帰ってた男
オドオドとした様子でリビングに入る。
よしよし、だれもリビングにいないようだ。
「おー、我が愛おしい然、使郎」
知らない人が全裸で現れました。
「然!」
「はい」
阿吽の呼吸で然が渡してきた携帯を受け取った僕は流れるような動きでボタンを押す。
110と
「もしもし、警察ですか! 知らない人が家にいるんです!」
「パパだよ⁉︎ パパを忘れたの⁉︎」
慌てたような不審者。
ふ、嘘つきめ、僕のパパはな!
「僕の父親はアイド○マスターのアプリに月5万も使わない」
「それは彼女達が可愛すぎるからだよ! 可愛いは正義!」
いい歳してなんてふざけたことを言ってるんだ。
「僕と彼女達どちらが大事なんだ!」
「彼女達に決まってるだろ!」
こいつ躊躇わずに言い切りやがった。
「パパはな、今回のイベントのために課金したんだ。課金はキャラクターへの愛なんだ!」
「お金がなければ繋ぎとめれないアイドルグループなんて腐ってしまえ」
「然ちゃんひどい!」
然が意外と容赦なかった。パナぃっす! 然さん!
ふぅ〜と父さんはため息を着く。
「いいかい? 然。CDと一緒なんだ。買うことに意味があるんだ」
「私はiipdに購入派よ」
「し、シリアルコードとか…… 握手券とか」
「なにより安いわ」
「ぐ、しかし……」
父さん、言いくるめられてるじゃん。娘に言い負かされる父親って。
「なによりパッケージを見て買ったり、シリアルコードや握手券目当てで買っていて歌手は喜ぶの!」
「し、然ちゃん!」
雷に打たれたかのような衝撃を受けたのか父さんの顔が驚愕に変わる。
まぁ、アイドルグループとしてはどんな理由があれ売れたら嬉しいんじゃないのだろうか?
「然ちゃん、父さん、目が覚めたよ」
「父さん!」
「どこに目覚める要素があったんだよ」
全くわからない。
「やっぱり杏ちゃん推しで行くしかないね! あと3万円追加だ」
「「おい!」」
こいつ反省してない! それどころか悪化した⁉︎
あのiPhoneを取り上げないと我が家の家計が大変なことに!
「なにを騒いでるのかしら〜」
「あ、母さん!」
リビングで騒いでいると才華を連れた母さんが買い物袋片手に入ってきた。そして全裸の父さんを発見すると寒気が発するような笑顔を浮かべながらスーと音も立てず脂汗を流す父さんに近づいて行った。
「あれは死んだな……」
「愚民兄、然姉様! アイスをやってもよいぞ!」
才華が手にしたアイスをこちらに見せつけてくる。うむ、遠慮なくいただこう。
僕が才華からアイスを受け取ろうとすると然が一歩前にでた。
「才華、『やってもよいぞ!』とはえらく上から目線ね」
「え、え?」
「才華は妹で私は『姉』よ、使郎はどうでもいいけど」
「いや、どうでもは良くないだろ」
一応、兄なんですけど。
「す、すいませんでした! 然姉様」
「私に献上する時のポーズは?」
「は、はい!」
才華は返事をするとすぐさま正座、頭を下げ、掲げた両手の上にアイスを乗せ、高々と上げる。
「どうぞ! 才華からねアイスをお受け取りくださいませ! 然姉様!」
「うむ」
「うわぁ」
実の妹にここまでする然にはマジで引く。
「貴方、ちょっとお話が……」
「パル! 止めるな! 私は杏に愛を!」
「クレジットカードの請求書についてなんですけど」
「……」
「入院してから随分景気良く使ってたみたいね〜」
父さんはiPhoneを弄る手を止め、ジリジリと後ろにさがり
母さんから距離を取ろうとしていた。
「少し、話をしましょうか」
「ひぃ! 止めて! 痛い! 髪が、ハゲるぅ!」
母さんが父さんの髪を掴み、引き摺りながらリビングから出て行くのを僕ら兄妹はアイスを食べながら見ていた。
「大人って大変ね」
「そうでありんすね! 然姉様!」
「いや、あれは極めて例外だと思うよ?」
しばらくして何かがひしゃげる音と、父さんの絶叫が家に響き渡った。
後日、父さんのiPhoneは取り上げられプリペイド携帯になった。
天白家は今日も平和です。(父さんは最近壊されたiPhoneを見ている時間が多くなりました)
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また、こういうネタでやってほしいみたいなものがあれば教えてくれれば幸いです




