表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/293

第七十一話 もう一人の攻略対象


 絶妙なネーミングセンスを発揮したクリスティーナに、白けた顔をクレアが浮かべていた同時刻、最近めっきり影が薄くなった主人公ことルディは一人、学園の廊下を歩いていた。と、言っても流石に出番が少なすぎて拗ねて一人でブラブラ学園を歩いていた訳ではない。


「……こんにちは~。来ましたよ、エルマー先輩」


「……遅い」


「いや、遅いって。これでも昼休み入ってすぐ来たんですけど?」


 かちゃっとドアノブを開けて室内に声を掛けると、机に広げた書類に何かを書き込んで居た一人の男性は、不機嫌を隠さない声音で顔も上げずにルディに言って見せる。声の主のその態度に呆れた様に肩を竦め、ルディは『エルマー先輩』と呼んだ男の前の背もたれの無い椅子に腰を掛ける。


「ふん。昼休みに入ったらすぐに来た、だ? そもそも昼休みに来る前に来い」


「いやいや。授業があるでしょう?」


「授業など受けなくても構わない。お前は王子だろう? この学園でどれほどの成績を残そうが残さまいが、お前の人生には何の関係もない。いい成績を取る必要も無かろうしな」


「……いや……まあ、そう言われればそうなんですけど」


「実際、俺は学園入学後も一切授業には出ていないからな」


 そう言ってようやく男は顔を上げる。そこに居たのは、不健康そうな顔をした――でも、ルディにそっくりな一人の男性。



「……なんの自慢にもならないですからね、エルマー先輩?」



 そこに居たのは『わく王』の攻略対象の一人で『影のある天才』こと『技術者』エルマー・アインヒガー。王国技術院総裁を務める、アインヒガー伯爵家の長男で、次期アインヒガー伯爵である。


「ふん。学園で学ぶことになんの意味がある。今日の俺の授業を知っているか?」


「二年生のカリキュラムは把握していないですけど……なんか不満だったんです?」


「午前中は美術で、午後は芸術鑑賞だ。美術や芸術が無駄とは言わん。言わんがそれは所詮、心の贅肉にすぎん。そんな事よりも研究の方が有意義だろう?」


「いや、別にそれだけじゃないですから、学園で学ぶって。人との関りとか……貴族社会、人間関係って大事ですよ?」


 このエルマー・アインヒガーという男、わく王の攻略対象の中では唯一の『年上キャラ』である。王国技術院総裁の息子、という事で天才的な発明センスを持ち、王国の技術革新の大きな一助になったという事で授業は全て免除、三年間、学園の研究室に籠って研究開発をしていれば良い、という天才キャラである。


「……っていうかそれこそ、先輩がこの学園で一番学ばなくちゃいけないんじゃないですか? 『友達』の作り方って」


 ……影のある天才キャラという触れ込みだったが、彼の抱える『闇』の部分とは『人と上手に喋る事が出来ない』という……まあ、ざっくり言えば『陰キャ』だったことである。ネットでは『影じゃなくて陰とかwww』とか『いや、初めて優しく話しかけられたからってクレアに堕ちるのは流石にチョロすぎる』とか言われてはいたが……知っているか? オタクに優しいギャルには、一定数の男子はコロッと落ちちゃうのである。


「そこまで欲しいと思う事はない。別に、学園で友情を育もうとは思ってはいないしな。それよりも此処で研究開発に勤しんだ方がましだ」


 何でもない様にそう言って見せるエルマー。彼の言葉に思わずルディはため息が漏れる。エルマーは優秀で特別扱いと言っているが、実態はコミュニケーション能力の著しい欠如により、学園の教室に居場所が無いのでこの『技術開発部』の部室にいるだけなのだ。保健室登校ならぬ、部室登校なのだ、エルマーは。そら、ちょっとクレアに優しくされただけでコロッと落ちてしまうのもまあ、無理はない。


「っていうか先輩、友達居るんですか?」


 ルディの言葉にエルマーは首を傾げて見せる。


「お前は俺の友人では無いのか?」


「……分かりました。先輩に友人は居ない、と」


 そういう意味じゃ無かったんだけど、と思いながら中空に視線を向けてため息。その後、ルディは視線をエルマーに戻すと首を傾げて見せる。


「それで? 今日の呼び出しは何ですか? なんか用事があったんです?」


「何を言っている、ルディ? 折角お前がこの学園に入学して来たんだ。することは一つだろう?」


 そう言ってにやりと笑って、エルマーは立ち上がると机の上に置いてあった紙を手に取ると、ルディに恭しくその紙を差し出す。その顔には、狂気と狂喜の表情が浮かんでいた。ようやくこの時が来たとばかり、目を爛々に輝かせながら、芝居がかった仕草で一礼し。




「――お待ちしておりました、ルドルフ殿下。どうか、我が手をお取りください。私と共に――一緒に目指しましょう」




 この国の頂を、と。




「あ、先輩ごめん。僕、テニスサークルに入ろうかな~って」




「て、テニスサークル!? おま、何を考えている!? あんな陽のモノが住まう領域にいってどうする!! お前は俺と共にこの技術開発部を発展させるんだ!! 考え直せ!!」


 その紙――『入部届』と書かれた紙をひらひらと振って見せるルディに、エルマーはルディの肩を掴んでガクガクと前後に振って見せた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ