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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百八十九話 新発見


「……まあ、それは良い」


「いや、良く無いんだけど!! エルマー先輩は良いの!?」


「俺だって良く無いに決まってるだろう!! 決まってるが!!」


 瞳に絶望を湛えたままで。


「……ユリア嬢が言っているんだぞ!? ルディ、お前、ユリア嬢を止められるのか!?」


 エルマーの怒号にルディの言葉が止まる。そのまま、目をウロウロと上下左右に向けて。


「……無理です」


 暴走特急ユリアちゃんなのである。更に、バーデン家というガソリン付だ。幾ら止めようとしたところで、止まるものじゃ無い。


「……どうせ、ユリアの妄想でしかないからな。幸い、学園でそんな噂が出ている訳ではないさ」


「……学園で広まったら?」


「そのときは潔く、学園を退学する。別に学園に拘っている訳でも無いからな。研究開発が出来る環境があればそれでよい」


「……思い切りが良すぎない?」


「既に卒業後の進路も決まっているからな。ユリア嬢のせいでそれもどうなるか分からんが……まあ、それならそれでラッキーと思おう。俺だってあんな脳筋集団に世話になりたくないからな」


「酷い言い様だね? いっておくけど、脳筋なのはクラウスだけだよ? 他の近衛は優雅だし」


「俺の所属はその脳筋のクラウスの方だぞ? はっきり言っておくが、あまり望ましいものではない」


「……まあね」


 エルマーの言葉に、『はぁ』と息を吐いて肩を落とすルディ。


「まあ、その話はイイさ。それよりも『相談』の方だ。いや、ルディが国王陛下になるのであれば、相談よりは『提案』が近いがな?」


「え? 今のが相談じゃ無いの? ユリア先輩に近衛入りを反対されているっていう……」


「そんな事をお前に一々相談する訳が無いだろう。仮にルディに言うなら相談じゃなく、愚痴に過ぎん」


 一息。



「……だって、ルディ? お前に相談しても解決なんて出来ないだろう? ユリア嬢、止められないじゃないか?」



「……まあね」


「解決しない事を相談しても仕方ないからな。出来るのは愚痴をこぼすくらいだ」


 悲しい話である。一応この二人、王子と天才なのに、だ。女性には勝てないように出来ているのである、男って。


「まあ、いいや。それで? 提案ってなに?」


 ルディの言葉に、エルマーは紅茶に一口口を付けて唇を湿らす。今後の喋りの為に口を回らせるためにも映るそれをルディは見つめ、エルマーの言葉を待つ。


「先ほども言ったが、俺の所属は第二近衛騎士団になる。この第二だが……既に団員の募集が始まっており、編成もある程度済んでいるんだ」


「そうなの?」


「ああ。まあ、言っても『募集』という言葉で分かる通り、今集まっているのは平民ばかりだ」


「……なんか問題あるの?」


「問題はない。ないが……まあ、平民出身、剣術も体術も習った事がない、それでも体が頑丈なやつらの集まりらしくてな? 無駄飯を食わせているのも勿体ないということで、蒸気機関の線路を作る仕事をさせているらしい」


「……栄光ある近衛に土木作業って、従来の近衛騎士団が怒りそうなことを……」


「近衛だって戦場では塹壕くらいは掘るくらいはするだろう。そもそも軍隊と土木作業は親和性が高いしな」


「そうかな? まあ……そう言われてみればそうかも知れないけど……」


「そもそも近衛騎士団は第二近衛騎士団を仲間とも思ってないだろう。貴族のサロンみたいな所だしな、あそこは」


「……」


「話が逸れたな。ともかく、第二近衛騎士団が蒸気機関が走る為の線路を作っていたんだが……アーヘン、分かるか?」


「アーヘン? それって王国の南にある、アーヘン地方の事? ローレント王国との国境の近くだよね?」


 頭の中でルディが地図を思い浮かべる。古来より小競り合いが続いていた地方であるアーヘンは、今でこそラージナル王国の領土だが、ほんの三十年前まではローレントの領土であった地方であり……もっと言えば、五十年前はラージナル王国の領土だったところでもある、帰属がはっきりしない地方であり、それはつまり。


「……ローレントを挑発するのは如何なものかと思うけど?」


「今更だ。此処三十年は平和だが、何時戦争になっても可笑しくないだろう、ローレントとは」


「……まあね」


 俗にいう、仮想敵国である。


「アーヘン地方で土木作業に従事していた第二近衛だが……そこで、面白いものを見つけたらしくてな?」


 そう言って、ニヤリと笑うエルマー。


「掘削をしていた第二近衛騎士団所属の団員が、『水』を掘り当てたらしい」


「『水』?」


 ああ、と一つ頷き。




「――真っ黒な水らしい。しかも、火がついたら燃え続ける……奇跡の水だ」





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