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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第六十三話 良い話っぽく言うな


 クレアの発言に、食堂の個室の中の空気が固まる。そんな空気の変化にきょとんとしているクレアに、少しばかり気を使った様なディアの声が響いた。


「あ、あの……クレアさん? 流石にそれは……ちょっと、どうでしょうか?」


「へ? な、何がです? 私、変な事言いましたか?」


 まあ、クレアの言っている事も一定の真理ではある。俗にいう、『デートにまでママがついてくる』の妹版というか……過保護というか。家族仲が良いのは結構な事ではあるが、クリスティーナの言葉を借りるのであればほぼほぼ傀儡の王様なワケだし、流石にクレアも箸の上げ下げまで義妹に指示されるの敵わないのである。


「いえ、間違ってはいませんよ? 間違ってはいませんが……その、不敬というか……」


 ディアが気遣わしげにクリスティーナをちらりと見やる。そんなディアの言葉に、クレアも事の重大さに気付いたか、顔を青くし。



「へ? 不敬? 何が不敬なんです? 実際、本当の話じゃないですか。私だってデートに誘って貰うなら、妹さんにお膳立てされるようなデートじゃなく、自分の意思で誘って欲しいですもん。クラウディアさんだってそうでしょう?」



 青く、しない。ディアの言葉にクレアは何でもない様にそう応えて見せる。そんなクレアの言葉に、クリスティーナは慌てた様に言葉を継いだ。


「く、クリス様!? そ、その、違いますよ!? お兄様は別に自分で女性の一人も誘えない様なヘタレではありません!! こ、これは私が勝手にやっている事です!! だから――」



「ええ、分かってます」



「――決して、お兄様の……分かっている?」


「ええ、分かっていますよ? さっきも言いましたけど……やれ、『可愛い』だ、『美しい』だ言ってくれますからね、エドガー君。言葉はあんまりでしょうけど……あれだけ『ぐいぐい』来る人が、自分でデートも誘えない様な人とは思えませんし」


 なんでもない様にそう言うと、クレアは腕を組んで中空を見つめて見せる。


「……むしろ私が一番気になるのは、なんでクリスティーナ様がエドガー君をそこまで推すのかなんですよね。一応、男爵令嬢ではありますけど……言っちゃなんですけど、ウチなんて平民に毛が生えた様なものですよ? エドガー君が王太子なら、絶対に私と釣り合わないと思うんですよね~。クリスティーナ様、今日初対面ですよね?」


「は、はい。初対面ですが……」


「『ウチのお兄様のお嫁さんにはこの人! 私もお義姉ちゃんって呼べるし!!』みたいな付き合いでは無いと思いますし……さっきから、クリスティーナ様が先走ってる印象があるというか……巧く言えませんが」


「……」


「現実的に断る方向になるとは思いますが……エドガー君からその言葉を頂ければ、きちんと考えてお話をさせて頂きますよ? その結果が良いか悪いかは別として。でも……うん、そうですね?」



『クリスティーナ様』からのお話なら、考える余地はないです、と。



「……クラウディアさんとの約束もありますが……一番はやっぱりそれですかね?」


 そう言ってにっこりと笑うクレア。その姿を呆然と見つめた後、クリスティーナははぁ、と小さくため息を吐いた。


「……そうですね。確かにそれはクレア様の言う通りです。すみません、私の勇み足でしたね」


 その後、クリスティーナはにっこり微笑んでみせる。


「確かに失礼な話でした、クレア様。改めて謝罪をさせて頂きます。確かにクレア様の仰る通り、殿方には情熱的に迫られたいですものね?」


「あー……まあ、はい。クリスティーナ様もそうじゃないですか?」


「それはもう。愛するより愛されたい方ですし、私」


 そう言ってクスクスと笑って見せるクリスティーナ。そんなクリスティーナに、ディアも少しだけため息を吐いてから、困った様な笑顔を見せる。


「……それにしてもクリス? 貴女が勇み足をするなんて珍しいですね? なんですか? それほどエドガーが心配ですか?」


 ディアの質問に、困った様な顔で曖昧な笑いを浮かべて見せるクリスティーナ。


「……まあ、お兄様のあの態度を見ればわかると思いますので良いでしょうが……お兄様、クレア様に懸想されています」


「……でしょうね」


「だって云うのに、クレア様はエディに熱烈なプロポーズを受けたのでしょう? エディとお兄様では……やはり、どうしてもお兄様の方が分が悪いですし」


「……」


「……お兄様には幸せになって欲しいのですよ、私は。ずっと、ずっと私の陰に隠れて、馬鹿にされ、蔑まれ、『妹は優秀なのに』と言われ……お兄様だって、非凡の才があるのに。私が居るばっかりに……」


 そう言って、小さくため息をして苦笑。


「ですが……ダメですね。やはり、こういう事は本人の口から言うべきでした。最後にもう一度、謝罪を。クレア様、本当に失礼しました」


 立ち上がり、頭を下げる。他国とは言え、王族に頭を下げさせたという事実に、クレアが慌てた様に手をわちゃわちゃと振って口を開く。


「そ、そんな! 気にしないでください!! それに私、ちょっと感動しましたし!! そこまでエドガー君の事を考えるなんて、クリスティーナ様、お優しいなって! だから頭を――」


「クリス、本音」




「お兄様とクレア様が婚約すれば、エディの婚約者はクラウディアに逆戻り。ルディの婚約者に私が収まる算段です」




「――上げなくていいです。そして、ちょっともう一回、座りやがれ」


 ジトーっとした目でクリスティーナを見つめるクレアに肩を竦めて、優雅にクリスティーナはもう一度椅子に腰かけた。




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