第六十四話 シェア
「なんなんですか、クリスティーナ様!! それ、結局自分の幸福の為に私を生贄に捧げてるのと一緒ですよ!! 折角私、ちょっと感動したのに!! 本音は外道じゃないですか!! クレアを墓地に送ることによって、手札からルディ様を召喚みたいなものですよ、それ!?」
「……なんですか、それ?」
「流行っているカードゲームです!!」
ふーふーと肩で息をするクレアにきょとんとした顔を浮かべるクリスティーナ。そのまま優雅に紅茶を飲むと、クリスティーナは口を開いた。
「……まあ、隠しても仕方無い事ですし……私はルディの事が大好きです。初恋ですね。だからまあ……叶うなら、ルディと結ばれたいと思っていますよ。その為に、クレア様とお兄様にご成婚して貰うのが一番、手っ取り早いとは思っています」
「だからって――」
再び声を荒げるクレアをクリスティーナが手で制す。
「ですが、嘘を言っているつもりはありません」
「――……」
「お兄様は確かに天才では無いでしょう。ですが、秀才ではあります。そして、今の国際情勢に鑑みて、『天才』の王で無ければ乗り切れない様な状況にはありません。『創業』の王は天才である必要があるでしょうが、『守成』の王であればお兄様の才覚があれば無難に乗り切れるでしょう」
「……それが、なんですか?」
「分かりませんか? スモロア王国は平和だ、という事です。お兄様はクレア様に懸想されていますし、大事にもして下さると思います。先程も言いましたが……私、愛するより愛されたい方ですし。クレア様だってそういう感情、無い訳じゃ無いでしょう?」
「……まあ、はい」
「守成の時代であれば大した問題は起こらないでしょうから、断頭台に送られる様な王妃にクレア様がなる事はないです。よしんばその危険があれば、私が防いで差し上げます。先程も言った通り、三食昼寝付きの素晴らしい王宮ライフを約束しましょう」
「……」
「悪評問題に関しても、これは早急に解決します。というより、お兄様の婚約者になる以上、この悪評の解決はマストです。それはクレア様にとってもメリットでしょう? 少なくとも、今よりは学園生活を有意義に過ごせると思いますが」
「……入学して数日で悪評が流れまくっているってのも、よく考えたらとんでもない話ですが……まあ、はい。確かに精神衛生上宜しくはないです」
「お兄様も愛しのクレア様とずっと一緒ならば嬉しいでしょうし、政務にも身が入るでしょう。そんなお兄様の幸せは、私も嬉しい」
一息。
「ルディとの事はその過程で生まれる副産物。いわゆる、『おまけ』ですよ」
「……おまけの方が大きいのではないですか、クリス?」
「あら? 知りません? お菓子を捨てて『おまけ』だけを大事にすることもあるんですよ、クラウディア」
優雅に紅茶をもう一口。
「まあ、それは冗談ですが……ですが、ある程度お互いにメリットのある提案をしたつもりではありますよ? 考え方によっては誰も損をしない、良い方法ではありませんか?」
「私が損をしますが?」
そんなクリスティーナの言葉に割って入ったのはディアだ。そう、クレアとクリスティーナ――ひいてはスモロア王国的には結構な『得』な提案ではあるのだ。あるのだが。
「初めから勘定に入ってませんよ、クラウディアの事は」
この場合、クラウディアの一人負けである。まあ、そもそも二者間での話であり、ディアの心情なんて慮る必要はないっちゃないのだが。
「……まあ、感情的には申し訳ないとは思っていますが。ですが、双方にとっていいアイデアではあるのですよ? 少なくとも私たちは誰も損をしない」
少しだけ目を伏せ、その後にぐっと目力を込めてディアに視線を送るクリスティーナ。そんなクリスティーナに、ディアは肩を竦めて。
「悲しいですね、幼馴染。恋を前には幼馴染と言えども敵になるという事ですか?」
「お互い様です、幼馴染。貴女だって、ルディを独り占めにしたいと、そう思っているでしょう?」
挑発するようなクリスティーナの言葉に、ディアはにっこりと笑って首を振る。
「――いいえ」
左右に。その仕草に、ポカンと馬鹿みたいに口を開けるクリスティーナ。そんなクリスティーナに、ディアはため息を吐いて見せる。
「そもそも私、ルディはメアリさんとシェアするつもりでしたし。望むならクリス? 貴女も入ります? 別に私は構いませんよ? 一人や二人、側室が増えたとしても」




