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十六話 幸運と働く者

『クー様っ、魔陣殲滅隊(ニオビウス)および呪術補完隊(カルドミウス)、配置完了しました! 危険ですので一度離脱してください!!』


 とりあえずウリアムーチ相手に燃え盛る『マルチキラー』で奮戦していると、頭の中にリグルの声が響いた。テレパシーのようなこれは確か、個人指定のささやきチャットだったか。

 その声に『了解了解ー、あと一撃技あり入れたら町のほうに逃げるー』と返答し、『マルチキラー』を手の中で回して持ち直す。そのままウリアムーチの足元 (?)に滑り込むと、


「重量級汎用アーツ其の一、」


 左下に斧頭を向け、ヒットするところに備えられているのは鉤。右上に振りぬきながらアーツを発動する。


「『チャージクラッシュ』!」


 本来の扱いからすれば威力半減もいいところだが、私の偏りまくった筋力値(STR)はただのはずれでは終わらせない。鉤で引っ掛けたウリアムーチを、文字通り力任せにすくい上げる。


 結果、苔色の山は、きれいにひっくり返った。


 私はそれを確認する前に翼を一打ちして加速し、町の壁近くまで避難していた。重すぎる落下音の後に残ったのは、どことなくあわあわしながら巨体をゆすっている、おわんの形の何か、だ。

 それを眺めながら、私はささやきチャットに合図を出した。


『退避完了ー。両隊、加減なしの盛大にやっちゃってー』


 合図を出したのは、魔法使いで編成された部隊の中でも手間暇惜しまず大火力に特化した魔陣殲滅隊(ニオビウス)。 そして+-関係なく補助系魔法に特化させた呪術補完隊(カルドミウス)

 一応うちの町を守る守衛軍の中で、一番被害の大きくなる、じゃない、瞬間最大範囲・最大火力を叩きだす組み合わせだ。

 あの組み合わせで一度魔法を――呪文を唱える(スペル)系統ではなく、魔法陣を描く(ライティング)系統の、だが――連射した時は、一面が荒野になって何一つ残らなかった。前線を保つために前へ出していた別の部隊を呼び戻すのがもう少し遅ければ、彼らも間違いなく消し飛んでいただろう。

 そんな物を、本気を出して時間をかければ私1人でも倒せるウリアムーチに向けたらどうなるか、というと。


 ヒュルルルル……と合計5つの炎弾が等間隔で打ち上げられた。

 曲線を描いて落下軌道に入った小さな小屋ほどもある炎弾はウリアムーチに当たる直前でぶつかり合って融合。

 念のために『マルチキラー』を『八方守護陣盾』に持ち替えて正面に構えた所で、

 着弾。


 ッドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


 比喩も何もなく、文字通り天をも焦がす巨大な火柱が立ち昇った。防御力のみが取り柄の大盾『八方守護陣盾』を構えてしっかりガードしているにもかかわらず押し寄せる熱気は焦げてしまうかと思う程。

 火柱はそのまま数秒立ち昇り続け、唐突に火の粉を散らして消滅した。私はさらにそこから数秒待って、構えていた大盾をアイテムボックスにしまいこむ。

 そして再び見えた景色の中にあったのは、完全な消し炭と化したウリアムーチの残骸だった。

 魔法陣を描くのに時間がかかるとはいえ、たった一発の魔法でこの通り。呆れ3割感心3割、誇らしさ4割で思わず呟いた。

 

「……あいっかわらず凄まじい火力してるなー」

「あれを編成したのはお前。というか、どこに雲隠れしてたこの行方不明者」


 そんな複雑な感慨にふける私の背後から、妙な言葉遣いでぐさぐさ口撃してくる誰かが1人。とはいえ聞き覚えのあり過ぎるその口調で初めて聞く凛々しくもまだ幼い男の子の声に、私は後ろへ振り返りつつ反論した。


「グラキア。君、毒舌に磨きがかかってるよー。この100年で君に何があったのさー」

「どこぞの阿呆が行方不明になって、事後処理に追われて暇なし休み無しの仕事三昧」

「あー、そりゃごめん、悪かったー」


 ピンと立った犬耳、クルンと丸まった犬尾、ブラウンの毛並み&髪とダークグレーの目を持ち、燕尾服を着た少年がそこには立っていた。彼はグラキア・リボラス。紆余曲折あった後、うちの町の補佐官に収まってくれた有能すぎる存在だ。

 通称は……まぁ、それぞれに呼ぶ。中でも多いのはグーとグッキー。なお、良く間違われるのだがグラキアはコボルトではない。現在の見た目は良く似ているものの中身は全く別物である。

 で、グラキアは私のいい加減にも聞こえる謝罪をどう取ったのか、ため息をついて寄こした。その無表情のまま続ける。


「とにかく一度マスターに会って宥めて話をして何とかする事。本人が居るとなれば抑え切れないだろうし抑える必要は無いし、そうなればこちらの手には負えないから完全に一任」

「ん、了解了解ー。で、私の可愛い妹はどこにいるのかなー?」

「……相変わらずはた迷惑な程の妹好き。今はウリアムーチ出現との報で飛び出しかけたのをお前の到着の知らせで執務室に足止め中」


 ぼそっと何か聞こえたぞ今。まぁしかし、どこまで行っても私は私のままでいいのね、反応見る限り。やれやれ、管理者の過去のねつ造はこういうのに気を使うから勘弁してほしいんだと言うのに。

 まぁ、私のままでいいと言うなら随分楽だけど……それにしても、『Free to There』での簡単すぎる入力でよくここまで私の性格を再現できたな。


「執務室かー。ん、分かった今から行ってくるー。素材の回収その他諸々は任せたー。……てか今スルーしかけたけど、お前じゃなくてクーでよろしく。何かお前だと心に刺さるー」

「分かったから早く行け放浪姉。それに言われなくても手慣れた作業。心配される程未熟なままな訳無い」


 容赦なく言葉の刃を飛ばしてくるグラキアに、あっはっはー、と笑い声を返しながら、私は門の方へと歩き始めた。この分だと町の様子も変わっていないだろう。という事は、執務室は多分、町の真ん中の城の、そのまた真ん中にある筈だ。

 しかし、グラキアの性格は『皮肉屋』としか書いてなかったからちょっと意外だった。どこまで厳しい毒舌になってるんだ。確かにちらっとだけ見えていた言動は厳しかったけども。


「……てことは、何かー。もしかしたらフォーも、あのファイルに書いてある以上に私の事大好きだって可能性がある訳かー」


 ………………ちょっと本気で、嬉しさで倒れないか心配になってきた。


 この戦闘、名前の出た2つの部隊以外にも、前衛職の部隊等たくさんの部隊が働いていました。

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