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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第五十八話 クレアは前世でどんな悪い事をしたのだろうか


 口から魂が抜けた様になっていたクレアを、なんとか昼休みにクレアラバーズの輪から引きずり出したディアは、そのまま食堂までクレアを引きずっていく。引きずられるクレアの口からは『テンバーン神……テンバーン神さま……』と訳の分からない言葉が紡がれているが、そんなことは気にしてはいられない。食堂に入るなり給仕に向かって『個室をお願いします』とだけ告げると、そのまま空いている個室に入る。個室、と言えども流石にラージナル王国随一の学園、豪華な調度品が並ぶその部屋に入りクレアを無理やり座らせると、そんなクレアに座った目で。


「…………どういうことですか、クレアさん?」


 まるで大型の肉食獣の様な瞳で『ギン!』とクレアを睨みつけるディア。先程まで魂を口から出していたクレアは、そんなディアの視線に何かに気付いたように『はっ!』と意識を取り戻すと、ぶんぶんと勢いよく首を振って見せる。


「し、知りませんよ!! 私だって何が何やら……」


 泣きそうな目でディアを見つめるクレアに、ディアも一瞬『うっ』と息を詰まらせる。先程までの肉食獣の視線を解くと、ふぅーと大きく息を吐いて見せる。


「……すみません、取り乱しました。それで……まあ、今更確認することでも無いでしょうが……一応、確認を宜しいですか? クレアさん、貴女が朝、クッキーを渡した男性というと……」


「……はい。エドガー君です」


 絶望に染まったクレアの言葉に、ディアが天を仰ぐ。



「……どんだけ引きが悪いんですか、貴女。本当に前世で何か悪い事でもしたのですか?」



 ある意味ではラージナルとスモロアの二国の王子から求愛を受けているのだから、とんでもない神引きではある。ラージナルの、スモロアの、それこそ伯爵や侯爵の令嬢なら、涎を垂らして欲しがるような立場であるのだ、今のクレアって。まあ、本人が望むかどうかはまた別の話として。


「現世での悪行で今の仕打ちなら納得しますけど、前世での悪行なら納得行きませんよ!! なんで!? 私、そんなに悪い事したんですか、前世で!! 神は死んだ!!」


 ディアの言葉に、クレアの咆哮が個室の中に響く。クレアだって溜まったもんじゃないのだ、前世での悪行で今の仕打ちは。そんなクレアの咆哮に少しばかり冷静さを取り戻したディアはもう一度、大きく息を吐く。


「……そうですね。ですが、本当にこれだけは言わせて貰えませんか? 貴女、これから軽々と誰にでも優しくするの、止めて貰えませんかね? これ以上、ややこしくした頂くのは本当に勘弁してください」


 まるで懇願するようなディアの言葉。『おめえ、人に優しくするな。他の人が迷惑するから』なんて、言っている事はある種最低の事を言っているが、ディアの立場を鑑みるとあながち間違いで無い事も分かるのでクレアは神妙な顔で頷いて見せる。『誰かに優しくしなさい、見返りを求める事はなく』とは母の金言ではあるが、見返りどころか災厄がやってくるのであればその信念を捨てる事に躊躇いはない。矜持? ないない。


「……どうしましょう、クラウディアさん。エドガー君、なんかぐいぐい来るって言うか……こう、『ああ、可愛い僕のクレア』とか言われて……」


「……なにクサい事言っているんですか、エドガー。そんな方では無いでしょうに」


 クレアの言葉にディアが思わず顔を顰める。クリスティーナと幼馴染という事は、当然双子の兄であるエドガーとも幼馴染だ。


「エドガー君、そんな事を普段は言わないんですか? 似合いそうですけど……」


「……まあ、顔は整っていると思いますが……」


 エドガーとエディ、そしてルディと……まあ、クラウスとアインツもであるが、全員イケメンの括りには入る。わく王において『まるで判子』と言われるほどそっくりの五人なので、精々表情差分くらいの差しかないのだ。エディがイケメンであるなら、すなわち他の四人もイケメンという等式が簡単に成り立つのである。


「エドガーはどちらかと言えば、一歩引いた立ち位置で微笑んで皆を眺めるというか……そういうポジションでしたね。少なくとも、そんな歯の浮くような口説き文句を言う人間ではない筈ですが……」


「ああ、ルディ様の様な感じですか?」


 クレアの疑問に、ディアは首を振って見せる。


「いいえ」


 横に。


「エドガーの一歩引いた態度は、見た目的にはルディと一緒ですが……何て言うのでしょうか? ルディほど達観していない、と言いましょうか……そうですね、ルディは自ら一歩引いた位置に居ました」


「エドガー君は?」


「そこしか居場所が無かった、と言いましょうか……少なくとも、自ら前に出る性格では無かったですね。まあ、仕方が無いと言えば仕方が無いのですが……」


「仕方がない?」


「ええ。これは決してエドガーの悪口ではありませんが……クリス、クリスティーナ殿下、いらっしゃるでしょう?」


「ええっと……エドガー君の妹さん、ですよね?」


「そうです。クリスは昔から優秀で……その、エドガーはクリスに比べれば少し劣る、と言いましょうか……」


 言い淀み、それでもそこまで喋ったディアが言葉を続けようとして。




「あらあら? クラウディア? あまり、私の兄を貶めないで頂けますか? 愚鈍ではありませんよ、お兄様は?」




 不意に開いた個室の扉に慌てて視線をそちらに向けたディアの瞳には、にこやかに笑んで見せるクリスティーナの姿があった。




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