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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第三十九話 その頃、大人たちは


 ラージナル王国王城の国王執務室。その執務室の主であり、この国主でもあるアベル・ラージナルは深くため息を吐く。そのため息に側に控えていた宰相ブルーノ・ハインヒマンは眉根を寄せる。


「如何されましたか?」


「これを見よ、ブルーノ」


 アベルから手渡された手紙に、ブルーノが目を通した後、疲れた様に目の端を揉む。


「……これはメルウェーズ公爵からの抗議文、ですか」


「そうだ。まあ……気持ちは分からんでも無いがな」


 公衆の面前で、自身の愛娘が婚約破棄なんて大恥掻かされたのだ。此処で大事なのは『婚約破棄』ではない。『公衆の面前で』という所だ。婚約破棄なんて別に珍しい話ではないが、あんなフラれ方はあんまりだからだ。


「……『エドワード殿下に王の器、これを認めない』と来ましたか……流石に不敬では?」


「……あいつ、娘大好きだしな~……」


 同級生の子供がいる以上、親同士だって同年代の可能性が高い。実際、アベルもメルウェーズ公爵家当主のアルベルトも小さな頃から知っているし、なんなら学園では同級生だったりする。今でこそ身分差あるも、学生時代は親友と言っても可笑しくない間柄だ。


「……今は二人だ。ブルーノ」


 アベルの言葉に小さくため息を吐くブルーノ。


「……はぁ。確かにな。アルベルトのやつ、クラウディア嬢を溺愛しているし……結構不味いぞ、アベル」


 ちなみに、ブルーノも同級生だし、近衛騎士団長のダニエル・ルートビッヒも同級生だったりする。


「……だよな~。っていうか、お前もだいぶあの……誰だっけ? レークス男爵家の……」


「クレア嬢か?」


「そう。クレア嬢、詰めたらしいじゃないか」


「詰めたと言われると少しばかり反論したい所だが……」


「エディが滅茶苦茶怒ったって聞いたぞ?」


 アベルの言葉に、気まずそうにブルーノが顔を顰める。


「あー……まあな。あんなに怒った殿下は初めて見た。だからこそ、不味いと思って少々きつい口調で詰問したのは事実だが……」


 そう言ってブルーノは小さくため息を一つ。


「……恋は熱病だ。まあ、殿下の年代ならばああいう行動をすることもあるだろうが……流石に軽挙が過ぎる。そんなお方では無いハズだがな」


「……」


「アベル?」


「……なあ、どうしたらいいと思う?」


「……私に王位継承権を決める様な事を聞くな。それはお前の仕事だろう、アベル?」


「アドバイスくらいは良いだろう?」


「……まあ、順当にいけばルドルフ殿下だろう? お前だって分かってるだろう? 殿下の聡明さは」


「……まあな」


 アベルもルディの聡明さを認めていない訳ではない。なんせ、自分の浮気疑惑を見事に晴らしてくれたのだ。僅か五歳児が、筋道立てて、並み居る大人たちを、だ。これで聡明じゃなかったら嘘だ。


 ……まあ、ネタ晴らしすればルディの中身が五歳児じゃなかっただけなのだが。知らない以上、それは事実になっちゃうのだ。


「……というかだな? アベルは何を悩んでいるんだ? 確かに、今となってはエドワード殿下の方が優秀――というか、勉学も運動も上を行っているかも知れんが……それでも、ルドルフ殿下が優秀ではないとは思わんが?」


 ――そうなのだ。


 エディが『超優秀』の為、相対的に『平凡』に見えるが、ルディだって充分優秀な部類に入る。運動、勉強、行儀作法も少しずつルディはエディに後れを取るが、それでも充分スペック的には悪くない。顔は双子なのでそっくりだし。


「ルドルフ殿下は第一王子だ。明らかに劣る場合はともかく……長幼の別はしっかりしていた方が後々の禍根にならなくて良いと思うが?」


「……ブルーノはルディ派?」


「どちらが王になっても問題ないとは思っている。特別、どちらに肩入れをしようとは思っていないが……まあ、妻の誤解を解いてくださったルドルフ殿下には感謝しているさ」


「それ、ルディに肩入れしているやつ」


 そう言って深々とため息を吐いて、アベルは深々と椅子に背を預ける。


「……俺だってルディでも良いかなって思ってるんだよ。思ってるんだけど……あいつ、絶対手、抜いてるだろう?」


「……まあ、あの麒麟児が平凡になり下がるとは考え辛いな」


 アベルとブルーノ、完全に誤解をしている。ルディは何時だって全力で勝負をして、そして……全力を出してもただただ、エディに敵わないだけなのである。


「『国王陛下』って仕事は手抜きで出来る仕事じゃないしな。そういう意味で『国王陛下』は向いていないと思うんだよ、ルディには」


「……エドワード殿下は?」


「エディは、愚直に努力の出来る子だ。覚えているか? あの子達が五歳くらいの頃、お前の所の息子も、ダニエルの所の息子も、それこそアルベルトの娘も、皆ルディの背を追っていただろう?」


「……懐かしいな。ルドルフ殿下は皆の兄の様に気を配っておられた」


「そうだ。だが、どうだ? 今は全員、ルディより優秀だ。無論、総合すればどうかという話だろうが……少なくとも、全員一つはルディに何か勝っているだろう? お前のところは文で、ダニエルの所は武で、アルベルトの所は礼儀作法、完璧だしな」


「……別に、なんでも出来るのが王の器とは思ってないが?」


「そりゃそうだ。俺はダニエルに剣で勝て無いし、お前には成績でずっと負けてた」


「なら――」


「だがな?」



 ――王の責務から逃げたつもりはない、と。



「……簡単に『逃げる』奴には王位はやれないよ。それは、国民にとっての不幸だ」


「……そうだな」


「……だからまあ、常に努力して自分を高めようとしていたエディに王位を継がせるべきかと思ったんだけど……アルベルト、めっちゃ怒るだろうし……あー、もう! エディももうちょっと上手くやれよ!」


 誰に言うでもない愚痴がアルベルトの口から洩れ、ブルーノは今日何度目かのため息を吐いた。


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