に応じて記念品がもらえる、良くあるパターンのもの。

 ただ、上位10ランクの景品には数に限りがある事と、そのランクの物を手に入れようと思うと数千個~数万個のアイテムが必要な事が特殊と言えば特殊である。あくまでもドロップする確率は、そこそこの低確率、なのだ。

 なので上から2ランク目のアイテムが欲しい中の人は、イベント開始日からずっとルガードにあちこちのモンスターを乱獲させていたのである。そのせいでフォーの中の人の怒りを買ってしまったが、比較的軽いものだったので問題無し。

 それでも情報交換は大事。普段と違うラインナップである記念品の事も気になっていた為に会話していた訳だが、途中でさらっとフォーの中の人が言った言葉に、思わず一瞬手が止まる。


「どうしましたー?」

『どしたんー?』

「いや、何でもない」

『ちょっと待て、本当かそれは!?』

「あはは、気を張ってるルガードにしては珍しいねー」

『いやいやいや、そんなさらっと言っていい情報じゃないでしょそれぇ!?』


 ほんの一瞬とはいえ動きの止まったルガードに、フォー(と中の人)が疑問の声をかけてきた。ルガードで普通の返答をしつつ、中の人相手には思わず驚きの声を返していた。ワイズの中の人も同感だったようで、1秒後に同様の声が文字として現れた。

 フォーが頭の上に“?”のアイコンを出したその数秒後、回答が。


『へ? いやだって、達人達の寄り合い掲示板に書いてあったよー? あの堕神の伝承に関する文献のドロップ率が上がって来たってー』


 達人というのは、このゲーム『Free to There』のデータベースサイトを作成・管理している職人気質のやり込み派ゲームプレイヤー達の事だ。いくつかのギルドに分かれて時に協力し時に競い合いながらこの世界のありとあらゆる情報を集めている彼らは、その情報の精度と速度に定評がある。

 その達人達が最新の情報を持って集まるのが、先程話に出てきた電子の世界の掲示板だ。中には未検証だったり不確定だったりする情報も集まるが、それでも信頼性は高い。

 そして伝承に関する文献というのは、この世界にシステムとして存在する神、その中でも隠れていたり出現に条件があったりする高位神に関する情報が記されているアイテムである。伝承自体は他にNPCの語り部なんかがいたりするが、太古の時代の神ともなると、レアモンスターが極稀にドロップする文献にしか存在が記されていないモノがほとんどだ。

 その中でも、汚れ堕ちた混沌神、というのは別格。始まりに存在していた中で最も性質が悪く、それ故に他の始まりに存在していた神によって厳重に封印された、そういう伝説をちょっと知識のあるNPCなら誰でも語れるほどに有名な一柱である。


『……ま、まぁ、そんな存在の加護ってすごそうだよねぇ』

『……た、確かにな。デメリットもあるだろうが、その分見返りが大きそうだ』

『あー、更に絶望させて悪いけどー、どーも大襲撃クエのランダムボスに配置されるっぽいんだよねー』

『…………達人達が再封印の方法を見つけてくれるのを祈るしかないねぇ』

『…………そうだな』


 テンションがフォーの中の人のせいで大幅に引き下げられるが、それとは関係無しにキャラ達は歩みを進める。また1つモンスターの群れを突破すると、ひときわ豪華で大きな鉄の扉が目の前の壁に埋まっていた。


「……誰だ、この典型的なトラップに引っかかったのは」

「さぁ? とにかく、ものすごく迷惑なことには間違いないねぇ」

「困りましたー……これじゃ入れませんよー」


 扉の数歩前の所が、天井から落ちたらしい岩で完全に埋まっていた。



 後書きを忘れていました(汗

 それでは皆様、よいお年を!








 ……元日にも更新しますが、予約投稿です;

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