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《1/15 小説3巻・コミカライズ1巻発売!》裏庭のドア、異世界に繋がる ~異世界で趣味だった料理を仕事にしてみます~  作者: 芽生


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126話 ギルドの依頼と新じゃがの季節

おはようございます。

ブックマークや良いね、評価など

嬉しく思っています。




「こっちでいいかな?」

「もうちょっと間隔開けた方がいいわよ。プランターも鉢もまだあるんだから」


 青空の下、恵真と祖母の瑠璃子は買ってきた苗を植えている。

 バジルはもちろん、苺にシソ、ローズマリー、数種のハーブを試すことにした。トマトやきゅうりはもう少し暖かくなってから植える予定だ。


「これからは朝、忘れないようにしなきゃね」

「暖かくなってきたから、成長が楽しみね。あら」


 隣の岩間さんの家の桜が風に吹かれて散っていく。

 先日、岩間さんのお宅で花見をしたが、華やかで見事な花とその下で食べる食事はこの時期ならではの特別なものだと恵真は思ったものだ。

 桜は終盤に近付いてきたが、春はまだ続く。過ごしやすい天候は植物にもいいだろう。

 これから育つ植物とその料理への期待で、恵真の心は弾むのだった。



*****

 

「ギルドからの依頼……それも3つのギルドからですか!?」


 向かいに座ったセドリックから告げられた言葉に恵真は驚きの声を上げる。

 恵真の隣に座ったリアムが恵真の驚きを肯定するようにセドリックに鋭い視線を投げた。


「面倒なことになってしまい、申し訳ない。ですが、始めは商業ギルドのみの依頼だったのです。ただ、そうなるとトーノさまの御力を彼らが利用する可能性もある。それで断ろうとしたのですが……」

「何か問題があったんですか?」

「えぇ、依頼の内容が街全体のためになることだったんです」


 確かにそれでは冒険者ギルドも断りにくいのだろうと恵真は思う。だが、それがどうして冒険者ギルド、商業ギルド、そして薬師ギルドと三つのギルドからの依頼になるのかが疑問なのだ。

 そんな恵真の考えは表情に出ていたらしい。リアムが説明を続けるよう、セドリックに視線で促す。


「は、それが商業者ギルドと冒険者ギルド共同での依頼にし、我々がトーノさまをお守りしようと考えていたのですが、どこからかサイモン氏がその情報を掴みまして……」


 その先は聞かずともなんとなく察してしまう恵真だが、セドリックは説明を続ける。


「薬草の女神がかかわるなら自分も絶対に依頼に加わると言って聞きませんでして……えぇ、彼はこの街のギルド長ではないんですがね」


 確かにサイモンを止めるのは難しいだろうとは恵真にもわかる。だが、三つのギルドからの依頼となると恵真にとっても気後れする部分があるのだ。


「……セドリック、大事なことを話していないだろう。今回の依頼の内容だ」

「あぁ! そうだな、予定外のことに俺も頭が回っていなかった。ご安心してほしいのは今回もまた料理に関してです。決して分野外のことではありませんので」


 その言葉に恵真は少し安堵する。

 黒髪黒目であることは特別視され、おまけにクロは魔獣らしい。

 それを知った商業者ギルドに新たな商品や魔道具を依頼されても、恵真には何も作れない自信しかない。

 だが、料理となれば話は別だ。何かしらの形で協力できることがあるかもしれないと恵真にも思えてくる。

 それにセドリックが断れなかった理由は街のためになることかららしい。この街のためになるのなら、ここに住むアッシャーやテオ、アメリアたちのためにもなるはずだ。

 恵真は隣で案ずるように見ているリアムに頷くと、セドリックにも頷く。


「そのお話、詳しく聞かせて貰えませんか?」


 セドリックはその言葉に表情を一瞬で明るくする。

 断れたらどうするのか、一方もし受けたとしても冒険者ギルドに所属する彼女にとって不利益にならないようにと厳重に注意されてきたのだ。

 恵真の隣で厳しい目を注ぐリアムを気にしながらも、セドリックは今回の依頼内容を丁寧かつ丁重に説明するのだった。


 

*****

 

 

 恵真から話を聞いたアッシャーとテオは目を輝かせ、バートは気の毒そうな視線を恵真に送る。その隣でリアムは生真面目な表情で紅茶を飲む。

 三つのギルドから依頼を受けるほど、恵真の仕事は信頼と影響を与えていると考えたアッシャーとテオが喜ぶのは無理もない。

 一方で三つのギルド、そしてそのギルド長の面倒くささを知っているバートは恵真を心配しているのだ。


「いやぁー、セドリックさんも冒険者ギルドもマシな方なんすよね」

「マ、マシな方とは?」


 ポットから紅茶を注ぐ恵真の表情が引きつる。

 確かに冒険者ギルド長のセドリックは豪快だが気のいいところがあり、今回も彼が間に立ち、交渉を進め、三つのギルドの依頼をまとめたらしい。

 リアムが言うにはどうやら副ギルド長のシャロンという女性が非常に優秀でセドリックをサポートしているとのことだ。


「んー、まぁ薬師ギルドのギルド長は今回関係ないっすね。まぁ、影の薄い人ではあるんすけど」

「あぁ、今回はえっと、サイモンさんが担当するそうです」

「そうっすよねぇ。出てくるっすよねぇ、あの人」

「まぁ、そう悪い人でもないんですけどね……あの商業ギルドの方はどんな方なんですか? 商業者ギルドの気風というか、雰囲気というか」


 サイモンは薬草を扱う恵真に対し、過剰に敬意を示す。

 そんなサイモンに驚かされることも多々ある恵真だが、それ以外は紳士的であり、アッシャーやテオにも親切であり、特に問題はない。

 セドリックや冒険者ギルドはもちろん、サイモンとも良好な関係と言える。

 だが、商業者ギルドに関しては恵真は今まで接点がなかったのだ。

 ちらりとバートが横のリアムを見る。すると、それまで黙っていたリアムが口を開いた。


「商業者ギルドはこの街の経済を動かすうえで必要な存在です。ですが、利益を重視するために冒険者や薬師とは対立することもあります。私がトーノさまを商業者ギルドではなく、冒険者ギルドに所属するように勧めたのは、冒険者ギルドが所属する者の立場を優先してくれる。そんな判断からです」

「商業者ギルドは違うんですか?」


 リアムは言葉を選びながら恵真の問いかけに答える。

 商業者ギルドの在り方そのものはこの街に有益なのだ。だが、恵真本人にとって良いかというと話は別だ。


「全体の利益を求めるのが商業者ギルドです。彼らにも彼らの考えがあるかとは思うのですが……それがトーノさまにどのような影響を与えるかを考えると少々懸念がありまして」

「確かにそうですよね。私のしたいことと商業的にいいことが合わないことも出てきますよね……ありがとうございます」


 確かに全体の利益を考慮すれば、恵真の希望や考えを優先できないだろう。リアムが冒険者ギルドに所属させたのは自分を守る意味があるのだと恵真は再認識する。

 冒険者ギルドにバゲットサンドを卸し、それを任せているナタリアやギルド長のセドリックとも良好な関係を築けているのだ。


「商業者ギルド長って確か女性っすよね。華やかな感じで仕事が出来そうな……氷の女王って呼ばれてんすよね。冷静で表情を崩さない美人だって聞いたことがあるっす」

「わぁー! 格好良いですね。お会いするのが楽しみです」

「トーノさま、当日は私も同席致しますが、くれぐれもご注意ください」


 黒髪黒目はこの国では聖女の象徴である。

 まして魔道具を持ち、魔獣を従える女性であればその存在を利用しようと考えるのが商業ギルドの発想だとリアムもバートも推測する。

 その予測が外れようとも警戒するに越したことはないのだ。


「依頼の内容はあれですよね、この街の名物を作ってほしいっていう極めて健全な依頼っすよね。冒険者の街というくらいで名物や名産のないマルティアにはぴったりな内容だし、そりゃ断りにくいっすよねー」

 

 食器を片付けていたアッシャーとテオがその言葉でまた目を輝かす。

 この街の名物を作る、そんな依頼を自分たちが働く喫茶エニシの店主恵真が受けるのだ。二人が期待するのも無理はない。


「でも私この依頼、凄く楽しみなんです! この街の名物を作るってことはこの街に住む皆さんの力になれるってことですから!」


 そう意気込む恵真だが、名物や名産を作るというのはこの国への知識が必要である。街へ出歩いたことのない恵真はマルティアで採れる農産物を知らないのではとリアムは気付く。


「トーノさま、何をお作りになるか、候補はお決まりですか? もし、必要であればこの地で採れる食材など購入して参りますが……」

「食材も何を作るかも決まってます! 前回、諦めたものを今回なら作れるかなって考えているんです」

「前回、諦めたものですか?」


 そう呟いたリアムはバートに視線を向けるが、バートも首を横に振る。

 以前、冒険者ギルドに依頼があったのは侯爵令嬢であるシャーロットに卵を使わない菓子、パンデピスなどを作ったときだ。それ以外にギルドからの依頼はない。

 恵真の言う、前回諦めたものが何か二人にはわからないのだ。

 そんな二人に恵真はピッと人差し指を立てて、嬉しそうに話し出す。


「一つ目はポテトサラダ。これは今回も難しいと思うんです。冷やす必要があるし」

「あぁ、前に食べたことがあるあれっすね! 確かに旨かったっすけどあれは作れないっすよねぇ……え、ってトーノさまが使いたい食材って……!」


 バートが目を丸くし、リアムも驚いて恵真の方を見る。

 そんな二人に自信ありげに頷く恵真は使う食材と料理名を発表した。


「はい! 使うのはじゃがいも。料理はフライドポテトにします!」

 

 前回は大量に油を使うのが難点で諦めた。

 だが、今回は街の名物を作るのだ。扱う店は飲食店や酒場、どこも油ならば用意できるはずだと恵真は考えたのだ。

 そして、その味も多くの人に受け入れられる。そんな自信が恵真にはあった。

 一方でリアムとバートはどこの地域でも取れるじゃがいもをマルティアの名物にしようという恵真の発想に驚く。

 名物というのは名産品で作るもの、そう彼らは思っていたからだ。

 まして、徐々に普及し始めたものの、じゃがいもをメインにした名産料理。この考えも大胆なものである。


「美味しいですし、今がちょうど旬なんですよ、新じゃがの!」

「うわぁ、楽しみですね! きっと人気が出ると思います!」

「エマさんが作ったのが街の名産になるって格好いいねぇ」


 じゃがいもを使った名産料理、これを商業ギルドがどう思うか。

 嬉しそうに話す恵真とそんな恵真の料理に期待するアッシャーとテオ、その微笑ましい光景を眺めながらも、気を引き締めなければと思うリアムであった。


「裏庭のドア、異世界に繋がる」

「転生令嬢の甘い?異世界スローライフ!」

どちらも書いています。

楽しんで頂けたら嬉しいです。

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