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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第三十七話 人としては、嫌いじゃない


 クレアの怒声にディアはきょとんとした顔をして見せる。あの発言をした後にきょとんとした表情をすることが出来るディアに若干の戦慄を覚えながら、クレアは言葉を継いだ。


「なんでそうなんですか、クラウディアさん! 違いますよ!! 別にエドワード殿下の事を一晩中こき下ろす必要ないんですよ!! マジで言ってますか、貴女!? さっきから一々、極端に振り切り過ぎです! 中間は無いんですか、中間は!」


「……お言葉ですかクレアさん。公爵家の『灰色』はありません。白か、黒か、或いは白にしたいか、黒にしたいかしかありませんので」


「今、さらっと怖い事言った! 事実だって捻じ曲げるつもりだ、この人!」


 まあ、国家最大の貴族であるメルウェーズ公爵家だ。王族以外に頭を下げる必要はないし……殆どの場合、メルウェーズが言えば『そう』なるのである。カラスが白いと言えば白くなるのが権力者というやつなのである。


「……はぁ、はぁ……」


「……叫び過ぎです、クレアさん。はい、紅茶をどうぞ」


「……誰のせいだと……はぁ。ありがとうございます」


 ディアに差し出された紅茶で喉を潤しながら――さらっと公爵令嬢に給仕させたことに内心ビビるも、まあ今更かと思い直しクレアは一息つく。


「……はぁ。それにしても……エドワード殿下の事、本当に嫌いなんですね、クラウディアさん。逆に聞きたいんですけど、なんでそんなに嫌いなんです? 昔何かされたとか?」


 クレアの素朴な疑問。年少時代から見知った仲であり、兄の事はあれだけ愛していると云うのに、なぜ此処まで弟を毛嫌いするのかが少しばかり理解できないクレアの疑問に、再度きょとんとした顔を見せ。




「――え? 私、別にエドワード殿下の事、嫌いじゃないですよ?」




「え、マジで怖い。なにそれ、クラウディアさん、二重人格かなんかですか?」


 クレア、戦慄を覚える。先程、蛇蝎の如くとか、一晩掛かるとか言ってたその同じ口で何を言っているのであろうか、この人は、の心境である。愕然とする顔を浮かべるクレアに、ディアは苦笑を浮かべて見せる。


「先ほど言いましたでしょう? エドワード殿下の事は『男性』として蛇蝎の如く嫌っている、と」


「……え? それ、意味が違うんですか?」


「……エドワード殿下の事は認めていますよ。私とルディ、エドワード殿下やアインツ様、クラウス様は所謂幼馴染で……まあ、皆、ルディの事を兄事していました」


「……はい」


「五歳の頃のルディは本当に神童でした。その時は私も思っていました。『ああ、この人が私の旦那さんになるんだ。私はこんな素敵な人のお嫁さんになるんだ』って」


「……へ? あ、あれ? クラウディアさんはエドワード殿下の婚約者じゃ……」


「……ああ、言っていませんでしたか。私の場合は少々特殊でして……」


 一息。




「――『次期国王の王妃になる』のが私の使命です。ですので、現状では国王筆頭のエドワード殿下の婚約者ですが……ルディが王位に即位すれば、そのまま私はルディの婚約者になります」




 シュレディンガーの婚約者である。


「……高位貴族はやることがえげつないですね」


 ディアの言葉にクレアの顔に嫌悪の表情が浮かぶ。その顔に曖昧な笑顔を浮かべて、ディアは言葉を継いだ。


「……怒って下さるのは有り難いですが、不敬になりますので。話を戻しましょう。その時のエドワード殿下は誰よりもルディに追いつこうと努力をしておられました。私たちをライバル視もしていましたし……『僕のルディお兄ちゃんなのに!』というセリフも何度も聞きましたよ」


 そう言って楽しそうにコロコロと笑うディア。


「……本当に、エドワード殿下はルディの後ばかり付いて回って……まあ、私も人の事は言えませんが。ともかく、エドワード殿下は一日でも早く兄に追いつこう、兄に認められようと努力をされていました」


 ――勉強も。


 ――運動も。


 ――昔は人見知り気味だった性格の改善も。


「なんでも一生懸命こなすエドワード殿下は、人間としてとても立派な方でしょう。まあ、エディの様な天才ではないですが……それでも、完璧な秀才だと思います。その生き様は非常に好意的に映りますし……人間的には尊敬していますよ、エドワード殿下の事を。だから、私はエドワード殿下が王位に就くならば婚約者になることも認めようと、そう思っておりました」


 ディアの口から紡がれる言葉には、一切の嘘がない。そんな印象を受けたクレアは、首を捻る。


「ええっと……人間的に尊敬出来るのであれば、クラウディアさん、なんでそんなにエドワード殿下の事が嫌いなんです? 今のお話なら、別にエドワード殿下でも良いような……」


 まあ、恋愛なんて損得で測れるものではないし、人の気持ちは分からない。分からないがしかし、此処までべた褒めする相手を蛇蝎に嫌う、というのには違和感しかない。


「……なんか昔されたとかです? それこそ、『お前ら、僕のお兄さんだぞ!』と言ってルディ様を独り占めしようとしたとか……」


「そんなのしょっちゅうです。その度にエドワード殿下とは何度取っ組み合いの喧嘩をしたか」


「……マジで喧嘩してたんですか?」


「ええ。その頃は私の方が背も高かったし力も強かったので、いつも一方的でしたが」


「……それ、エドワード殿下の方がノーサンキューなやつじゃないですか?」


「ええ、その辺りはお互いに意見の一致を見ています。『お前を伴侶にするのだけは、本当にイヤだ』と」


「それ、意見の一致って言えるんですかね?」


 お互いがお互いを大っ嫌いという所だけ見ればまあ、意見の一致ではある。


「まあ、子供の頃の喧嘩ですし。そこのところはあまり気にしていません。私がエドワード殿下を『男性』として嫌いな理由はシンプルですよ」


 そう言ってにっこりと笑って。




「――――生理的に無理なんです、エドワード殿下」






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