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《1/15 小説3巻・コミカライズ1巻発売!》裏庭のドア、異世界に繋がる ~異世界で趣味だった料理を仕事にしてみます~  作者: 芽生


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 プロローグ

「書いてみたいな」「書けるかな」

いや考えるよりも挑戦してみよう、そんな気持ちで始めました。

至らぬ点が多いかと思いますがよろしくお願いいたします。


 この街には今、話題の店がある。

 その店は数か月前に突然「現れた」。以前、そこがどんな店だったのか誰も覚えていない。宿屋だったという者もいれば金物屋だという者もいる。気が付けばそこには新しい店があったのだ。


 その店というのが「喫茶エニシ」である。店の壁は不思議な素材で出来ており、窓は濁りのないガラスが入っていて美しいレースが目隠しになっている。温かみのある木の扉は美しい細工が入り、その店が特別である事を語っている。

 

 街ではその店に関する噂が幾つもある。真偽不明なものもあるが共通して語られているのは、店主が異国の高貴な方ではないかということ。美しい黒髪を持つ店主は華美ではないが上質な衣服を纏い、またその所作は洗練されている。何より経済的に余裕のある身分の高い方ではないとこの店を維持することは難しいだろう。


 喫茶エニシは決して高級店ではない。この街の一般的な大衆食堂とそれなりの高級店の間くらいの価格、少し背伸びしたら庶民でも利用できるくらいの価格なのだ。店構え、食事、サービス含めどう考えても採算が合わない。きっと店主は金銭、そして心に余裕がある方なのだと人々は推察した。


 この店は全てにおいて優れていた。店内は木製の落ち着いた温もりを感じる調度品が置かれ、中央に長いテーブルがある。カウンター席もあり、こちらでは調理する姿を見ることが出来る。椅子は木製でありながら、これまで座ったどの椅子よりも座り心地が良い。

 席に着き、まず運ばれてくるのは水が入った透明度の高い薄いガラスのグラス。繊細な薄いグラスはこれ一つでもそれなりの値段が付くはずだ。それをエニシでは庶民である客に触らせている。

 また驚くべきことにそのグラスの中には氷が浮かんでいるのだ。グラスと同様に透明な氷を提供できるのは自らが優れた魔術士か高価な最新の魔道具を手に入れられるだけの身分の高い人物だからであろう。

 このようなサービスは王都でも受けられないのではと人々は噂した。何より高価で価値あるものを、自分たち庶民に当たり前のように差し出す、そのような丁重な扱いを人々は受けたことがなかった。


 店には小さな黒い魔獣がいる。店主と同じく美しい黒い毛並みの魔獣は緑の瞳を持っている。

 緑の瞳を持つのは魔獣だけだ。魔獣は賢く、その名の通り魔法を扱える高貴な存在だと言われる。とすれば、この小さな魔獣にも高い魔力が秘められているはずだ。それゆえ女性である店主でも安全に営むことが出来るのだろう。


 街の者はこの特別な新しい店の女主人に様々な想像を巡らせる。ある者はなんらかの事情で祖国を追われた高貴なお方であるといい、またある者は高名な魔術士ではという。若く見えるが見識があることから何百年も生きたエルフ族ではと思う者もいた。

 だが、実際はどれも違う。


 彼女、遠野恵真の家には異世界へ続くドアがあるのだ。



ありがとうございました。

楽しんで頂ければ幸いです。

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