第六十二話 それは男としてちょっとどうよ?
「く、クレアさん!? な、何を言っているんですか!? そんな簡単に王妃になるなんて言ったら!!」
ディアの言葉にクレアは『はっ!』とした様な顔を浮かべて見せる。そうだ、クレアには目的があったのだ。
「え、ええっと……そ、そうですね? まあ、いいオハナシだとは思いますけど……ほ、ほら! 私、それでも一応、レークス家の跡取り娘ですので! さっきも言いましたけどやっぱり、婿取り必至と言いましょうか……」
「その辺りはクレアさんとお兄様に『頑張って』頂いて二人以上の子供を産んで貰えれば」
「真昼間から何を言っているのですか、貴女は!」
赤い顔してディアが突っ込みに入る。そんなディアを『これだからおぼこい子は……』と言わんばかりの顔でじとーっとした目を向け、ため息を一つ。
「明るい家族計画の話ですよ? そもそも、王族や貴族は血を伝える事こそが一番の仕事と言っても過言では無いです。子作りの話題程度でそんなに大袈裟な反応しないで下さいな」
「だ、だからと言って!!」
「ともかく……男の子、特に初めての男の子はスモロアに頂きますが、二子以降はレークス家を継いで頂ければ宜しいのでは? それでレークス家の問題は解決でしょう? まあ、この解決策はエディでも出来るでしょうが……自国の王様の息子が男爵家というよりも、他国の王族の子供が男爵家の方が、いろいろとはやり易いのでは?」
まあ、自国のトップの次男が男爵家、というのは色々と難しい問題ではある。なんせ、『社長の息子』というだけで、世襲でもなんでもない平社員でも気を使うのが世の常である。他国の王族だってそりゃ気を使わない訳ではないが、他所の会社の社長の息子の方が気を使わないのは道理であろう。世襲の会社では社長の息子が途中入社で役員、或いは部長待遇で迎え入れられるのは別に我が子可愛さだけではなく、現場に無用な混乱を招かない為でもあるのだ。
「まあ、これに加えて先ほども言いましたがクレアさんの悪評……という程の事は無いのでしょうが、まあともかくそれに関してはスモロアが責任を持って解決しましょう」
「……解決、ですか? それが出来れば有難いんですが……で、出来るんですかね? 自分で言うのもなんですが私、今、結構な腫れ物扱いで……」
クレアの言葉に、クリスティーナはにっこり笑って。
「簡単ですよ? まあ、学園の半分くらいの人は退学になるでしょうが」
「バイオレンス!? 予想以上にバイオレンスな解決策だった!?」
「当たり前じゃないですか。スモロアの次期国王であるお兄様の婚約者を『尻軽』と馬鹿にしたのですよ? そんな輩を許したら、スモロアが『舐め』られますので」
「……」
「まあ、退学は冗談ですが、退学一歩手前にまで追いやる事は出来るでしょう。『貴女、スモロアの次期王妃の事、なんて言ってましたの? ええ、ええ? 今、目の前でもう一回言ってくれますかね?』と私が聞いて回れば……」
「……恐怖しかねぇ……」
スモロアの王女様が笑顔でニコニコと圧を放ってくるのだ。そら、気の弱い令嬢なら自主退学か引き籠りになるだろう。気の強い令嬢にしたって、流石に証拠もなく面白おかしく喋っていたのは事実なのだ。口も重くなるものだ。
「クレア様が望まないなら、もう少し平和的な解決策もあるでしょうが……時間も掛かりますし、面倒くさいですよ? そもそもこういう事は早めの解決が一番ですし」
「い、いや、そうかも知れませんが……」
「メンツ商売ですしね、貴族や王族は。右の頬を殴られて、左の頬を出す様な博愛精神はダメです。右の頬を殴られる前に、相手の左頬を撃ち抜かないといけません」
「クロスカウンターの教えだ、それ」
「まとめるとまあ、それぐらいのメリットは提示できますよ、という話です。クレア様はお兄様と仲良くするだけで学園の悪評は無くなるし、そのまま結婚して下されば……クレア様の仰る『三食昼寝付き』の生活は約束しましょう。王妃として私も立てますし? 気持ちいかもしれませんよ? 今まで――は、社交界に出た事無いんでしたね。まあ、下位貴族の方は肩身の狭い思いをしがちですが、王妃になれば誰にも頭を下げる必要ないんですから。最低限のモラルと常識さえあれば、後はやりたい放題です。よきにはからえ、というやつですね」
どうです、魅力的じゃないですか? と含んだ笑みを浮かべるクリスティーナ。その笑みを見つめ、クレアは腕を組んで唸る。
「う……うーん……た、確かにエドワード殿下とどうこうよりはよっぽど楽な生活を送れそうではありますね……」
「く、クレアさん!? それは――」
「いや、でも……流石にいきなりエドガー君と婚約って言うのも……ねぇ? それに出来ればこう、もうちょっとエドガー君のご意見も頂きたい所ではあるんですよね~」
「……どういう意味でしょう、クレア様?」
「いえ、別にいいちゃいいんですよ? 私だって下っ端の味噌っかすですけど、一応貴族令嬢ですし? 政略結婚だってまあ、最悪あるかもな~くらいは思っていたんですけど……」
そう言って、ちょっとだけイヤそうな顔を浮かべて。
「……私だって女の子ですし? 出来ればこう、情熱的な告白を受けてみたい願望もあるんですよね? こう、妹に此処までお膳立てされて結婚っていうのは……男の子としてちょっと、と言いましょうか……」
……まあ、『自分で言えないから妹が一から十までお膳立てしました』なんて男、クレアじゃなくてもイヤだろう。いや、別にエドガーのせいではなく、今回はクリスティーナの暴走ではあるのだが。




