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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第八十八話 公明正大


「え、ええっと……」


 ユリアの言葉に、きょとん顔を浮かべるクレア。そんなクレアに『人を嘘つき呼ばわりするな!』と憤るユリア。端的に言って、カオスである。


「……その、ユリア先輩? ユリア先輩、さっき言ってましたよね? 悪女って」


「はぁ? ルディ様、何言ってるの? 私、そんな事一言も言ってないし! 言ったのはあの子じゃーん!!」


 ビシっとクレアを指差すユリア。そんなユリアに、ルディは尚も口を開きかけ――そして、気付く。


「……ああ、なるほど。確かにユリア先輩は悪女なんて言ってないですね」


 そうなのだ。『悪女』というワードを出したのはクレアだし、『悪女が側にいたら迷惑』と言ったのもまた、クレアなのだ。クレアなのだが。


「で、でも、ユリア先輩! 先輩、私にエルマー先輩の側に居たら迷惑だって……」


「だ、か、ら! 迷惑なんて言ってないし!! アナタがエルマー様の側に居て、エルマー様が惚れたら困るって話だし!!」


「え、っと……」


「クラウディア様、物凄い美少女じゃん! なのにエドワード殿下、殆ど一目惚れでアナタに告白して、クラウディア様を袖にしたんだよ!? そんな魅力的な子、エルマー様の側に置いて置ける訳ないし! そもそもエルマー様、女子慣れしてないし? 絶対、この子に惚れるじゃん! 据え膳どころか口元に持って行って『あーん』をしてあげる様な真似、したくないし!!」


 一息でそう言って『きっ』とクレアを睨むユリア。そんなユリアにきょとん顔も一瞬、クレアは泡を食ったように口を開いた。


「じゃ、じゃあ! ユリア先輩は『悪女』って噂が流れているから私が憎い訳じゃないって事……ですか?」


「はぁあ? アナタが悪女? アナタの何処が悪女だし! ただ、その美貌でエドワード殿下に惚れられただけじゃん!」


「あ……」


「別にエドワード殿下を手玉に取ったりしている訳じゃないし? え? 違うの? 手玉に取って弄んでんの? それでクラウディア様に『ざーんねん。この男、私が貰ったから~』みたいな行動、してるし? それだったら、正直軽蔑するけど……」


「し、してません! そんな事、する訳ないじゃないですかっ!!」


「でしょ? じゃ、アナタは単純にエドワード殿下に見初められて、告白されただけ。それの何処が悪女だし。ただの美少女じゃん」


「……」


「正直、美貌勝負で私はクラウディア様に勝てると思ってないし。エドワード殿下が惚れる程の美少女、エルマー様の隣に置いておくのは普通にイヤだし。ルディ様も分かるでしょ? こういう気持ち」


「……まあ、うん。分かります」


 自分の意中の男性の隣に、自分ではない女性の陰がちらつく。その上、その女性が王子様二人を手玉に――まあ、取っているわけではないが、王子様二人に少なくない好意を寄せられている美少女だ。そんな美少女が側にいたら、冷静になれる訳がない。なれる訳がないが。


「……ちょっと意外ですね、ユリア先輩。僕はてっきり、クレアの事を『悪女』だと思ってるって思いましたが……」


 ルディのそんな言葉に、ユリアは小さくため息を吐いて見せる。


「……さっきも言ったけど別にこの子が『悪女』なわけじゃないし。むしろ、エドワード殿下が何してるしって感じ? 殿下の方がよっぽど悪いよ。だってさ、ルディ様? あんな公衆の面前でこの子にプロポーズなんかしたら、絶対腫れ物扱いになるの、ちょっと考えたら分かるじゃん? そういう意味じゃ、この子に同情するし」


 少しだけ憐憫の表情を見せるユリア。が、それも一瞬、ユリアの目にさらなる力が宿る。


「――でも、それとこれとは別の話だし! この子が可哀想な子って言うのは分かるし、同情もする! 必要なら助けてもあげたいとも思うけど……でも! だからって言ってエルマー様は渡さないし!! 勝ち目が無いのは分かっているから、最初から近付けないのが一番だし!!」


 どうだ、と言わんばかりに胸を張って――随分情けない事を言うユリア。そんなユリアに、ルディは少しだけ感心した様な視線を送る。


「……必要なら助けてあげる、ですか?」


「だって、この子明らかに被害者じゃん? 腫れ物扱いされているのは私もそうだけど……私の場合、自分のせいが九割だし? だからまあ、私が腫れ物扱いされるのは自業自得だし。でも」


 ――この子は、違う、と。



「巻き込まれ事故じゃん、これ。流石にそんなの可哀想すぎだし!! 折角、一緒の学園に通う様になった後輩だし!! そんな後輩には楽しく学園生活過ごして欲しいし!! だったら、私に出来る助けはしてあげたいし!!」


 にこやかに、少しだけ胸を張る様にそういうユリアは、そのまま視線をクレアに戻して口を開く。


「でも! だからって言ってエルマー様と同じ部活なんて認められないし!! だから私は、絶対にアナタがエルマー様と一緒の部活に入って、きゃっきゃうふふな学園生活を送ることなんて認め――ちょ、ちょっと!? な、なんで泣くし!? や、やっぱりアナタ、エルマー様の事が好きで、私の邪魔をするつもりなんだ! そ、そんなの絶対、認められないし!!」


 ぎゃーぎゃーわめくユリアをしり目に、クレアはゆっくりと流れた涙を右手で拭って、にっこりと。



「――違います。エルマー先輩と一緒の部活に入れなくて泣いているわけじゃないです」



 ただ、嬉しくて、と。



 この日、クレアは学園に入って初めて、人の優しさに触れた。




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