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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第四十八話 ターニングポイント


 心持――じゃなかった、がっつり自慢げに胸を張るメアリ。そんなメアリに、プルプルと震える指でディアはメアリを指差した。口元もわなわな震えてるし、なんかもう、見てられない。


「ど、どういうことですか、メアリさん? あ、貴方……い、いえ? ぷ、プロポーズ? ど、どういう事でしょうか!?」


「そのままの意味ですよ、クラウディア様。先程、ルディ様が仰られまして……『僕の結婚相手はメアリしかいない』と」


 ポッと顔を赤く染めるメアリ。そんなメアリの艶っぽい姿にディアの開いた口が塞がらない。


「……あの様に情熱的に求められてしまっては……どうしましょう」


 いやん、いやん、と体を左右に振って見せる。まるで煽る様に――というか、完全に煽っているのだが、そんなメアリの姿にクリスは冷静に言葉を掛けた。


「……メアリさん」


「なんでしょうか、クリスティーナ様」


「祝福します。おめでとうございます、メアリさん。ええ、そうですね? 昔からルディを支えていた皆の『お姉様』であるメアリさんを選ぶとは、ルディも良く分かっていると言って良いでしょう」


「クリス!?」


 祝福するクリスに、ディアはびっくりした様に目を見開く。そんなディアにちらりと視線を向けた後、クリスは良い笑顔でメアリを見やり。



「――どうでしょう? メアリさん、ルディをシェアするというのは? 私、お金はありますが? ルディの側に侍る権利を売って貰えませんか?」



「……流石に外道が過ぎませんか? どんな交渉ですか、それ」


「クリス! 信じていましたよ!! ええ、ええ! そうですね!! 綺麗なクリスなんていませんものね!!」


 冷めたい目をするメアリとは対照的にディアが歓喜の声を上げる。そうだ。綺麗なクリスなんていないんだ。そんなクリスとディアをジト目で見た後、メアリははぁとため息を一つ。


「……まあ、そもそもそんな権利は私にはありません。先程はああ言いましたが……ルディ様が本気である訳が無いでしょう?」


「……まあ」


「……ルディですものね」


 そんなメアリの姿に、ディアとクリスも先程までの取り乱した姿はなんだったのかとばかり落ち着いた表情を浮かべて見せる。そうだ。『あの』ルディなのだ。自己評価が低く、何も欲しがらない無欲なルディが、なんの脈絡もなくメアリにプロポーズなどする訳がない。する訳がないが。


「……それはそれとして……羨ましいですね」


「……ええ。確かに羨ましいですね。冗談でも、ルディにプロポーズされるなんて」


「……まあ、嬉しくなかったと言えば嘘になります」


 嘘である。『嬉しくなかった』どころの話ではない。この女、鼻血を流しながら歓喜の涙を流して片腕を天に突き上げていました。


「くぅ……冗談で言うにしても私に言って下さればいいのに!」


 悔しそうなディアに、メアリが苦笑を浮かべて見せる。


「……まあ、結果はともかくあまり気持ちの良い話ではありませんよ? 私、ルディ様にお説教をしましたし」


「メアリさんがお説教、ですか?」


 驚いた眼でメアリを見た後、クリスは視線をディアに向ける。そんなクリスの視線を受け、ディアはゆっくりと首を左右に振った。


「……私の記憶にもありませんよ。メアリさん、貴方がルディに意見を……まあ、意見はしますが、お説教など」


「……少しばかり、私にも思う所がありまして。ルディ様があまりにも『無欲』で……その、なにもかも諦めてしまっているのが……少しばかり、見ていられなくて」


 気まずそうにそういうメアリに、ディアも相槌を打つ。


「……ええ、それは分かります。そうですね……ルディはもう少し、欲しがっても良い」


「そうなんです。ルディ様は幸せになっていい。もっと、もっと、幸せで良いのに……なぜかあのお方は、自分が『幸せ』であってはいけないと思っているというか……巧く、言えませんが、その姿があまりに歯痒くて……」


 メアリのこの意見は概ね正しい。ルディの行動原理は『わく王のキャラ達の幸せ』だ。だから、エディとディアが巧く行くように立ち回っていたりしたのである。自分の事は二の次に考えている節もあるし、そもそも欲しがった所で、能力的な一段も二段も上な『ゲームの登場人物』達を押しのけて手に入る訳がないとすら思っているのだ。


「……可哀想です、ルディ」


 メアリとディアが『口惜しい』感情を抱いたのに対し、クリスが思っているのは『憐み』の感情だ。クリスとてルディとの付き合いは長い。だからこそ、いつも柔和な笑顔を浮かべて皆の輪を眺めるルディに『可哀想』という感情が浮かび。



「――だからこそ、絶対にルディを『輪』の中に引きずり込んで見せますわ」



 クリスは許さない。彼に、ルディに、そんな傍観者の立場など、許しはしないのだ。



「――ああ、楽しみです。早く学園でルディに逢いたいですね」



 その顔には、確実な恋情と、少しばかりの狂気が含まれていた。


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