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《1/15 小説3巻・コミカライズ1巻発売!》裏庭のドア、異世界に繋がる ~異世界で趣味だった料理を仕事にしてみます~  作者: 芽生


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 43話 カリカリ梅と夏野菜のピクルス 2

いつもアクセスありがとうございます。

皆様に楽しんで頂けていたら嬉しいです。

本日、「オリバー!」も更新しました。

こちらはゆっくりめな更新です。


 

 「私、セドリック・グレイはここに誓う。この約束を違わぬと。この天地を納める神へと誓う」

 

 すると、書かれたセドリックの名は光を放つ。

 セドリックからペンを渡されたリアムもまたペンを取り、自身の名を記しながら誓う。


 「私、リアム・エヴァンスはここに誓う。この約束を違わぬと。この天地を納める神へと誓う」


 紙に書かれたリアムの名もまた光を放つ。そして紙自体が燃えるような光を放ち、消え去り、約束は契約となる。これが魔法誓約であり、そこで交わされた約束は絶対のものとなる。

 契約を交わした二人はしばし沈黙する。それを破ったのはセドリックの無粋な笑い声だ。


 「…ぶ、ぶはははははっ!あぁ、リアム、お前はやっぱり変わらないなぁ!」

 「…」

 

 まだセドリックは苦しそうに体を曲げ、笑い続けている。そんなセドリックを前にリアムはめずらしく仏頂面である。

 魔法誓約書を出した時点でリアムの心には迷いが出た。互いにこの契約を違えてはいけない、その状況の中でセドリックに恵真の事を話さず、契約を交わさせるのはあまりに不義理であると思ってしまった。そのため、ギルド登録するバケットサンドの女性が黒髪黒目である事を打ち明けたのだ。

 

 「お前でこんなに笑えることがあるとは…いや、すまない。お前は今も昔も素直な男だ…ぶふっ」

 「…いつから彼女の事を知っていた」


 いつもより低い声のリアムがセドリックに問う。そんなリアムの様子が面白いのだろう。先程までと打って変わってセドリックはリラックスした様子でソファーに腰かけている。


 「いや、バケットサンドの話を知る前は俺も噂だと思ってたよ。だが、バケットサンドを店頭で買った者の中で『黒髪の聖女』という言葉が広まっていてな」

 「黒髪の聖女…」

 「初耳か?店主のその姿と薬草入りのパンを安価で売る心を称えて、密かにそう呼んでいるらしいぞ。黒髪の女性の噂が時期を変えて2つも出たんだ。そりゃ、調べるだろ」

 

 黒髪黒目の女性の噂は、恵真がドアの向こうで見られたと言っていた頃のものだろう。喫茶エニシでバケットサンドを販売するようになって、ちらほらと客が訪れていた。その者達が恵真を「黒髪の聖女」そう呼んでいるのはリアムも知らなかった。恵真が生活に馴染むまでと時間を置いたことで、噂が広がってしまったのだろう。


 「一番大きな理由はリアム、お前だ。お前がギルド登録の代行を申し出るだけの人物、それで噂が信憑性を増した。もう少し早く俺に契約させるべきだったな」

 「そうだな、あなたの言う通りだ」

 

 短く答えを返すリアムにセドリックは昔を思い返す。すっかり大人になってしまったと思っていたリアムが、当時と変わらない実直さを持っていたことが嬉しくて仕方ないのだ。そんなセドリックの気持ちがわかるからこそ、リアムも素っ気ない態度となる。セドリックはそれがまた昔のようで顔がにやける。


 「だが、嬉しいよ。お前が他のギルドではなく真っ先に冒険者ギルドを頼ってくれたんだからな。おまけに魔法誓約の前に、黒髪の聖女に関しても打ち明けてくれた。何も言わず登録させてしまえばいいものを…」


 「初めはそのつもりだったが…魔法誓約書を出されたらな。世話になった相手に不義理は出来ないだろう。結局は早かろうとなんだろうと俺はあなたに打ち明けずに魔法誓約を交わす事は出来ないよ。…あなたこそいいのか。黒髪黒目である女性を登録させる事となるが」

 

 この国での黒髪黒目の女性の登場は騒動にもなりかねない。そこにその女性が薬草を広げようとしているのだ。そんなリアムの心配にセドリックは何でもない事のように言い切る。


 「問題ないよ。お前の力になれるならなんてことないさ」

 「…頭の上がらない人間がどんどん増えていくな」

 

 リアムが大きな手で額を押さえる。喫茶エニシを出る際に、恵真にとって有利な条件で契約を交わすと決めた。その目標こそ果たすことが出来たが、古い知り合いであるセドリックはこちらの事情を考慮した上で、魔法誓約を交わしてくれたのだ。むしろ、あちらの想定通りだったわけである。


 「まぁ、悪い事じゃないさ。さて、この件はここまでだ。他に何か気になる事はあるか?」

 「…いや、この件以外ではないよ」

 「じゃあ、俺の方からお前さんに1つ。最近、冒険者の間で急に体調を崩し、倒れる者が多発している。多いのが依頼をこなしてる途中だな。眩暈、頭痛、ふらつきなどで依頼を途中で放棄する事もある。皆、体力や健康状態には問題ない者達だ」

 「流行り病か?」

 「わからん。だが、兵士の中にも現れているらしい。気をつけておけ」


 最後までセドリックに心配され、すっかり弟扱いを受けるリアムである。アメリアもそうだが、若い日を知る者にはどうしても敵わない部分がある。だが、頭の上がらない人間がいるのも悪くない。一応は無事に交渉を終えたリアムは、冒険者ギルドを後にするのだった。


_____



 「…よっし!時間が短くなってきているー!!」

 「みゃあ」

 

 バケットサンドを販売し始めた当初より、確実に時間が短くなり手際も良くなっている。アッシャー達が来るまで1時間30分ある。以前はアッシャーとテオが来るギリギリまで一人バタバタと準備をしていたことを考えるとかなりの進歩だろう。これなら、冒険者ギルド用が増えても問題なさそうだ。


 時間はまだあるため、電子レンジで一人分の冷凍ごはんを温める。冷蔵庫から陶器の瓶とガラス瓶を取り出した。陶器の瓶に入っているのはカリカリ梅である。これは岩間さんから頂いた青梅を漬けたものだ。恵真も初めて挑戦するため、ネットを駆使して漬けたものである。驚いたのは卵の殻を入れる事だ。理由はより堅い食感にするためだそうで、その結果出来上がったのがカリッとした歯ごたえも心地良い季節の味覚だ。


 もう一つのガラス瓶にはピクルスが入っている。キュウリや赤や黄のパプリカを使ったこちらも恵真が作った物だ。冷蔵庫に夕べの残りのキャベツ炒めがあったため、こちらもレンジで温める。

 麦茶を入れ、テーブルにお椀に入ったごはんとカリカリ梅、夏野菜のパプリカ、それに夕べの残りのキャベツ炒めを並べる。


 「いたただきます」

 「みゃお」


 カリッとした歯ごたえと塩の加減が絶妙だ。初めてにしては上出来なのではないかと、恵真は一人こくこく頷きながら箸を進める。パプリカも色鮮やかで食卓に彩りを添えている。こちらも甘さと酸味がちょうどいい。恵真はまたしても一人頷く。

 こうして食べながら考えるのもまた食べ物の事だ。バケットサンドはおそらく全て完売するだろう。だが、ワンプレート定食はどうなるかわからない。せっかく作った料理が、誰かに食べて貰える事を願いながら恵真は食事を終えるのだった。

 

_____



「エマさん、おはようございます!」

「おはようございます!」

 

 ノックの音に恵真がいつも通りドアの後ろに立ち、サッと開けるとアッシャーとテオが入ってきた。2人とも少し汗をかいているようで、すぐ上を店用のシャツに取り換えて貰う。2人が着替えているうちに、冷たい麦茶を用意して、夏野菜のピクルスも少し刻む。


 「これを飲んでから、お仕事にしましょ」

 「お仕事の前に休憩していいの?」

 「今日は外、暑かったでしょう?そのまえにちゃんと水分と塩分は摂らなきゃ」

 「ありがとうございます」

 

 開店時間まではまだ少しある。熱い中、歩いてきた2人には必要だろう。コクコクとグラスの麦茶を飲み、ピクルスを摘んだ2人はバケットサンドを入れた持ち手付きのカゴを持って店の外へ出ていく。

 10分くらい経ち、2人が帰ってきたがアッシャーから代金を受け取った恵真に、テオが不思議な事を言う。


 「お店の前になんかへんな人がいたよ」

 「変な人?怖いとかそういう事?」


 もしそうであるならば、今日は開店を控えるべきであろうか。来てくれる方には申し訳ないが、大事なのはアッシャーやテオの安全であると恵真は思う。

 だが、そんな恵真にテオは首を振る。


 「ううん、大丈夫。普通のへんな人だよ」

 「普通の変な人?」

 「こら!テオ、お客さんに失礼だろ!」

 「だって…」

 「でも、何かあってもいけないからどんな人か教えて貰っていい?」


 そんな恵真の質問に、アッシャーは困った表情を浮かべる。やがて言葉を選ぶように答えを出す。


 「あの、ちゃんとしてそうな…その…変な人です」


 アッシャーからもテオからも変だと言われる人物像に、恵真はこれから開店すべきかどうか、一層悩むのだった。




青梅を漬ける際に卵の殻を入れると

ペクチンとカルシウムが反応して

カリカリ度が増すらしいです。


明日も同時刻に更新予定です。

よろしくお願いします。

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