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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第七十四話 いや、それが出来ないから『ぼっち』なんじゃないです?


 広げられた設計図をまじまじと見つめ、ルディは思わずため息を吐く。


「……とんでもないですね、先輩」


 少しばかりの羨望のまなざしを浮かべるルディに、エルマーはにやりと笑って見せる。


「まだまだ、だがな。理論上はこれで空を飛べるはずだが……実際に試作品を作って飛ばして見ないことにはなんとも言えないさ。それに現状ではこれは『飛行機』とは言えないしな。自分自身で推進力を得ないものは『飛行機』ではないのだろう、ルディ?」


「……まあ、そうですね。それはグライダーであって飛行機じゃ無いでしょうし」


「だが、此処に小型の蒸気機関を使った推進装置を付けたらどうなる? まずはグライダーで揚力を得られるかどうかを計算し、その後に推進装置を付けるのだ。そうすればそれは立派な『飛行機』と呼べるのではないか?」


「……確かに。エンジンがあれば立派な飛行機ですね」


「ふむ。推進装置の事を何と呼ぶかと思っていたが……『エンジン』、か。それは良いな。これからはエンジンと呼ぼうか」


「……良いんですか、そんな適当な決め方で」


「いいさ。それより、問題は山積みだ。まずはこの模型飛行機――模型グライダーだな。模型グライダーを使って揚力の計算を行う必要がある。それが成功すれば、今度は蒸気機関の小型化だな。それが成功すれば、今度はその小型化した蒸気機関を――エンジンを用いた飛行機の開発だ。どうだ? 私の学生生活――後、二年の間に完成すると思うか?」


 エルマーの真剣な瞳。そんな瞳に、ルディは小さく首を振る。



「――ええ。成功するでしょう」



 飛行機の歴史はそんなに長くはない。ライト兄弟の初飛行は1903年であり、最初の実験である『凧』の実験は1899年である。誤解を恐れず敢えて言えば、アメリカの片田舎の自転車屋の兄弟に過ぎなかった二人の兄弟が、初めての実験からわずか四年で、人力ではあるも動力付き飛行に成功したのである。その後、僅か六年で人類は英仏海峡を飛行機で渡る事に成功している。初飛行からわずか、六年である。


「……成功するでしょうね、これは」


 国家の威信を掛けてやるのだ。田舎の自転車屋がやるのとは訳が違う。


「そうか! ルディ、お前がそう言うなら大丈夫だろう!! ならばこの新発明を、俺と共に成し遂げようじゃないか!!」


 見た事のない様な――陰キャと呼ばれているエルマーにあるまじき、キラキラとした笑顔。そんな笑顔に、ルディもにこやかに笑んで見せ。




「でも……これ、思いっきり陰キャっぽくないです? 僕、もうちょっとキラキラしたことしたいんですけど?」




「――このクソ陽キャが! なんだ? お前、何時からパリピ勢になったんだ!?」


 別に文化系の部活と運動系の部活に優劣はない。優劣はないが、完全にイメージで運動部の方が陽キャが多いイメージが多いのだ、ルディ的には。


「お前というやつは……そもそもお前、発明とか好きだろうが!!」


「いや、まあ嫌いじゃないですよ? 嫌いじゃないですけど……というか、僕はアイデア出し専門じゃないですか? 僕の喋った事をエルマー先輩が形にしただけですし……それなら別に僕、いらないかな~とか思うんですけど……さっきも言ったけど僕、アイデア枯れましたし」


「だから、それでもイイと言っている! お前は俺の設計図を見て、発明品を見て、それで意見をくれれば良い!」


「……それじゃ、たまにアドバイスするとかでどうです? だって先輩、設計図も成果物も一日や二日じゃできないですよね? どんなに早くてもひと月くらいは掛かるでしょうし……いや、それはそれで暇そうじゃないですか? 特に先輩、没頭すると話しかけても返答無いし」


「……ぐぅ」


 典型的な『技術屋』なエルマー。一度集中すると周りが見えなくなるのは彼の悪い癖ではある。まあ、だから彼が所謂『ぼっち』でも平気とも言えるのだが。


「なもんで、必要な時に呼んで貰えたらと思っているんですけど……それか、幽霊部員というか、そんな感じで良ければ入ってもいいですけど……三年間、この部活に青春を捧げるのはちょっと、な感じと言いますか……」


 エルマーの事だ。マジでずっとこの部室に居るだろうし、この部室に来れば少なくともルディの生活は『ぼっち』ではないかも知れないが、流石にそれは暗すぎる青春である。何が悲しくてコミュ障先輩と二人きりで部活をしなくちゃいけないんだと思い。


「なにが悲しくてコミュ障のエルマー先輩と二人で部活しなくちゃいけないんですが。灰色の青春ですよ、それは」


 ……はっきり言うのはルディの美点でもある。まあ、エルマーとルディの仲、気を使わなくても良いというのも一因の一つだが。


「……分かった」


 ルディの言葉に、エルマーはがっくりと肩を落とす。そんなエルマーに、『あ、言い過ぎたかな?』と思い、ルディは声を掛けようとして。




「――つまり、可愛い女の子が居れば良いんだなっ!! そうすれば、お前は技術開発部に入るという事で良いな!! どうだ? 『二人きり』じゃなかったら良いんだろう!! 任せろ!! 部員は俺が必ず勧誘してきてやる!! だから――」




 お前は技術開発部に入れ、と。



「……それが出来ないから、エルマー先輩は『ぼっち』なんじゃないですか?」


「お前、マジで俺には遠慮が無いな!? 見てろ!! ぎゃふんと言わせてやるからなっ!!」


 ルディも大概酷い奴である。


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― 新着の感想 ―
主人公がいないというか舞台裏ですさまじいことをしていた。 なに蒸気機関の開発とか飛行機の開発とかとんでもないことをさらっと裏でしているんだ!! しかも主任技師というか担当は主人公にしか懐かないとい…
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