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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第五十九話 クリスティーナ・スモロアは優秀な爆撃機である。


「く、クリス!? ど、どうしてここに!? い、いえ! そもそもなんで個室に入って来てるのですか! 私が借りた個室ですよ、此処!! 私の許可もなく、勝手に!」


 慌てた様に口を開くディアに、クリスティーナは笑顔を崩さないままでにこやかに口を開く。


「いいじゃありませんか、クラウディア。私と貴女の仲でしょう? それにまあ、私もクレア様と仲良くしたかったですし? ねぇ、クレア様? 私も同席して宜しいでしょうか?」


 こくん、と可愛らしく首を傾げてそう言って見せるクリスティーナに、がくがくと赤べこよろしく首を上下に振るクレア。決定権こそないものの、流石に他国とはいえ王族に『同席したいんだけどぉー。いいよねぇ~?』なーんて言われた日には頷くか、一生懸命頷くかの実質一択しかないのである。まあ、『私の一存ではなんとも……』という玉虫色回答する未来もあるにはあるのだが、朝から情報過多のクレアにその判断を求めるのも酷というものだろう。


「はぁ……クレアさんがこういうのなら……」


 無理矢理追い出す事も出来ないでもないが、どっちにしろクリスとは話を付けなくちゃいけないのである。なら、クレアもいるこの状態でが一番良いだろうとディアは判断してクリスティーナに椅子を薦める。優雅に椅子に腰かけたクリスは、置いてあったポットから勝手に自分で紅茶を注ぐと、一口。


「それで? 二人して私のお兄様を馬鹿にしていたのですか? それともネガティブキャンペーンをしてクラウディア、クレア様にお兄様を幻滅させようとでも?」


「そんなまどろっこしい事はしません。そもそもどうしたのですか、エドガーは? クレアさんの髪にキスを落としたり……昔のエドガーでは考えられなかったでは無いですか」


「恋は人を変える……と言いたい所ですが、まあアレです。デビュー、というやつです」


「デビュー?」


「『学園デビュー』です」


「……なにをしょうもない事を言っているのですか、貴女は」


 バカを見る様な目でクリスティーナを見つめるディア。そんなディアの視線に、少しばかり『むっ』と表情を変えてクリスティーナは言葉を継いだ。


「しょうもないとは何ですか、しょうもないとは。お兄様の境遇を考えれば、当然でしょう? 貴女も知っているでしょう? お兄様の、スモロア王国でのあだ名を」


「……『普通王子』


「ええ。ルディの『平凡王子』と同じく、こちらも蔑称です。お兄様は決して普通なんかじゃない。間違いなく、優秀な王子ですし、王の器でもあります。ただ」


「妹の方が優秀だった、という事ですね」


「……そうです」


 少しだけ悔しそうにクリスティーナはそう囁くようにつぶやく。


「……貴女もエドワード殿下もそうですが……少し、『手』を抜くというのは出来ないのですか?」


「そんな事はしません。それはお兄様に失礼です。きっと、エディも同じ感覚でしょう」


 エディにしてもクリスティーナにしても自身の『兄』の事は大好きである。まあ、クリスティーナはエディほどエドガーを神格化してはいないものの、それでも頼りになる兄だと思っているのだ。


「……お兄様には嫌われたくないですしね。そんな、手抜きして勝ちを譲るなど……『馬鹿にしないでくれるかな?』と怒られてしまいます」


「……」


「……暗い話になりましたね。まあ、ルディの『平凡王子』がスモロアに響き渡っていないのと同様、お兄様の『普通王子』もラージナルでは響き渡っていないでしょう? ですから、此処で一気に『イメチェン』して行こう、という話になりまして」


「話になりまして? エドガーがそれ、納得したのですか?」


「いいえ。お兄様は最後まで『ええっと……それ、本当に僕がするの?』と言っておりましたが、私とお兄様付きの侍女で徹底的にお兄様を『改造』しました」


「改造って……」


「もう少し自信をもって貰いたいと思いましたので。お兄様、決して『普通』ではないですから」


「……自信をもって貰うのが、女性の髪にキスを落とす事になるのですか? なんですか、その改造。偏っていませんか? エドガーを『たらし』にしたいのですか、スモロアは?」


「あれはあくまで副産物ですよ。本命はもっと別にあるのですが……まあ、それはともかく……クレア様?」


「あー……この紅茶、美味しいですね~。このまま、この紅茶だけ飲んで余生を送りたいですね。もしくはこれ、全てユメだったとか、そんな夢落ちでも私は全然おこら――は! く、クリスティーナ様!? な、なんでしょうか!?」


 遠い目をしてブツブツと独り言を喋っていたクレアだが、不意にフラれたクリスティーナの言葉に反応して、ぎゅん、と音が鳴りそうな勢いでクリスティーナに向き直る。そんなクレアを見て、クリスティーナは隣のディアに小声で話しかける。


「……クレア様、大丈夫ですか? なんだか目が……暗い?」


「自国の王子にプロポーズ、宰相の息子と近衛騎士の息子が面倒くさく絡んでくる、あげくの果てには他国の王子様にまで髪にキスを落とされてみなさい。それも数日で。それは、あんな目にもなりますよ」


「……不憫な」


「一応言っておきますけど、貴女の兄のせいでもあるのですからね?」


「貴女の婚約者のせいでもありますけどね。まあ、それはともかく――」


 パンっと一つ手を打って、クリスティーナは。




「――どうでしょう、クレア様? 私のお兄様、結構な優良物件なんですが……お付き合いとか、してみません?」




 とんでもない爆弾を落としやがった。


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