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《1/15 小説3巻・コミカライズ1巻発売!》裏庭のドア、異世界に繋がる ~異世界で趣味だった料理を仕事にしてみます~  作者: 芽生


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 SS ナタリアと広がる世界

今回はナタリアの話です。

少し切ないお話になっていますが

ナタリアの今に繋がるお話です。


 「やめろ!お前たち!」

 「なんだよ、うわっ!!」


 少年たちが集団で誰かを囲み、叩いているのを見たナタリアは走りよって止める。1人の少年を払いのけると、キッと睨む。


 「寄ってたかって恥ずかしくないのか!」

 「うるせぇ!お前には関係ないだろ!」

 

 そう言ってこぶしで殴り掛かるのを躱したナタリアは、腰に挿した木の棒で彼の手をしたたかに打つ。続けて殴り掛かってきた少年を足払いで転倒させ、もう1人がけりを入れてきたのを敢えて掴み、自分の方に引き倒す。

 子どもではあるナタリアだが、その力では彼らに引けを取らない。むしろ、日々鍛錬した身のこなしは彼らには真似できないものだ。

 3人の少年が倒れているのを、驚いて見ている囲まれていた少年は地面にしゃがみ込んだままだ。ナタリアは膝をつき、手を差し伸べる。


 「君、怪我はないか?」

 「う、うん」

 

 薄茶色の髪をした少年は小さく細い手を差し出す。立ち上がるとナタリアより頭一つ分程、少年は背が低い。少年を囲んでいた子どもたちは未だ立てないようだ。

 そんな彼らを一瞥したナタリアは背中を向けて歩き出す。少年はナタリアを追いかける。


 「ねぇ!君、名前を聞いてもいいかな?」

 「私はナタリアだ」

 「ナタリアか。僕はマイク!助けてくれてありがとう」

 「いや、私は騎士になるんだ。このくらい当然だ」


 金の髪をなびかせ、凛々しい横顔は確かに騎士になったら格好良いのだろうとマイクは思う。だが、それ以上に気になる事がある。


 「でも、ナタリア。騎士って男の人しかなれないよ?」

 「な、なんだと!それは本当か!」

 「う、うん。あ、でも王国軍には入れるはずだよ! 軍で部隊を率いるのも格好良いかもしれないね!」

 「だが、服装が選べないだろう」

 「う、うん」


 ナタリアは相当なショックだったのだろう。先程までの凛々しさはどこへ行ったのかしゃがみ込んでしまう。

 自分を助けた子が自分の言葉で傷付いたことに慌てたマイクは、必死に彼女を励ます言葉を探す。そこで騎士でも兵士でもない道を思い出す。それは服装も自由であり、在り方も自由な道である。


 「あ、じゃ、じゃあ!冒険者はどうかな?」

 「……冒険者?」

 「そう!自分で依頼を受けるか決められるし、魔物を退治したり、街の人を護衛したりするんだ!ね!人々を守って格好良いでしょう?」

 「そ、そうだな!」

 「うん!冒険者がいいよ!」


 先程までしゃがみ込んでいたナタリアは威勢よく立ち上がると宣言する。


 「よし!私は騎士のような冒険者になるぞ!」

 

 決意したナタリアはマイクに握手を求めるが、彼はたじろいだようで目を瞬かせている。そんなマイクの様子に気付かないナタリアは彼の細い手をぎゅっと握り、感謝の言葉を伝えるのだった。



 マイクの家はそこから歩いて時間はかからないそうで、ナタリアは送っていくことにした。遠慮するマイクだったが、ナタリアが「先程の奴らが来たらどうするんだ?」という言葉を聞くと何度も頷いて了承した。

 マイクの家はすぐにわかった。心配した彼の両親が家の前で待ち構えていたからだ。


「あぁ!マイク!あれほど1人で外に出ないでと言ったでしょう?お父さんもお母さんもどれだけ心配したか!」


 マイクの母親らしき女性は駆け寄り、彼を抱きしめる。父親らしき男性も渋い表情でその様子を見つめている。マイク本人は憤りと悲しみに満ちた複雑な表情である。

 その様子はナタリアに些か過剰に映ったが、ナタリアの家が放任主義なだけでこういう家庭もあるのだろうと考える。

 

 「あなたがここまで送ってくれたの?ありがとう!」

 「いや、当然の事をしたまでだ」

 「本当にありがとう」


 マイクを抱きしめていた母親は、ナタリアに向き直ると瞳を潤ませながら感謝の言葉を口にする。父親も感謝を伝えるとともにナタリアに笑いかける。


 「もし、君さえよければ、また家へ足運んでくれないか?」

 「そうね!……もし良ければ、マイクの友達になってくれないかしら?」

 「父さん母さん!やめてよ!……彼女に悪いだろ」


 家族のやり取りを黙って見ていたナタリアは顎に手を置き、じっと考えている。その様子をマイクが不安気に見つめる。父や母のマイクへの愛情は理解している。だがそんなことを求められたら、ナタリアを驚かせ、却って距離を置いてしまうだろう。


 「それは難しいな」

 「……!」

 

 案の定、ナタリアから返ってきたのは拒絶の言葉だ。

 その言葉で両親も自分達の言葉が間違っていたことに気付き、申し訳なさそうにマイクに視線を注ぐ。

 だが、そんな彼らに気付かないナタリアが口にしたのは予想外の言葉だ。

 

 「もう私たちは友達だからな」

 

 その言葉に皆、驚いて息を呑む。マイクの両親はナタリアへ感謝を伝えたい気持ちを今度は必死で押し殺す。息子が初めて友人を作るその場をこれ以上邪魔してはならぬと思ったのだ。

 

 「……いいの?」

 「何がだ?」

 「ううん!なんでもない!」


 こうして、ナタリアはマイクの初めての友人となった。

 そして、マイクもまたナタリアにとって初めての友人になったのだ。


いつも応援いただきありがとうございます。

9月に入り、こちらを書き始めて5か月となります。

皆さんに楽しんで頂けるように

これからも頑張りますね。

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