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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百九十一話 双子の父親


「……それで? お前は何をしに来たんんだ?」


ルディとエルマーが、『民意に寄る英雄を作ろう大作戦』を企図しているころ、ラージナル国王アベルはジト目で自身の第二子であるエディに視線を送る。


「はい。国王陛下に置かれまして――」


「堅苦しい挨拶はなしだ。というか、私だってそんなに暇では無いんだ。誰かさんのせいでな?」


謁見の間ではなく、国王の私室的な立ち位置に近い執務室で謁見している所で『国王と王子』ではなく『親と子』として対峙している。そう言わんばかりのアベルの言葉と態度に、エディも少しだけ苦笑を浮かべて見せる。


「どうも、ご迷惑をお掛けしてすみません」


「本当に。どうするんだよ、これ? なんでクラウディア嬢との縁談を……破談云々はまあ、良い。まあ良いが、流石に公衆の面前ではやり過ぎだろう? もう少し上手く立ち回れなかったのか? それくらいは出来る人間だと思ってたんだがな? 考え違いか、私の?」


 アベルの言葉に、エディの眉毛が『ぴくり』と動く。


「……お言葉ですが父上? 私が言うのもなんですが……その様な事を言っては問題になりませんか? 破談云々はおいておいてなど……」


「まさにお前が言うな、の典型だな」


 はんっと詰まらなそうにアベルは鼻を鳴らし。



「だってお前、クラウディア嬢にイジメられてたじゃないか」



「……へ? い、イジメって……い、いえ、その様な事は!」


「私は国王ではあるが、その前にお前やルディの父親であると思っている。そして……まあ、どちらかの妻となるであろうクラウディア嬢の事も、自分の義娘として見ていた」


 そう言って小さくため息を吐き。



「……あの子、ルディの事を好きすぎじゃない?」


「……」


「いや、まあな? 確かにルディは幼い時から『おや?』と思わせる子だったよ? 大人びているというか、小癪というか、小生意気というか、小賢しいというか」


「父上、父上、ボロクソ言ってます。褒めてないです」


「まあ、褒めて無いからな」


 手持ち無沙汰なのか、詰まらなそうに羽ペンを手の中で弄びながら、そのペンでエディをピッと指す。


「その点エディ、お前はいい意味で『愚直』だった。だからこそ、次期国王はお前が相応しいと思っていたんだけどな?」


「……愚直、ですか?」


「そうだ。国王というのは、愚直にこなすことが大事だ。別に国の誰よりも頭が良い必要はない。国の誰よりも武力がある必要はない。国の誰よりも政治手腕が優れている必要も、外交手腕が優れている必要も、農業政策も、経済政策も、全て自分で考える必要はない。王の仕事は」


 よきに計らえ、と、そう命令すること。


「だが、よきに計らった場合にとんでもない愚策だったらどうなる? だから、国王は考えなくてはならない。この経済政策は、この軍事作戦は、この外交戦略は間違っているのか、間違っていないのか、それくらいは判断が出来なくてはならない。よきに計らって良いのかどうか、それは自身で判断しなくてはならない。それが出来ない王など、王ではない。ただの神輿で……まあ、傀儡でしかない」


「傀儡も王では?」


「見栄えだけだな。そんなもの、もう、ラージナル国王とは言わん。ただのコマだ」


 そう言って『はぁ』と息を吐いて首を左右に振るアベル。


「……話が逸れたな。まあ、クラウディア嬢がルディ大好きは見ていたら分かるさ。これでもお前らの親だからな。ルディの背中を追っていた姿を見ているし……」


 少しだけ気まずそうに視線を逸らし。


「『えでぃはこんなこともできないんですかぁ? るでぃはすぐにできるのに。やっぱりえでぃはみそっかすですね』って、エディを小突いているクラウディア嬢も見ているしな~……」


 アベルの言葉に今度はエディが視線を逸らす番だ。


「……お気付きだったのですか」


「お気付きでした」


「……止めて下さる、という選択肢は?」


「流石にお前、次期国王候補が同い年の女の子に小突かれて泣きべそかいています、は世間体が悪いだろう? 誰にも負けない武力は必要はないが、せめて自分の身くらいは守れるようにはなって貰わないと。そもそも、お前だって嫌だろ? 子供の喧嘩に親が出てきて諭す、しかも立場が上の私がだぞ? 恥の上塗りもいい所だろう?」


 アベルの言葉にエディも頷く。仰る通りである。


「……まあ、私も何度か注意をしようとは思ったんだがな。子供の喧嘩に親が出るのもアレだが……まあ、お前もルディも国王候補だからな。流石にこのままでは示しがつかんと思ったんだが……」


 少しだけ困ったように眉根を寄せて。



「……メルウェーズ公爵家の当主、アルベルトがな~。あそこも娘大好きな親バカだから……行っても多分、聞かないんだよな~」



「……親子そろって迷惑ですね、本当に」


 二人揃ってため息を吐いた。この部屋にはきっと、逃げた幸せがたむろしているだろう。



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