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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第八十七話 彼女は、言ってない。


 ビシィと擬音が付きそうな程の勢いでクレアを指差すユリア。そんなユリアに呆気にとられた様な顔をするも一瞬、クレアは曖昧な顔を浮かべて見せる。


「あ、あはは~。いや~、ユリア先輩? 別に私はエルマー先輩とどうこうなろうとは思っていませんし……その、ユリア先輩から取るとか取らないとかの話じゃないっていうか……」


 いやいや、私なんて、と言わんばかりに手を左右にふりふりと振ってペコペコ頭を下げるクレア。そんなクレアの三下ムーブに、ユリアの目に険が増す。


「はぁ!? アンタ、何言ってるし! それ、エルマー様に興味の欠片も無いって言ってるって事だし! 私には貴方のおさがりで充分とでもいうつもり!?」


「あ、いえ! そ、そんな事はないですけど……」


 クレア、困り顔を浮かべてチラチラとルディを見つめる。そんなクレアの仕草に、ルディはため息を一つ。苦笑にも似た笑顔を浮かべて見せる。


「いやいや、ユリア先輩? クレア嬢はそんな事思ってないですよ? 本当にユリア先輩とエルマー先輩がお似合いだと思ったからで――」


「嘘だし!!」


「――って、嘘だしって。いや、本当に嘘じゃないんですって」


「嘘だし! だってこの一年、あの」



 クレア・レークスでしょ? と。



「……知っているんですか、ユリア先輩?」


「知っているんですかって……知らない方が珍しいし。だって今、学園で一番ホットな話題だし! エドワード殿下が一目惚れして、入学式でクラウディア様と婚約破棄したって言うのは!!」


 ユリアの睨みつける様な視線に、クレアは目を逸らす。そんなユリアとクレアを見つめ、エルマーが首を捻る。


「……そんな事があったのか、ルディ?」


「……エルマー先輩はなんで知らないんですか。クレアには申し訳ないですけど……有名な話ですよ?」


 一年生の入学式の事件とはいえ、あまりにもショッキングな事件だ。クレアの学園寮生活を見て頂ければお判りいただけるように、そら上級生だって普通に知っている。


「それではクラウディアは……」


「……ええ。ディアは涙を――」



「大喜びだっただろう、クラウディア」



「――流し……え?」


「なんでそんなきょとんとした顔をする。クラウディアだぞ? エディと婚約破棄したのなら、それこそ狂喜乱舞で喜んだのではないか?」


 首を捻るエルマーに、ルディは小さくため息を吐いて見せる。


「……あのね、エルマー先輩? ディアは小さな頃から王妃になるためにすっごく頑張って努力して来たんだよ? エディのお嫁さんになるために。そんなディアが、エディにフラれて狂喜乱舞? する訳ないじゃん。エルマー先輩、もうちょっと人間の機微とか分かった方が良いですよ? 機械いじりばっかじゃなくてさー」


「……」


「……なに、その可哀想な子を見る目」


「いや……ああ、まあ私の言う事では無いしな。仕方ない、ルディだもんな」


「……なんか馬鹿にされた感じがするんですけど?」


 エルマーとて幼馴染。ディアのある種の狂愛っぷりをその目に焼き付けて来たし、反面、虐げられるエディも見て来たのだ。『まあ、本人が気付かなければ意味が無いしな』なんて、お前が言うなな事を思いながら頷くエルマーに、ルディは胡乱な目を向けて、その後視線をユリアに戻す。視線を向けられたユリアはふん、と一つ鼻を鳴らした。


「だから! その子がクレア・レークスなら、エルマー様取られるかも知れないし! クラウディア様だってエドワード殿下を取られたんだし! そんな事になったら困る!!」


 そう言ってぎゅっとエルマーの腕を握るユリア。そんなユリアの姿にドギマギするエルマーを見るとは無しに見て、クレアは乾いた声を上げる。


「……ははは。そーですね。どうせ、私なんて『悪女』みたいな噂立ってますしね。そんな私が側にいたら、ユリア先輩もイイ気分しないですものね……分かりました。それじゃ、エルマー先輩」


 少しだけ、残念そうな顔で。



「……入部の話、無しにして下さい。その……我儘言って申し訳ないですが……」


「……クレア嬢」


「それに……さっきユリア先輩も言ってた通り、私、『悪女』って噂されてるんですよ。だから、私が側にいたらきっとエルマー先輩にも迷惑が掛かりますし……その、本当に申し訳ありません!」


 そう言って頭を深く下げるクレア。そんなクレアに、何か言おうとして口を噤み、それでも口を開いて。




「はぁ!? アンタ、何嘘ばっかり言ってるし!!」




 開いたのは、ユリア。


「……へ? う、嘘?」


「嘘だし! 誰がそんな事言ったし!!」


「い、いえ……でも……え、ええ?」


 完全に混乱するクレア。そんなクレアに、ユリアはもう一度ふんっと鼻を鳴らして。




「アナタが悪女? そんな事、言ってないし!! 私、別にアンタが悪女なんて思ってないし!! 勝手に人が言った事にすんなし!!」





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