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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第七十九話 エドガーとエディ


 学校から帰り、エドガーから面会を求められたエディは自室にエドガーを招いた。招いたのだが……直ぐに、その決定を後悔することになる。


「……その……」


にっこりと微笑むエドガーの姿をみて、エディは何時にない緊張感に溢れた表情を浮かべて見せる。どちらかと言わずともルディ寄り――『イイ人』に分類されるであろうエドガーのこんな表情、今までに見た事がなく、その為エディは。


「……エドガー? なんか怒っているのか?」


「ん? 怒っているって……エディはなんでそう思うのか?」


 だってお前、笑顔なのに目が笑ってないじゃないか、とは流石にエディも空気を読んで言わない。


「……なんとなく、いつもより笑顔に迫力があるからな」


 そんな言葉でお茶を濁す。その回答に、エドガーはますます笑みを深めて。


「そう? それじゃ、エディの言う通り――怒ってるよ?」


 ますます笑みを深めるエドガー。もう『笑った』じゃなく『嗤った』レベルの笑顔に、ぞぞぞとエディの背中に怖気が走る。端的に言って、今日のエドガーは怖い。


「……その、何かエドガーの気に障ったのであれば謝る。謝るから、どうか怒っている理由を教えてくれないか?」


 エディとエドガーもまた、幼馴染だ。加えて両方とも王子であるし、頭を下げる事に痛痒はない。むしろ、どちらかと言えば仲良し幼馴染だったこの男と喧嘩になるのは避けたいと思い、エディは素直に胸襟を開いて許しを乞う。そんなエディの態度に、幾分か表情を緩めたエドガーは小さくため息を吐いて見せる。


「……クレア嬢の事だよ。聞いたよ、エディ? 一体、何考えてるのさ?」


 エドガーのその言葉に、エディは顔をゆがめて見せる。痛い所を突かれたと言わんばかりのその表情に、エドガーは少しばかり語気を強めて見せる。


「本当に、なに考えてるのさ? エディ、君はもっと賢い子だと思ってたよ? 安い軽演劇でももう少しデティールに凝るのに……入学式のその式場で、婚約破棄と新たな婚約者って……本当に、なに考えてるのさ?」


「そ、それは……」


 口を開けて、閉めて、天井を見上げ、床を見下ろし――そんな事を数度やった後、エディは小さくため息を吐いた。


「……すまん。軽率だったのは認める」


 のち、謝罪。そんなエディの謝罪に、エドガーは先ほどのエディ同様ため息を吐いて見せる。


「はぁ……まあ、僕に言われるのは納得が行かないかもしれなし、エディにはエディの考えがあったのかも知れないけど……でもさ? 流石に入学式の日に『それ』はやり過ぎじゃない? クラウディアだって可哀想だと思わないの? 彼女、きっと傷付いてるよ? 彼女と君との間で納得しての婚約破棄ならともかく……言っておくけどクラウディアは僕にとっても大事な幼馴染なんだからね? エディ、その辺分かってる?」


 エドガーにとってはディアだって幼馴染だ。幼馴染同士の喧嘩なら口を挟むことはしないが、片方が一方的に傷つけられたなら話は別だ。そう思い、少しだけ睨むような視線を向けるエドガーに、エディは小さく首を捻り。




「なに言ってるんだ、エドガー。クラウディアが傷付く? そんな訳が無いのは分かるだろう? 拍手喝采、いい仕事をしたと褒められたぞ?」




「…………うん、ごめん。そうだね、クラウディアは傷付く事は無いかも知れないね」


 幼馴染だからこそ、ディアのルディに向ける視線には気付いている。というか、隠そうとしないディア側にも問題があるが……ともかく、『婚約者の兄』に向ける視線では無かった。『情愛』というか、『深愛』というか……まあ、ともかく重たい視線である。エドガーとて忘れていた訳ではないが、幼馴染の泥沼の昼ドラ展開は所望しておらず、意識の片隅に追いやっていただけだ。


「そうだろう? クラウディアだぞ? これで大手を振って兄上争奪レースに参加できるとばかりに大喜びだったんだぞ?」


「……それはどうなの? エディ的に」


「今更の話だろ?」


 エディの言葉にエドガーはため息を吐く。まあ、分かっていたことだし……今回の本題はこちらではない。


「まあ、クラウディアの事はいいや。想像もつくし……大喜びだったんだろうし。でもさ、エディ? クラウディアはエディの婚約者だったけど婚約破棄したわけじゃない? それで……どうするの?」


「どうする、とは?」


「惚けているのか、本当に気が付いていないのか知らないけど……あんまり感じが良くないよ、それ? 分かってるでしょ?」



 ――クレア嬢の事だよ、と。



「本気で王妃として迎え入れるつもりなの? この国で、クラウディアを――メルウェーズ家を敵に回して生きるのはちょっと得策じゃないんじゃないかな? もしかしたらエディは責任を感じて『私が守る!』とか思ってるかもしれないけど……」


 そんなの、難しいでしょ?


 にっこりと微笑んでそういうエドガーに、エディは肩を竦めて見せる。


「それで? 回りくどい話は無しだ、エドガー。お前は何が言いたい?」


「簡単な話だよ」


 もう一度、にっこりと微笑んでみせて。




「僕に頂戴よ、エディ? クレア・レークスっていう――『天使』をさ?」






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