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《1/15 小説3巻・コミカライズ1巻発売!》裏庭のドア、異世界に繋がる ~異世界で趣味だった料理を仕事にしてみます~  作者: 芽生


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 39話 じゃがいもの価値と可能性 3

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 キッチンに立った恵真はまずじゃがいもを洗う。今回は皮つきで使うものもあり、より丁寧に洗っている。まず数個は皮付きのまま乱切りにして、小鍋で茹でて置く。そしてもう1品分のじゃがいもは洗ったあと、皮付きのまま切り、こちらも小鍋で火を通す。


 じゃがいもは切ってそのまま放置すると変色してしまう。そのため、下準備はじゃがいもを茹でて置くだけである。温かいまま食べて欲しい事や調理法を見て欲しい事もあり、それ以外の準備は今回は出来ないのだ。そろそろ昼になるので、リアム達が訪れるだろう。


 そう思ったとき、裏庭の窓をノックする音が聞こえる。キッチンから恵真は急いでドアに駆け寄ると、ノックを返す。そして恵真はサッとドアが開く方向に下がる。これが最近決まった喫茶エニシでの4人が訪れたときの方法である。ドアの前に立って出迎えてしまうと、その姿が目立つと彼らは案じているらしい。

別段、恵真としては気にしていないのだが、興味本位で恵真を見る者がいるのを4人は不快に思っているようだ。そんなに気になるなら堂々と入ってきて料理を注文し金を落とすべきだと言うのが彼らの弁である。

 

 「今日はお招き頂きありがとうございます。これはこの国スタンテールで一般的に食べられるパンです。今後の経営の参考になればよいのですが」

 「わぁ、ありがとうございます!リアムさん」

 

 花や装飾品など女性が好むものでなく、料理が好きな恵真に合わせた手土産をリアムは用意した。それも高価なものではなく庶民が食べているものである。おそらく、恵真にはそういった物の方が喜ばれるだろうとの推測だったが、反応を見るに正解であったようだ。

リアムの横にはアッシャーとテオがちょこんと立っている。


 「エマさん、お招きいただきありがとうございます」

 「ありがとうございます」

 「いらっしゃい。アッシャー君、テオ君」


 その手には小さな野草の花束が握られている。それを少し照れながら、テオが恵真へと渡す。2人の可愛い小さな心遣いに恵真は胸をときめかせる。小さな野草のブーケはさっそく、グラスに飾ろうと恵真は思う。

 最後に顔を出したのはバートである。なぜか困った顔をしているバートは以前にも聞いたようなことを恵真に力説する。


 「オレは宣伝担当っすから!喫茶エニシの良さをバッチリ広げますんで!」

 「えぇ、ありがとうございます…こちらの都合で急に集まってくれたんです。十分嬉しいんですよ!」

 「そうっすよね!オレもそう思うっす!」

 

 1人手ぶらのバートが安心したように同意する。

 調理を待つ間に4人に何も出さないのも、と恵真はクラッカーを用意した。今回はじゃがいも料理という事もあり、麦茶とクラッカーという軽めのものだ。4人に麦茶を出すのは初めてだったが、香ばしく苦みのない風味は受け入れやすいものだったようだ。暑さが厳しくなるこれからの季節、アッシャーとテオには麦茶を出そうと恵真は思う。


 「さて、準備に取り掛かりますね!皆さんはそこで待っててください」

 

 恵真は再びキッチンへと向かう。まだ温かいじゃがいもの皮をむき、ボウルに移したらその中で潰していく。ここで重要なのが丁寧に潰すことだ。綺麗に潰したら牛乳を加えなめらかにし、塩を加え味を調える。それをココット皿に盛って完成、まず最初に作ったのはマッシュポテトだ。


 そして恵真は次のじゃがいもの皮をピーラーで剥く。今度はじゃがいもを千切りにしていく。本来はスライサーを使えば楽なのであるが、こちらに同じような調理器具があるとは限らない。恵真は敢えて手間のかかる包丁での千切りを選んだ。

千切りにしたじゃがいもは水にはさらさず、塩を振って味をなじませる。フライパンを温め、サラダ油を入れ、適温になったところでその千切りのじゃがいもを全体に広げる。パチパチとしっかり火が通るまでこれを数分焼き上げる必要がある。


 その間、先程茹でたじゃがいもの両面の水分をきっちり取っておく。恵真はもう片方のコンロでフライパンを予熱する。サラダ油を流したフランパンになじませ、火を通して置いたじゃがいもをこんがりと両面焼いていく。すでに火を通してあるため、カリッと焼き色を付けるだけでいい。上から塩を振り、完成したのはフライパンで作るベイクドポテトだ。本来はオーブンで焼き上げるのだが、家庭でも作りやすいようにフライパンを使った。

 隣でパチパチと音を立てるフライパンのじゃがいもをひっくり返してまた焼く。こちらも両面にこんがりと焼き目をつけるのが美味しさの秘訣だと恵真は思う。

 焼いている間に、恵真はベイクドポテトとマッシュポテトを4人に出す。


 「最後の一品はもう少し時間が掛かるので、先にこの2品からどうぞ。こちらのお皿に入っているのがベイクドポテト、ココット皿に入っているのがマッシュポテトです」

 「このまえのと見た感じは似てるっすけど、調理法が結構違うんすね」

 「そうなんです。そこがちょっとポイントだったりするんです。どうぞ、召し上がってみてください」


 そう恵真に問われ、それぞれフォークを手に取り、口に運ぶ。アッシャーが最初に口にしたのはベイクドポテトだ。パリッと焼き目を付けたじゃがいもは見た目からも香ばしさがわかる。アッシャーはもくもくと口を動かしていくが、その表情は明るくなっていく。

隣に座るテオも同じようにベイクドポテトを選んだが、1個食べ終わったらもう1個と口に運んでいるため、テオに感想を聞くのは難しいだろう。その様子を嬉しく思いながら、恵真はアッシャーに感想を尋ねる。

 

 「味はどう?」

 「美味しい!美味しいです、これ!外側がカリカリしてるし、中はほくほくで甘いんですね!これって本当に塩だけなんですか?」

 「うん、油と塩しか使ってないの。これなら作れるご家庭も多いんじゃないかな。ベイクドポテトっていって本来は違う形で作るんだけどこれはフライパンとかお鍋で作れるでしょう」


 そう、前回のフライドポテトでは油を大量に使うという問題があった。それを茹でた後に焼き上げるという形に変えたことで、油も少量で済むのだ。

フライドポテトほどではないが香ばしくパリッとした表面と中の柔らかな食感は食べやすく、また油を控えた事で胃にも負担が少ない。年齢問わず食べやすい一品だ。

 恵真はそろそろよいかと、フライパンで焼いているじゃがいもの様子を確認する。大きな皿に移すとこんがりと全体的に焼き目の付いた円形上のじゃがいもを恵真は放射状に切り分けていく。


 「こちらはなんという料理ですか」

 「じゃがいものガレットです。こちらもじゃがいもと塩と油しか使いませんし、お鍋やフライパンで作れますよ。どうぞ、召し上がってみてください」

 「ありがとうございます」

 「楽しみっすね!」


 リアムとバートがガレットを口にする。ガレットというとそば粉のものがそう呼ばれることが多いが、こちらのじゃがいもを焼いた物もまたガレットと言う。こちらもベイクドポテトと同じように、表面のパリッとした食感と中のほっくりとした食感がある。調理時間は少しかかるが、じゃがいもを煮る時間を考えればさほどのものでもないだろう。


 何より、こちらも調味料は多く必要ではない。広く様々な状況の人が調理できるという点でベイクドポテトもガレットも基準を満たしているのではと恵真は思い、この2つを選んだ。

 リアムとバートは味に納得したかのように頷いている。そんな2人に恵真は味の感想を求める。


 「味はどうでしょう?お口に合いましたか」

 「合うっす、バッチリっす!いいっすね、これ。今までの食感と違って新鮮っす。今までは芋は酒には合わないなーなんて思ってたんすけど、これはどっちも合うんじゃないっすかね」

 「あぁ、今まで主食として食べていたその概念が変わるな」


  リアムとバートの意見に恵真は笑顔を見せる。前回の2人の意見で現れた問題は「普及可能な調理法・安価な調味料」である。今回の料理は、どの家庭でも調理しやすく調味料も高価でない物を選んだ。

アッシャーとテオも「パリパリしてる」「中はもちもちしてる」などと2人で確かめながら食べている。

 恵真はもう1つ4人に確認したいことがある。ベイクドポテト、ガレットには塩と油以外には使用していない。だが、マッシュポテトには塩以外に牛乳が使われている。恵真が使っていても4人が驚かない事や庶民でも買えるという情報から作ったが、こちらも他の2品と同じように一般の家庭でも調理可能でなのだろうか。

そんな恵真の問いにリアムが穏やかに答える。


 「問題ありません。この3品とも全て一般の家庭で調理可能です」

 「良かった…」


 恵真は大きな安堵の息を付く。今回の料理の目的は恵真が料理をし、誰かを喜ばせることではない。この国で安価な食べ物と軽んじられるじゃがいもに新たな価値を見出す事だ。そのため使用できる調味料も調理法も限られていた。


 「何よりその調理法が画期的です。茹でる、煮る、それ以外の調理法でこんなに味や食感が変わるなんて思っても見ませんでした。その調理法も一般の家庭でも可能です。確かにこれはじゃがいもの価値が変わっていきますね」

 「はい、これが受け入れられていけば、育てる農家の方の努力や手間も認めて貰えますよね」

 

 そう言った恵真の表情をリアムは穏やかな瞳で見つめ、吹き出して笑う。そんなリアムをアッシャーとテオは目を瞬かせて見つめ、バートは目を丸くする。

リアムは冒険者であるが、その素振りからは自然と育ちの良さが滲みで、高貴な印象と共に庶民の出のものからは少し遠い存在に感じる存在だ。そんなリアムが自然に振る舞う様子は3人にとって新鮮なものだった。

 

 「そうなるように、私どもも努力いたします。…私がいう事ではありませんが、誰かのために料理をする。そこにはトーノ様のお心が反映されていると思います」

 「…っ」


 無事に料理が受け入れられた安堵もあったのだろうか。リアムの言葉に、恵真はぽろぽろと涙を流す。突然の恵真の涙にリアムは狼狽え、アッシャーは心配そうに見つめる。テオはハンカチを差し出し、バートは赤茶の髪を掻きながら、慰めの言葉をかける。クロはそんな彼らの様子を呆れたように見つめ、ソファーに寝転ぶ。


 恵真が誰かのために作った料理、それがこの国に小さな変化を起こしていく。





ホットケーキ、ロイヤルミルクティーに牛乳プリン

31話にはミルクスープと出てきてましたが

ミルクは手に入りやすい食材なので

4人から特に驚きはなかったりします。


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― 新着の感想 ―
読み始めたばかりですが、とても雰囲気がいい作品ですね。喫茶店のなかに入り浸っている気分になれます。 牛乳が手に入りやすいならチーズやバターも安価だといいですね。手間がかかるから難しいかもですが。いろい…
感想一覧
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