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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第八十六話 だって、彼女の方が純粋だから。


『うわー……そんな軽小説に出てくるようなテンプレの女の子、居るんですか? 正直、ちょっとドン引きなんですけど……』と、ルディにだけ聞こえる声で呟くクレアに、ルディもため息を持って応える。


「……だよね」


 正直、ルディも最初に聞いた時は『なに言ってんだ、コイツ』状態だった。それまでのユリアは――まあ、ディアなんかに比べれば劣るものの、それでも立派に伯爵令嬢としての風格を持っていたのである。いたのであるのに、その翌日には『うぇーい、でんか~? アゲアゲでいくし~』なんて言ってたのだ。ご丁寧に、豊かな金髪に赤色のメッシュまで入れて、である。劇的ビフォーアフターだ。


「……ちなみにそれ、エルマー先輩に効果あったんですか?」


「……あったと思う?」


「……今の現状見れば、無かったんだろうな~とは思います」


『エルマー様! なんで! 私と食事には行ってくれないのに、なんであの子にだけ優しくするし!!』とキャンキャン吠えるユリアに、エルマーは完全に困り顔。チラチラとルディに助けを求める視線を送るも、ルディはこれを華麗にスルーする。だって。


「……その、ルディ様? エルマー先輩、必死にルディ様の方見てますけど……助けてあげなくて良いんですか?」


「ヤだよ、僕。馬に蹴られるの」


 これである。ユリアの想い自体は別に否定されるものでもないし、どちらかと言えば愛しの殿方の為に――明後日の方向ではあるも、自分を変えてまでアピールするその姿は非常に好意的に映ったのだ。まあ、エルマーがクソボケじゃ無ければもう少し進展もするのだろうが。


「と、これはクレア嬢にとってはアレかな? あんまりよろしくない展開だったりする?」


 ルディのその言葉に、クレアは人差し指を顎に置いて『うーん』と中空を見つめる。その間数秒、にっこり笑ってクレアは首を左右に振った。


「いいえ! そうですね、ユリア先輩に頑張って貰いたいかな~と思います!!」


「……僕が言うのもなんだけど、良いの? さっきはいい雰囲気みたいだったけど……」


 ルディの言葉に頬をポリポリ掻きながら『たはは』と笑って見せるクレア。


「あー……そうですね。まあ、正直ちょっと『ドキっ!』とはしましたよ? エルマー先輩イケメンですし」


「……エディもエドガーもイケメンだよ?」


 というか、同じ顔である。おのれ、『わく王』。


「話の途中ですよ、ルディ様。確かに皆さん、容姿の整った方々だと思います。思いますけど……」


 そう言って目のハイライトを消して。




「――流石に自分の都合ばっかりじゃないですか、皆さん?」




 ……なんも言えねぇ。


「エドワード殿下は言うに及ばずですし……エドガー君も皆に話しかけられてるのに『今、僕はクレアと話しているんだ。邪魔しないで?』とか言うし。アインツ様とクラウス様もなんか周りでやいのやいの煩いし……これ、完全に私の事情とか斟酌してくれてませんよね? ルディ様から一言言って貰えません? 『君たちのせいでクレア、ますます孤立するよ?』って」


「……善処します。わりと、マジで」


 ルディ、心からの反省の弁である。弟と幼馴染の不始末でもあるし、流石にこう……クレアが不憫すぎて。


「……そんな中、エルマー先輩だけはなんかこう、気を使ってくれているというか……自分の事情をこちらに押し付けないって言うか、私の事を考えてくれているっていうか――――ルディ様? なんですか、そのピジョンがビーンズ喰らったみたいな顔をして」


「え……あ、いや……」


 ルディの顔に驚愕の色が浮かぶ。だって、だってだ。




「エルマー先輩が? 人に気を使う? 天上天下唯我独尊、気に喰わないことなら技術院の人間だろうが王城の役人だろうが、大上段でぶった切るクソ陰キャのエルマー先輩が……え? は? はい? それ、エルマー先輩の偽者じゃなくて?」




「……ルディ様がエルマー先輩の事をどう思っているかよくわかりました。でも、そんな事は無いですよ? エルマー先輩、私には優しくしてくれてましたし」


 そう言ってにこやかに笑んで見せるクレア。その表情に、嘘をいっている訳では無い事を感じて。


「……クレア嬢、頭とか打ってないよね?」


 今度はクレアの正気を疑った。そんなルディに、クレアはぷくーと頬を膨らませて見せる。


「なに言ってるんですか! 私は正常です!! エルマー先輩は物凄く優しくしてくださいました!! そんなエルマー先輩ですし、良い人だな~とは思います。思いますが……」


 少しだけ、眩しいものを見る様な表情でクレアはユリアを見つめて。


「……あそこまで純粋にエルマー先輩の事を思えませんもん、私。言ったでしょ? 婿取り必至だって。だからまあ……不純な考えの私より、ユリア先輩の方が良いでしょう、エルマー先輩には。そもそも、私の好意は別にエルマー先輩だから向いたんじゃないと思いますよ? きっと、優しくされたら誰でも良かったんじゃないかと思います」


 言外に『私は身を引きます』というクレア。そんなクレアに、何か言葉を掛けようとルディは口を開きかけて。




「そこの一年生!! エルマー様は絶対にアンタなんかに渡さないしぃ!!」




 そんなユリアの言葉が、さして広くない部室に響き渡った。



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