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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第六十九話 男と云う生き物は決して、馬鹿じゃない。


「……いや、クリスティーナ様? それ、完全に私が悪女ムーブになるんですけど?」


 じとーっとした目を向けるクレア、若干のあきれ顔だ。その視線を受け、クリスティーナは人差し指をピッと立てて見せ。



「何を仰いますか、クレア様。それは大きな勘違いです。男性に……そうですね、『貢がせる』というのは別段、悪い事ではないですよ?」



 爆弾発言。そんなクリスティーナに、クラウディアも呆れた様な視線を向ける。


「……クリス。それは流石にどうでしょうか? 倫理観を疑いますが……」


「あれですかね? クリスティーナ様って、『デートは男性の奢り!!』とか思っているタイプです? うわー……」


 若干ヒいた視線に変わったクレアに、ピンっと立った指を左右に『ちっちっち』と振って見せるクリスティーナ。


「違います。例えば、もしルディとデートに行ける機会があれば、私の貯めに貯めたお小遣いが火を噴きます。どんな食事も、どんな服も、どんなアクセサリーも、どんなホテルにでも泊まれる程度にはしこたま貯め込んでいますので」


「……お小遣い制なんですか、スモロア王国のお姫様って」


「お小遣いというか歳費の一部ですがね。まあ、それはイイです。ともかく、私の言いたいことは『それをする価値』があるかどうか、です。自分が一緒にいて楽しいと思う人ならば、自身がお金を払います。が、私自身が『それをする価値』が無いと思えば、お金を払ってまで一緒に居たいと思わない、という話です。クラウディア?」


「なんです?」


「貴女だって公爵令嬢でしょう? 今まで沢山、贈り物を頂いてきたのではないですか?」


「……まあ、そうですね」


 ディアとてこの国一番の貴族令嬢。誕生日や記念日ごとに沢山の贈り物を貰ってはいるのだ。


「男女の色恋だけの話ではありません。その贈り物を送った人間だってクラウディアとどうこうなろうとは思っていないでしょう。ですが、クラウディア――といううおり、メルウェーズ家ですかね? メルウェーズ公爵家の『覚え目出度い』という関心を買うために、クラウディアに贈り物をする訳でしょう?」


「……否定はしませんね、確かに」


 クラウディアの言葉に、満面の笑みで頷くクリスティーナ。


「今回、お兄様はクレア様に随分とお熱です。クレア様とデートに行けるとなれば、お兄様も貯めに貯めたお小遣いをぶっ放す準備は出来ているでしょう。どんなドレスも、どんな化粧品もクレア様が『欲しいな~』と上目遣いでお願いしてごらんなさい。お兄様、なんでも買って下さいますよ?」


 にっこりと笑ってそういうクリスティーナに、クレアが心底嫌そうな顔をして見せる。


「え、ええ~……なんかそれ、嫌じゃないです? こう、マジで『悪女』感が半端無いんですけど……」


「違いますよ。良いですか? お兄様はクレア様に懸想しています。お兄様にとって、クレア様と一緒に居られるのは幸せなんですよ。そんなクレア様が、今よりもお美しくなるのはお兄様的には――まあ、ライバルが増えるという難点はありますが……それでも、自分が愛した女性がますます綺麗になるのは嬉しい事でしょう? しかも、自分の手によって」


「……まあ、分からないんではないんですけど……でも、私ですよ? 私にそこまで――」



「クレア様」



 言い掛けるクレアを手で制し。


「――クレア様には『それだけの価値』があるのです。勿論、世の全ての男性が、とは言いませんよ? 少なくとも、お兄様にとってはそれだけの価値があるのです。良いですか? クレア様の価値を決めるのはクレア様ではありません。その価値を決めるのはお兄様であり、エディであり……クレア様に懸想する人、すべてが貴女の価値を決めるのです」


「……」


「クラウディアだってそうでしょう? ルディが『割り勘でお願い、ディア』とか言った所で幻滅しないでしょう?」


「勿論です。クリスでは無いですが、私のお小遣いも火を噴きます。ルディの財布を軽くすることはありません!」


「ではエディだったら?」


「貴重な時間を使って付き合ってあげるんです。デート費用は全部出して貰って、その上で高価なアクセサリーやドレスの一つでも買わせてやります。まあ、ドレスは着る事はないでしょうし、アクセサリーは付けることも無いでしょうが」


「……相変わらず極端ですね、貴女は。でもまあ……こういう事です。クレア様にそれだけの価値があると思っている以上、お兄様がクレア様にお金を払うのは別に問題ないんですよ。それにまあ、お兄様だって男の子ですし? ホレた女の子には少しくらいは格好も付けたいモノですよ」


「あー……そんなもんですかね~? なんか申し訳ないというか……」


 クレア的にはいまいちピンとは来ていない。そもそもデートなんてした事も無いし、男性に奢って貰うのもなんだか申し訳ないと思うタイプだ。そんなクレアに、クリスティーナはにっこりと笑って見せ。



「あのね、クレア様? 男だって馬鹿じゃないんですよ? プレゼントを女性にするのは、男性にとっても『嬉しい』事でもあるんですよ。だって、そうでしょう? 勿論、愛の言葉も嬉しいでしょうが……綺麗な宝石だって、素敵なドレスだって、綺麗になる為の化粧品だって嬉しいでしょう? もう一回、言いますね? 男だって馬鹿じゃないんです。それで『相手の関心』が買えるならば、関心を買いたい相手には――」



 ――財布の紐だって、ゆるくなりますよ、と。



「ま、興味の無い相手なら男性だって割り勘だって嫌でしょうけど……クレア様ならそんな心配は無いですしね?」



 そう言ってにっこりと笑って見せた。



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