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《1/15 小説3巻・コミカライズ1巻発売!》裏庭のドア、異世界に繋がる ~異世界で趣味だった料理を仕事にしてみます~  作者: 芽生


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 SS リアムと屋台  ~そのあと~

前後編のそのあとです。

おまけとして楽しんで頂けたら…



 今日、恵真は緑茶を用意した。少し苦みがあるため、アッシャーやテオは苦手かもしれないと心配していた恵真だったが二人とも問題ないようだ。この国で飲まれる薬草茶やゴヤ茶はもう少し苦みや癖が強いらしい。それに比べると緑茶は爽やかな苦みだとリアムは言う。

 バートは緑茶にもハチミツを入れている。恵真には驚いたが、アジア圏では緑茶を甘くして飲む国もあると聞く。そう考えればおかしなことでもないのだろう。

 

 テーブルの上には皆が屋台で買ってきてくれた物が並ぶ。バートが選んだのは葉で作った緑の皿に、パラパラとした米、その上には野菜や肉が乗っている。野菜の彩りも鮮やかで食欲を誘う。バートが言うにはこれを全体的にかき混ぜて、味を均一にして食べるらしい。インドの炊き込みご飯ビリヤニやビビンバのような感じだろうかと恵真は思う。

 アッシャーとテオが選んでくれたのは赤い果実、ルルカだ。甘酸っぱい香りが爽やかである。皮は剥かずそのまま食べて良いらしい。

 リアムが用意したピンク色のクロのわたあめはもう皆で食べてしまった。アッシャーとテオはわたあめが初めてだったようでその柔らかさや口に入れると溶ける事を二人で話し合っている。

 そして、実は恵真も料理を用意していた。今日、皆が買いに行っている間に作った物だ。何を買ってきてくれるのかがわからなかったため、軽く食べられるものにした。スープ、クラッカーにディップを塗ったものなど軽食だ。

 恵真にとって知らない物を食べるのは実に新鮮な体験であった。そしてそれは他の4人にとっても同じだったらしい。どうやら恵真の用意した軽食も喜んでもらえたようだ。


 「旨いっす…携帯食に野菜のソースが乗っただけでどうしてこんなに旨いんすかね」

 「携帯食?」 

 

 聞きなれない言葉に恵真が問うと、リアムが質問に答える。


 「軍や冒険者が野外で食べる簡易食です。見た目は似ていますが…確かに味は雲泥の差ですね。いえ、あれは食事ではなく栄養補給のため必要でして、トーノ様の料理とは比較の対象にはならないのですが」

 「携帯食…いつか食べてみたいです」

 「…あまりお勧めは致しませんね」

 「僕らも食べたことあるけど…美味しくはないかも」

 「おい!リアムさんに貰ったんだろ」

 「ははっ、そうだな。すまなかった。あのときは他に持っていなかったんだ」


 皆が旨くはないという携帯食だが、どんな味なのだろうかと恵真は想像する。恵真が知る市販の栄養補助食品はどれもそこそこ味は良い。それに比べ、どれだけ味が悪いのだろうと逆に好奇心をそそられる。そんな恵真を物好きな者を見る目で見つめていたバートだったが、突然ハッとした表情になり恵真に尋ねる。


 「で、どれが一番っすか?」

 「はい?」

 「だから、どれが一番トーノ様の口に合いましたか?」

 「え、どれも美味しかったですよ」

 「じゃあ、どれが一番嬉しかったっすか?」

 「え、ええ?」


 恵真はリアム達を見るが3人とも肩を竦めたり、首を傾けたりでなんとも事情がつかめない。するといきなりバートが恵真に言う。


 「これは戦いっす!男の熱い勝負なんすよ!」


 そんな熱いバートの言い分をよそに3人は涼しい顔である。リアムは緑茶を飲み、アッシャーとテオはルルカの実を頬張っている。どうやら、その戦いはバートの一人相撲らしい。


 「んー、僕らは別にいいよ」

 「な!戦いを放棄するんすか?これは真剣に真摯に向き合う紳士の戦いっすよ!」

 「うん、バートの勝ちでいいよ」

 「よかったな、バート」

 「違うんっすよーそれは」


 勝利を早々に放棄した3人は恵真が注ぐ二杯目の緑茶を楽しんでいる。恵真はどうしたらいいのだろうと4人の会話を黙って聞いている。なんとかフォローできるのは勝敗を握る自分だけではなかろうかと恵真は考えていた。


 「そういうんじゃないんすよ!オレは正々堂々!勝ちたいんっすよ!」

 「えっと…バートさんがお米料理を持ってきてくれて助かりました!こちらの国でもお米が食べられてるのがわかったし、お店でも皆さんにもお米料理を今度出せますね!」

 「本当っすか!ですよね、オレ今回いい仕事しちゃいましたよね?熟考の上に選んだんすよ!米という文化を知れましたもんね。いやぁ、流石トーノ様っす。あれ?なんか今日、いつも以上にお綺麗じゃないっすか?」


 褒められて、どうやらバートは機嫌を直したらしい。いつも通りの軽口を挟んできた。そこに先程、揶揄われた意趣返しかリアムが口を挟んでくる。


 「そうか、ではアッシャーとテオが1位かもしれんな」

 「へ?…な、なんでそうなるんすか」

 「いつも以上にトーノ様がお美しい、それはアッシャーとテオが選んだルルカの実の効果もあるかもしれないからな」

 「は!?」

 「いつも以上にトーノ様がお美しいと言いだしたのはお前だよな、バート」

 「う…それはそうっす…」


 そんなバートに救いの手が差し伸べられる。じっと話を聞いていたテオだ。だが、なぜか少し機嫌を損ねたようで頬を膨らませている。


 「だから、さっきも言ったでしょ?エマさんはいつも美人だよ」

 「…そ、そっすね!テオの言う通りっす!トーノ様はいつだってお美しい!いや、オレが間違ってたっす!そんな急に効果は出ないもんっすよ、ただただ今日も今日とてトーノ様がお綺麗なだけっすね。どうっすか?リアムさん、まさか否定は出来ないっすよね?」

 「…そう来たか」

 

 彼らのやり取りがだんだん子どもの喧嘩のように見えてきた恵真だったが、それ以上に「綺麗」だの「美しい」だのと目の前で連発されるので居たたまれない気持ちになる。なんとかこの不毛なやり取りに終止符を打ちたいのだが。そんな中、静かに様子を見守っていたアッシャーが口を開く。


 「そもそも頼まれたのはリアムさんだろ」

 「そうっすよ、それをオレらも付き添って、何がいいか選んだんじゃないっすか」

 「うん、でもそのときお金出したのリアムさんだったろ?」

 「…あ」

 

 それを聞いたバートは視線を外す。どうやら完全にそのことを忘れていたらしい。そんなバートにアッシャーは不思議そうに尋ねる。


 「そもそもエマさんが喜んでくれたならそれでいいだろ」

 「ね、3つとも喜んでくれたもん」

 「それは…そうっすね…オレが野暮だったっす」

 「二人の方が大人だな」


 どうやら無事、男の熱い勝負に決着がついたらしい。なぜか少し落ちついた様子のバートを座らせて、緑茶を注ぎながら恵真はどれも美味しかったのだと声を掛ける。何より皆が自分のために選んでくれたのだから。バートはそんな恵真の言葉に肩を竦める。


 「…オレ、ちょいちょいここに顔出してる割に何も出来てないんっすよね」

 「へ?」

 「いや、アッシャーやテオは働くために準備を手伝ってるっすけど、オレはそういうわけでもないんで。ただ顔出してるだけで飯貰って帰ることもあるし、なんていうかその…ね?」


 どうやらバートが1番にこだわったのにも、そんな理由があったらしい。気さくで軽口を叩くバートの意外な一面に驚いたのは恵真だけではなかったようだ。アッシャーとテオは不思議そうな表情を浮かべてバートを見ている。


 「でも、僕らじゃ知らないこともたくさんあるし、バートがいてくれると助かるよ」

 「それはそうだな。俺達だと知らない事もあるからな」

 「私なんか知らない事ばかりですし…それにお仕事の合間を縫って来てくださってるんですよね?その、本当にありがたいなって思ってます。逆に私の方こそお返しできる物も料理しかなくって…」

 「へ…そうっすか…?」

 

 その答えはバートにとって予想外であったのだろう。恵真とテオの顔を不安げに交互に見ている。そんなバートにリアムも声を掛ける。


 「俺が来れない分、顔を出して様子を見てくれているのは助かっているな」

 「リアムさん…」


 皆の言葉にバートは照れたように赤茶の髪を掻く。照れ隠しだろうか少し冷めた緑茶を飲もうとするバートに、恵真はハチミツの入った容器を前に置いた。チラリと恵真を見たバートは小声で礼を言い、ハチミツを入れる。

 そんな中、恵真は伝えた。順位を付けることなど出来ないと。

「この国の食べ物が食べてみたい」恵真のその願いのために、こうしてそれぞれが自身の思い出や考えで選んでくれた。それだけで恵真は十分嬉しいのだから。


 その言葉にアッシャーとテオは、はにかんだ笑顔を浮かべ、バートは照れくさそうに赤茶の髪を掻く。リアムは普段通りの穏やかな微笑みを浮かべて、クロはソファーの上でウトウトと微睡んでいる。


 裏庭のドアをきっかけに訪れた、この日々に深く感謝をする恵真であった。

 

 


 




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