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《1/15 小説3巻・コミカライズ1巻発売!》裏庭のドア、異世界に繋がる ~異世界で趣味だった料理を仕事にしてみます~  作者: 芽生


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SS 好き勝手おせちと新年の始まり

新たな年が始まりました。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。


 恵真と瑠璃子は今年も二人と一匹でのんびりとした正月を過ごしている。

 そんな二人の前には重箱に入ったおせちが並ぶ。

 一昨年同様、二人は自分達流のおせちを作り、食べることにしたのだ。


「由来は適当だけど、味付けは適当にしちゃダメよね」


 好き勝手に自分達の好きなものを詰めたおせちではあるが、瑠璃子はわざわざそこに由来までつけるこだわりようだ。

 元々おせち料理に入るものには、それぞれに由来がある。

 数の子は子孫繁栄、紅白なますはその色が祝い事を表し、ぶりは出世魚のため立身出世など、新年を祝う料理なのだ。

 恵真は祖母の瑠璃子が詰めたおせち料理をじっと見つめる。

 今年も和洋折衷、好きなものしか入らない自由なおせちである。


「炒り鶏はれんこんにごぼう、おせちに入る縁起のいい食材を使っているもんね」

「そうよ。それに私の得意料理だし、恵真ちゃんの好物だものね」


 いつもの炒り鶏もこんにゃくをひねるなど、飾り切りをしてあり、正月らしい雰囲気である。

 炒り鶏、筑前煮、がめ煮、呼び名は様々あるが食材や調理法はよく似ている。

 また、煮しめと呼び、炒めず汁気の多いものも正月料理として名が知られている。

 炒り鶏は正月らしい料理であるだろう。

 

「で、このエビフライは? 去年はエビチリだったよね」

 

 昨年はエビチリを入れたのだが、今年は有頭のエビフライがどんと入っている。

 海老もおせち料理には必ず入っているもので、恵真も好きではあるが、数ある海老の調理法の中でエビフライを選んだのが気になったのだ。


「えぇ、そうね。恵真ちゃん、私気付いちゃったのよ」

「ん? なんの話?」

「おせち料理の海老には腰が曲がるまで長生きする、そんな意味が含まれているの」

「うん、そうだって言うね」


 腰も曲がる海老をおせちに入れるのは長寿を願う意味もある。

 加熱すると赤くなるのも祝いの席にはふさわしい。

 しかし、瑠璃子は恵真の言葉に首を振る。


「でもね、恵真ちゃん。私には腰を曲げる気なんてまだまだないのよ! 去年のエビチリも曲がっているでしょ? だから今年はエビフライ! いいえ、来年もこれにしましょう! もしくは天ぷらね!」


 突然、瑠璃子が自信ありげに恵真に言うが、エビフライをびしっと指差しているため、どうにも威厳はない。

 しかしながら、こんなに元気であるならば、来年再来年も腰を曲げることはないだろう。恵真は祖母の勢いに笑いながらも、その元気に安心もする。


「タルタルソースを添えているのは?」

「たるんでないで気合を入れて頑張ろう! みたいな意味よ。あとはあったほうが美味しいでしょう?」


 他にも重箱には鮮やかに食材が詰められている。

 いくらの醤油漬けは祖母の好物であり、恵真の曾祖母との思い出の味らしい。

 冬の味覚であり、華やかさも加わる。


「あれ、これ伊達巻じゃなく普通の卵焼きじゃない?」

「そうよ。これはね、出汁巻き卵。私が初めて恵真ちゃんのおじいちゃんに作った料理なのよ」

「ふふ、いくらに出汁巻き卵におばあちゃんの思い出も詰まってるんだね」

「そういう恵真ちゃんはなにを詰めたの?」


 本来、重箱は段ごとに入れる料理も分けられる。

 しかし、好き勝手に詰めた遠野家のおせちは詰め方も自由である。

 

「私はね、バゲットサンドにハンバーグ。あとはミニパンケーキ、他にも色々あるから食べてみて」


 そう言われた瑠璃子だが、覗くのは重箱ではなく、キッチンの方だ。

 そこには同じ料理がタッパーにも入っているのがここからでも確認できる。

 恵真の意図を察した瑠璃子はくすりと笑う。


「あらあら、好き勝手おせちだけど、おすそわけおせちにもなりそうね」


 明日からは喫茶エニシの営業も始まる。

 おそらく恵真はアッシャーとテオに持たせる料理を詰めたのだろう。

 

「おせちのおすそ分けなんて変かな?」

「そんなことないわよ、恵真ちゃん知ってる? 今年の幸せを願うおせち料理を分け合う。そこには皆で幸せを分かち合う、そんな意味があるのよ」

「へぇ、知らなかった!」


 祖母の知識に感心する恵真に、瑠璃子はにこりと優雅に微笑む。


「今、思いついたの。でもいいわね、私も花ちゃんのとこにおすそ分けしましょ」

「岩間さんのおうちに?」

「えぇ、二人だし作るのも大変だからって言っていたのよ……あら、でもこれがおせちだっていう説明から始めなきゃね」

「ふふ、出汁巻き卵の説明もするの?」

「当然よ! 私とあの人の出会いから話してもかまわないわ!」


 おせちのおすそ分けが正しいかはわからないが、良いことや嬉しいことを分かち合える人が側にいるのは幸福でもあると恵真は気付く。

 食事は生きるためであり、同時に楽しむものでもあるのだ。

 まだ始まったばかりの今年、幸福を皆で分かち合える、そんな年になればと恵真は思うのだった。

 

 


 


現在、「裏庭のドア~」「ジュリとエレナの~」

こちらの二作品を更新中です。

今後も楽しんで頂けるよう書き進めていきますね。


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