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《1/15 小説3巻・コミカライズ1巻発売!》裏庭のドア、異世界に繋がる ~異世界で趣味だった料理を仕事にしてみます~  作者: 芽生


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 38話 じゃがいもの価値と可能性 2

感想を頂きました。

ありがとうございます。


明日から6月ですね。

更新を初めてもうすぐ2か月。

お付き合い頂き、ありがとうございます。



 トントンとじゃがいもを切る、心地の良い音が響く。

恵真は数個のじゃがいもをくし切りにして、ボウルに入れた水にさらしておく。もう何個かのじゃがいもは洗った後、皮を付けたままラップで包み、レンジで温める。本来は茹でるのだが、今回は時間短縮もあり恵真は電子レンジを使った。


その間にたまねぎをスライスし、こちらも水にさらして置く。人参といちょう切りにきゅうりは半月切り、人参は茹でてきゅうりは軽く塩を振る。レンジで加熱したじゃがいもを取り出し、皮をむいたら温かいうちにボウルの中で少し潰して置く。全部潰さず、ゴロゴロとした食感が残るようにするのがコツだ。粗熱を取るため、しばらくそのまま置いておく。


 水につけたじゃがいものボウルから水を切り、クッキングシートを使い、水気をしっかりと取る。油を揚げ物用の鍋に注ぎ、温めておく。菜箸を刺し、温度を確認した恵真がくし切りにしたじゃがいもを油の中に落としていく。数分揚げたじゃがいもを一つ取り出し、竹串を刺すとすっと通るのを確認したら少し油の温度を上げ、カリッとした揚げ具合にする。それをキッチンペーパーに広げ、油分をある程度落とし、塩胡椒を全体にまぶす。

そう、恵真が作った一品目はフライドポテトだ。冷めないうちにそれを皿に移し、2人の目の前に出す。


 「どうぞ、冷めないうちに召し上がってください」

 「…素手でいいんすか?」

 「はい、素手でいっちゃってください!」

 「あちっ、あ、外側はカリカリっすね。中は…あ、ほくほくっす!外側の塩っ気とじゃがいもの甘みがいいっすね!こりゃ、エールが進む味っす!…ここに酒がないのが残念っすねぇ」

 「あぁ、これは酒に合いますね。調理法を変えるだけでまた違う物になるのか…興味深いな」


 バートにもリアムにも味は好評のようだ。それを確認した恵真はもう一つの調理を進める。水にさらした玉ねぎと塩を振ったきゅうりをしっかり水分を切る。潰しておいたじゃがいもに塩胡椒を振り、玉ねぎやきゅうり、そして人参を加える。そして恵真は冷蔵庫からマヨネーズを取り出した。


 そう、もう一つのメニューはポテトサラダだ。恵真はボウルに入ったじゃがいもなどにマヨネーズを加え、よく混ぜて味を確かめる。それを小鉢に盛ってフォークと共に2人に差し出した。

 

 「これがじゃがいもなんすか?見た目からしてイメージが変わるっすね」

 「確かにこうすると前菜の一つに見えますね。色も鮮やかですし、じゃがいもを冷菜として食べる発想は今までありませんでした」

 「味はどうでしょう」


 そう、恵真が気になるのはやはりその味がこちらの人々に受け入れられるかどうかだ。じゃがいもの料理として人気のあるフライドポテトとポテトサラダだが、そのままの味を生かしたフライドポテトに比べ、ポテトサラダは調味料の味が受け入れられるかが大きいだろう。

そんな恵真の不安をバートとリアムが打ち消す。


 「ん、これは新しいっすね!クリーミーなのにゴロッとした芋の食感があるっす!シャキッとした玉ねぎに瑞々しいきゅうり、なのに濃厚な味わいが満足感高いっす!」

 「えぇ、そのままの風味を生かした先程の料理とは違い、手間をかけてそれぞれの風味を生かしていますね。どちらも既存のじゃがいものイメージを壊す、新しい味わいです」

 「本当ですか…!」


 バートとリアムの反応の良さに恵真は安心する。じゃがいもの調理法は様々ある。安価で手に入りやすいのであれば、それは庶民の味として広がっていく可能性が高い。そうすることで、じゃがいもを育てる人々の環境もまた変わっていくのではないか。恵真はそんな希望を抱く。

 だが、恵真のそんな思いはリアムの言葉で現実へと引き戻される。


 「ただ、残念ですが…庶民にはこの調理法は広がらないかと思います」

 「どうしてですか?」

 「まず、最初の料理では油を多く使います。油も安価ではありませんし、普段じゃがいもを主食としている者には不向きなのです。もう一品は特有の調味料を使っているとお見受けしました。それも庶民が手に入れるのは難しいかと思うのです」

 「そうっすね。めちゃくちゃ旨いんで勿体ないんすけどね」


 リアムの話はもっともであると恵真は思う。フレンチポテトとポテトサラダは人気の高い料理だが、こちらの世界で多くの人が食べる、そんな形にはなりにくいであろう。広めたいと思うばかり、味の良さを認めて貰う事にこだわり過ぎていた。本当にこの世界で広めたいのであれば、庶民が自宅で調理しやすく、なおかつ味が良く安価で出来るものでなければならないのだ。

 

 「わかりました…また違う形で考えてみますね。そのときは、またお二人に試作品を食べて貰ってもいいですか?」


 どうやら恵真は諦めずに、この国で受け入れられるじゃがいもの新しい調理法を探るらしい。何が恵真を駆り立てるのかはリアムにもバートにもわからない。だが、じゃがいもが多くの人々に受け入れられれば、育てる農家も生活が潤うだろう。2人は恵真の提案を快く受け入れたのだった。



_____



 今日は喫茶エニシは休業日である。そのため、恵真はこのまえ岩間さんから頂いた青梅の処理を進めている。ダイニングテーブルでカゴに入った青梅と恵真は向き合う。水の中で傷つけないように洗った青梅は昨日のうちにしっかりと乾かして置いた。その青梅のなり口を竹串を使い、丁寧にとっていく。


 作業をしながら浮かぶのはじゃがいもの料理である。味に関してはリアムもバートも問題ないと言ってくれたため、普段の恵真の料理でも良いのだろう。だが、問題はその調理方法だ。気軽に作れ、調味料も油も多く使わない、庶民に合う料理を恵真は考えていた。


 昼過ぎにリアムとバート、そしてアッシャーとテオが訪ねてくる。昨日いなかったアッシャー達にはバートが昨夜、声を掛けると言ってくれた。この国の常識や感覚は、恵真だけでは判断できない事もある。4人にその料理を食べ、調理法と合わせてこの国で受け入れられるものか意見を聞かせて貰う予定だ。


 恵真が彼らと関わっていく中で知ったのは、こちらの世界では香辛料は勿論、砂糖は高価である事、また油や卵も比較的値段は高めであることだ。一方で、牛乳などは庶民でも買えるという。それを踏まえると、じゃがいもの料理もある程度絞られることになる。

 主食として扱われるじゃがいもは茹でるか蒸すくらいの調理法は試されてはいない。ならば、それ以外の調理法を使う事で既存のじゃがいものイメージを変えることが出来るだろう。だが、昨日のよう形では、その調理法は広がらない。あくまでも庶民が普段の食事で楽しめるものでなければならないのだ。


 「簡単で材料が少なくって皆に好まれるじゃがいも料理をつくらなきゃいけないんだよね」

 「みゃうん」

 「幾つか考えてあるけど、この国の感覚でどうかが問題なんだよね」

 「みゃあん」


  今朝早いうちに、恵真はじゃがいもを買いに行った。今回は数種類のじゃがいも料理を作るため、3袋分買ってきた。昨日の残りを踏まえても、十分な量がある。 

  「じゃがいもの価値を変える」そう豪語したのは自身を奮い立たせるためでもあった。黒髪黒目でこの国の人から特別な目で見られることが多い恵真ではあるが、今の彼女が何か特別な力を持っているわけでもない。だが、恵真は何もしないでいられる程、器用な性分でもないのだ。


  味や調理法が広まれば、今それを食べる人が肩身の狭い思いをすることがなくなるだろう。そしてなぜかこの世界では評価されない農家という職業、それもまた恵真には納得できない事である。せめて料理という形で、自分にも何か力になれないかと恵真は思うのだ。


 もう少しすればリアム達が来る。何よりこれから来る4人にじゃがいもの料理を楽しんでほしい。今回は温かいメニューが多いため、調理はリアム達が来てからでいいだろう。だがそのまえに下準備をしておきたい。エプロンのひもをきゅっと結び、気合十分キッチンに立つ。


 「頑張らなきゃね」


 そんな恵真を見つめるクロが応援するかのように、みゃおんと鳴いた。



 


 

 

フライドポテトとポテトサラダ

人気の高いじゃがいも料理ですが

今回の場合は残念ながら難しいということに。

実際にじゃがいもが主食の国もあるようです。

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