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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第九十六話 王城での一幕


 エルマーとユリアが仲良く戯れ――エルマーに関しては人生の墓場に一歩足を踏み入れていたりするが、ともかくそんな時刻。


「……さて? 何か申し開きはあるか?」


 王城の一室、国王陛下の執務室にて『ギン!』と睨みつける様な視線を向ける男に、ラージナル王国国王、アベル・ラージナルは気付かれない様に小さくため息を吐いた。


「……流石に不敬だ、メルウェーズ公」


 そう言われたメルウェーズ公爵、アルベルトはふんっと鼻を鳴らす。


「ああ、これはこれは失礼いたしました、国王陛下。ご壮健の様で何より。それで? 子育ての方は順調ですかな? 聞くところによるとお宅の第二王子殿下は、公衆の面前で私の娘に恥を掻かせたと聞きましたが?」


「……悪かったよ、アルベルト」


「最初からそう言え。なにが『不敬だ』だ。そう思うなら『此処』を選ぶな」


 アルベルトの登城を聞いたアベルが指定したのは国王執務室。これが公式行事ならアベルも『謁見の間』、或いは『玉間』を選ぶが、そうではない、プライベートに近い空間である執務室を選んでいるあたり、アベルの本心が透けて見えるというものだ。


「……まあ、そう言ってやるなアルベルト。アベルも色々考えているんだ」


「……お前はいつもそうやってアベルを甘やかすな、ブルーノ。良いか? お前ん所の息子がしっかり手綱を握っていなかったから、こんな事になったんだぞ?」


「……酷いとばっちりだ」


 アルベルトにそう言われ、肩を竦めて見せる王国宰相ブルーノ・ハインヒマン。正直、知ったこった無い気分ではあるが……まあ、娘を持つ父親のこれくらいの苦言ならば許すしかない、という気分でもある。実際、酷いことだし。


「……それで? アルベルト的にはどういった落としどころがお望みだ?」


「エドワード殿下の廃嫡、ルドルフ殿下を王太子に。現実的にこの辺りが落としどころだろう」


「……そうなるか~」


 アルベルトの言葉に難しそうに眉を顰めるアベル。そんなアベルの仕草に、アルベルトはため息を吐いて見せる。


「……まあ、お前がエディ殿下『推し』なのはよく知っている。よく知っているが……今回の件は中々にヤバい」


「まあ、メルウェーズ家のメンツ丸潰しだもんな」


 実際、『王妃候補』として王城にも出入りしていたディアだ。そんな娘が、公衆の面前でフラれる、なんて、流石にメルウェーズ家のメンツが立たない。



「はん。何を馬鹿な事を言っている。そんな事でメルウェーズ家のメンツがどうこうなる訳が無いだろう。ラージナル王国最大貴族だぞ?」



 立たない、訳ではない。これが、どこかの侯爵、伯爵レベルであれば『恥を掻かされた』と泣き寝入りだが、天下のメルウェーズ家、こんなものは瑕疵にもならないのである。


「尤も、ウチも無傷という訳ではないが……まあ、所詮何を言われようが、メルウェーズの家格が下がることはない。賠償はきっちり貰うがな?」


「それに関しては全面的にこっちが悪いからな。まあ、多少は幼馴染の誼で緩くしてくれると嬉しい」


「馬鹿を言うな。幼馴染の誼だから賠償で勘弁してやっている。これが幼馴染じゃ無ければ『こう』だぞ?」


 首の横で親指をさっと右から左にスライド。その仕草にアベル、冷や汗が止まらない。


「まあ、それはどうでも良いし……メルウェーズのメンツ云々は建前にすぎん。問題は」


「……諸侯貴族、か」


「……そうだ。お前だって分からない訳が無いだろう、アベル?」


 アルベルトの言葉にアベルは重々しく頷いて見せる。そんなアベルに、アルベルトが小さくため息を吐いて見せた。


「……諸侯貴族の気持ちも分からないではない。言ってみれば我が家は諸侯貴族の旗印みたいなものだ。それをお前、宮廷貴族の親玉の息子に小馬鹿にされてみろ? 怒り心頭だぞ?」


「そこまで絆が強かったか、諸侯貴族? 義憤で怒る様なタイプじゃなかったと思ったけど?」


「義憤な訳ではない。単純に、諸侯貴族の親玉のメンツをズタボロにしたんだぞ? それ以下の貴族は戦々恐々に決まってるだろう? 『王家は諸侯貴族なんて歯牙にもかけない』なんて、諸侯貴族にとっては悪夢みたいなものだ」


 ディアの王家への嫁入り、というのはこういう側面もあるのだ。だから、『エディ』にではなく、『次期国王』が婚約者なのである。言ってみれば諸侯貴族と宮廷貴族を結ぶ『絆』なのだ。王家サイドからしてみれば、『蔑ろにしているわけじゃないよー』というポーズだったのだが、これが今回は完全にひっくり返っちゃったのである。


「……無論、エディ殿下がディアを蔑ろにしているとは俺は思わない。あの年頃なら色恋に熱を上げるのもまあ、分からんではない。だが、それはエディ殿下を幼少から知っている『私』だから言えるセリフだ」


「……まあな」


「流石にこれは不味いぞ、アベル? このままエディ殿下を国王にすると」


『自分たちを蔑ろにしている王子』が次期国王陛下なのだ。諸侯貴族の恐怖と怒りは頂点に達するだろうし。



「……今の内になんとかしろ。俺が『馬鹿』のフリをしている間に、なんとかルディ殿下を王太子にするんだ」



 王国の平和のためにな、というアルベルトに、アベルは今日一番のため息を吐いた。


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