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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第七十三話 新発明


「……あのね、エルマー先輩? あんまり僕の事、陰キャ陰キャって言わないで貰えません? まあ、別にエディみたいなキラキラ陽キャじゃないですけど……先輩にだけは陰キャって言われたくないんですけど?」


「ふ……何を言うか、ルディ。陰キャは陰キャを知るんだ。エドワード殿下の様に『陽キャ』には分からんさ。大丈夫だ、ルディ。お前は立派な陰キャだ」


「マジで格好悪い上に、本気で失礼ですね。なんですか、陰キャは陰キャを知るって。っていうか、エディの事もエディって呼べばいいんじゃないです? 幼馴染の括りでしょう、先輩だって」


「イヤだ。陽キャがうつる」


「うつらねーよ」


 陽キャは伝染病ではありません、念のため。


「まあ、それは良い。ともかくルディ、お前はこの技術開発部に入るのが一番だ! 心配するな、お前と俺なら天下が取れる! 一緒に技術の道を極めようじゃないかっ!!」


「いや、だから……まあ、テニサー云々は一回置いておいて、流石に技術開発部はちょっとですかね~」


「なぜだ! お前の発想は凄いんだ! その才を活かすのは国家の為にもなろう! あと、テニサーはマジで止めておけ。っていうか、絶対入るな。俺を一人ぼっちにするな。寂しいだろうが!」


「最後に漏れいでた本音がちょっと可愛い。っていうかどうです? 先輩も一緒にテニサー入ります? 別に二年からでも入れるでしょ?」


「イヤだ。あんな陽キャの巣窟に入るなんて死んでも無理だ」


「……うつりませんよ、陽キャは」


「そうじゃない。純粋に、吐く。あいつらの周りには瘴気が漂っているからな」


「……どっちかっていうと瘴気が漂っているのはこっちな気もするんですが」


 技術開発部の部室は学園の端っこも端っこ、旧校舎と呼ばれる中でも最も奥まった場所にある。これは別に技術開発部が差別されている訳ではなく、単純に設計から開発の間に広大なスペースが必要であり、安全性の観点からも人の少ない場所に部室があるからだ。


「どこがだ。此処は落ち着くだろう? なんせ、殆どの人が寄ってくる事はない。研究に集中できる、最高の環境だ」


「……流石に貴族令息としてどうなんです、それ? 必要ですよ、人付き合い」


「問題ない。技術院の人間はコミュ障の巣窟だ。基本的にあそこの人間は、話をすることは無いからな」


「意思の疎通とかどうするんです?」


「置き手紙だな。どうしても必要な場合は面と向かって板書で意思を通じ合う様にしている。言語に著しく難を抱える人間が多いし」


「……大丈夫なんですか、この国」


 メールとチャットでやり合う、みたいな空気感である。そりゃ、ユリアみたいな根っからの陽キャとはもう、生物的に別の動物なのである、エルマーは。


「まあ、技術院にコミュニケーション能力は求められていないからな。そして、唯一それが許される組織でもある。技術院は優秀だしな」


 いい仕事のコツは円滑なコミュニケーションにあることは否定しない。だがそれは、足りないモノを補うために必要な条件でしかないのだ。基本的に、自己完結をするほどに『優秀な』技術院の人間にはコミュニケーション能力はいらないのである。どうしても必要ならば、手紙なり板書なりで自分の意思を伝えれば良いのだから。話すと『あ、あ、あ……』と言葉に詰まってしまう程度にコミュニケーション能力には難があるが、論理立てて説明することは得意なのだ、技術院の人間は。優秀なので。


「まあ、ともかく……僕は技術院に入るつもりはありませんし、コミュニケーション能力は必要なんですよ。その為には平凡な学生生活も送る必要もありますし」


「ふん。蒸気機関なんて規格外のモノを考えたお前が『平凡』だと? バカな事を言うな」


 詰まらなそうに鼻を鳴らすエルマーに、ルディが苦笑を浮かべて言葉を継ぐ。


「まあ、それはそれで。ともかく……今の僕にはエルマー先輩が固執するほどの価値は無いですよ? だって僕、もうアイデアすっからかんですもん」


 エルマーの理解力が早いのあって、ルディも楽しくなり色々と『あっち』の世界の知識を教え込んだ。そのすべてとは言わずとも、多くのモノをエルマーは作り上げて来たのだ。これ以上は今の技術では流石に無理な発明品ばっかりであり、もうエルマーにとって価値は無いだろう。そう思うルディに、エルマーはもう一度詰まらなそうに鼻を鳴らす。


「……ふん。何を言っている、ルディ。お前の才が枯れてもしまっても、お前は俺の友人だ。はっきり言おう、もし仮にお前が凡夫に成り果てたとしても、俺はお前と一緒に研究をして開発をして来た『過去』が楽しかった。お前と一緒に居たいと――『未来』を楽しく過ごしたいと思うのはおかしい事か?」


「……ありがとうございます」


「礼を言われる筋合いはない。これは俺の我儘だしな。それに……これを見ればお前も少しは考えを変えるのではないか?」


 そう言って『にやり』と笑って見せるエルマー。そんなエルマーに、ルディは首を捻って見せる。


「ええっと……これってなんです?」


「……忌々しいユリア嬢に教室で取り上げられたと言っただろう? あの設計図だ」


 そう言って、エルマーは机の上のモノを片手で乱雑に床に落とすと、一枚の設計図を広くなったスペースに広げて見せて。




「――お前が言ったんだろう? 大空を舞う鳥の様に、自由に人間が空を飛べる為の『発明品』……『飛行機』だ」




 エルマーの大きく広げた設計図に描かれていたのは、『飛行機』だった。


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