第二百八十三話 天下国家と明るい家族計画
「まあ、冗談はともかく」
「……絶対、冗談では無いでしょう?」
「……ええ、そうです。だって目が本気でしたもの。具体的にはルディファンクラブの集まりで聖遺物を選定するときのメアリさんの目でした」
コホンと咳払いをして話題を変えようとするメアリに、ジト目を向けるクリスティーナとディア。そんな二人から少しだけ目を逸らし、メアリは口を開いた。
「冗談はともかく! ルディ様が王位に就かれる以上、私たちも協力して行かないといけないと思います。
「それはまあ、そうでしょうね」
「ええ。メアリさんの言葉に異論は御座いません」
メアリがあんまりにあんまりだったからああ言っては見たものの、そのメアリの言葉に二人とも異論はない。頷く二人に気をよくしたのか、メアリも頷いて言葉を継いだ。
「現状、ラージナル王国では経済危機――という程のものではありませんが、少しばかり物価上昇が問題になっております」
「……ふり幅が大きくないですか?」
「ええ。話の高低差で風邪ひきそうですわ」
さっきまではキャットファイトで、今度は天下国家を論じる。確かに話の高低差は大きいが、メアリは意に介さない。
「同じことです。私はルディ様と幸せに――可能であれば、クリスティーナ様やクラウディア様と幸せに暮らしていきたい」
「ええ」
「異論はありません」
「ルディ様が国王に即位され、その妻におさまる以上、国家と家庭――公人と私人の完全な区別は難しいでしょう」
王族、貴族は究極的な所で個人事業主なのである。国土の、或いは領地の経営が自身の生活に直結する以上、此処までが仕事、此処からは余暇と完全に分けるのは難しい。寝ている時だって考えるのが個人事業主の性でもあるのである。
「ならば……これだって立派な家庭の話です。いわば、『明るい家族計画』ですね」
うん、違う。
「あ、明るい家族計画って!?」
メアリの言葉にディアが頬を朱に染めてメアリを睨む。『おぼこい』ディアにはこの手の話題は苦手な話題なのだ。
「あら? クララはそういう感じですか? 私は子供は二人欲しいですね。男の子と女の子、最低でも一人ずつですかね? メアリさんは?」
「性別は問いませんが……出来ればルディ様に似てくれれば良いですね? 顔もですが、性格に関しても……公明正大にして大らかな子に育ってくれれば」
「人数は?」
「それは……ルディ様次第では無いでしょうか? 私を求めて下さるのであれば、私の方から――まあ、『体調面』以外で拒否することは無いでしょうし」
きゃっきゃと猥談を繰り広げる美女二人に、もう一人の美女であるディアは顔真っ赤である。先程も言った通り、ディアはおぼこいし、何より。
「な、なんて話をしているのですか、二人とも!! まだ昼間ですよ!? そ、その様な話は、こ、こんな時間からするものではありません!!」
「え? でもクラウディア様、興味ありません?」
「あるに決まっているでしょう!?」
ムッツリなのである、ディア。
「――っは!? ち、違います!! も、勿論? それは、わ、私たちは夫婦ですし? 何時かはその様な事をすることもあるでしょう! それが国王としての大事な仕事ですし、勿論私の婚姻の何割かは『そういう』意図があるのも理解していますよ!? で、ですが!! 流石にそれはどうなんでしょうか!! それはこう、ちょっと違いませんか!?」
「なにも違う事は無いでしょう、クララ。今あなたも言った通り、私たちは夫婦ですし、次代に血を繋げるのが最も大事な仕事と言っても過言ではないです――」
そこまで喋り、クリスティーナは視線を中空に向ける。何かに悩んだ様にうんうんと唸った後、視線をメアリに向けた。
「……そもそもルディ、性欲とかあるんですか?」
そんなクリスティーナの発言に、メアリが小さくため息を吐いて見せる。
「……クリスティーナ様はルディ様の事を何だと思っているんですか? 確かにルディ様はお優しい、聖人君子の様な方ですが…・…ルディ様だって健康な男子学園生ですよ? あの年代で『そういう』事に興味が無い筈がないでしょう?」
「そ、それは私も理解しています!! お、お兄様だってあんな人畜無害な顔をしていますが、そういう事に興味があるって伺っていますし!!」
酷い誤爆を受けるエドガー。げにおそろしきは、家族の情報収集の凄さである。巻き込まれ事故、それも人身事故レベルのそれにエドガーへの涙を禁じ得ない。
「……エドガー様の御趣味はともかく……ルディ様も勿論、そういう事に興味が御座いますよ?」
一息。
「――実際、私の仕事着が夏用に衣替えした時など、チラチラとこちらを見て来られていますし」
「「え? なにそれ、詳しく」」
痴漢冤罪は怖い。何が怖いって、今回は完全に冤罪とも言えないのが怖い。




