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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百九十三話 親バカとバカ親


 エディが去った執務室で、アベルは一人ため息を吐く。玉間であればそんな気を抜いた態度も取れないが、此処に来るのは気心の知れたものだけ。その安心感から、アベルはズルズルとソファに体を沈める。と、ドアがコンコンコンとノックされた。


「……入れ」


 その声に反応したか、ドアがぎーっと音を立てて開く。訪問者は執務室内に体を入れると、完全にだらけ切ったアベルの姿に眉を顰める。


「……陛下。流石にその態勢は……」


「俺とお前だけだ。許せ、ブルーノ」


 入って来たのはラージナル王国宰相、アインツのお父さんであるブルーノ・ハインヒマン。アベルの態度に『はぁ』とため息を吐いて、そのまま先程までエディの座っていたソファに腰を降ろす。


「……お前がその態度なら、俺もこうさせて座らせて貰うぞ?」


「ああ、構わん構わん。つうか俺とお前だけならそんな気を遣うな。ほれ、紅茶でも飲むか?」


 置いてあったカップに手自ら紅茶を淹れて、ブルーノの前に差し出すアベル。そんなアベルの姿にため息を吐きつつも、ブルーノは紅茶のカップに口を付ける。


「……それで? エドワード殿下はなんと?」


「……気付いていたのか?」


 ブルーノの言葉にアベルが少しだけ驚いた顔を見せる。そんなアベルに、ブルーノはふんっと鼻を鳴らした。


「お前がわざわざ執務室で逢うなど、俺たちか家族位だろう? 状況的に、エドワード殿下が来るだろうさ」


「……まあな」


「それで? エドワード殿下はなんと仰った? 弁明か? 言い訳か? 釈明か?」


「全部一緒の意味だろう、それ。あいつが言って来たのはアレだ。昔からよく言っているやつだ」


「……ルドルフ殿下を王太子に、か」


「そうだ」


 アベルの言葉に、ブルーノは静かに息を吐いて目を瞑る。それもしばし、再び目を開けたブルーノは視線をじっとアベルに向けた。


「……それで? どうするつもりだ?」


「その前に聞きたい。今からルディを王太子に据えて、王城内……特にエディ『派』の人間が不穏な動きをしそうか?」


 アベルの言葉に、ブルーノはしばし考え込み――そして首を振る。


「無いな」


 横に。そんなブルーノの態度に、アベルが少しだけ驚いた様な表情を浮かべる。


「……無いのか?」


「ああ、無い」


「え、ええっと……あれ? もしかしてエディ、俺が思うより人気無かったりする?」


 アベル的には『エディ殿下が王太子じゃない? んなの認められっか! 者ども、一揆じゃー!!』くらいの反発はあると思っていたのだ。そんなアベルに、ブルーノは再度首を左右に振って見せる。


「いいや。エドワード殿下を推す派閥は王城内に確かにある。過激な思想……というとあれだが、ルドルフ殿下ではなくエドワード殿下を次期国王にと目論んでいる人間も、ゴロゴロいるさ。無論、利権がらみも込みでの」


「……んじゃ、荒れるんじゃないのか?」


「荒れるのは荒れるかも知れんが……まあ、武力闘争に発展することはあるまい、という話だ。そもそも、王位に一番近いと思われていたエドワード殿下がその座を失うんだ。王城内は上へ下への大騒ぎになるだろうな」


 何でもないようにそう言って紅茶を一口。


「まあ、そこまでだ。王城内で不穏な動きも、暴動も起きんさ」


「……なんで?」


「なんで? そんなもの」


 ふんっと鼻で笑って。


「俺が起こさせないからに決まっているだろう」


「……自信満々だな」


「この国の宰相閣下だからな。派閥争い程度、掌で転がしてなんぼだ。ルドルフ殿下が王太子になったとしても、王城内を纏め上げて見せようじゃないか」


「……」


「……だから、そんなに心配はしなくていい。そもそも、長子相続が基本だしな。エドワード殿下よりもルドルフ殿下が王位に就く方が『座り』が良いし……私としても、ルドルフ殿下を推しているしな」


「昔からそうだよな、お前」


「なんせ五歳児のルドルフ殿下に家庭の危機を救って貰っているからな。ルドルフ殿下推しにもなるさ」


 そう言って苦笑を浮かべて、ブルーノは言葉を続ける。


「それに……まあ、これでアルベルトのやつも溜飲が少しは下がるだろう。『国王陛下の妻』にクラウディア嬢がなるのだからな。クラウディア嬢も積年の想いも叶うだろうし……親としても嬉しいんじゃないか?」


「……そうだよな~。クラウディア嬢、エディじゃなくて完全にルディ派だもんな~」


「気付いていないのはアルベルトだけだからな」


 いうてブルーノもアインツの父親であり、ディアのルディに対する態度を間近で見ていたのだ。ディアの気持ちくらいは直ぐに気付くし、逆にディアを溺愛するアルベルトは目が濁りまくって気付いていないのである。


「……親バカだもんな、あいつ」


「ああ、親バカだ」


「誰が親バカだ」


 不意に聞こえる声に視線をそちらに向ける。そこにはドアに寄りかかったアルベルトの姿があった。


「……ノックくらいはしろ」


「おや? これはこれは。不敬でしたかな、アベル国王陛下?」


「マナーの問題だ。お前も飲むか、紅茶?」


 そう言って紅茶のポットを掲げて見せるアベル。そんなアベルに、アルベルトは首を左右に振ると、ニコニコと笑顔を浮かべてアベルの側へ。


「いらないのか? それじゃ――って、いてぇ! お、おい! なんでそんな馬鹿力で俺の肩を掴む――」




「――なあ? ウチの娘がさ? 『私、ルディに嫁ぎます! あ、スモロアのクリスティーナ様も一緒にルディに嫁ぎますんで! 別に私は側室でも良いんですけど……お父様はどう思います?』って言ってるんだけど……何の話だ、このバカ親父!!」




 夜叉の様な顔でそういうアルベルトに、アベルはきょとんとした顔を見せた。



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