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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百八十一話 ズルい女


 室内の温度が数度下がった様な感覚。その空気感のまま、メアリが首をかくんと傾げたまま、声を上げる。


「どうされましたか、お二人とも?」


 まるで煽るよう――実際は煽る気持ちはまるでない。メアリ的には単純に事実の確認を述べているだけ。そんな態度が明け透けに見える事により、クリスティーナとディアの熱がどんどんと高くなる。


「め、メアリさん? 貴方がルディに一番、あ、愛されているとはどういう意味ですか? 私には少し、分かりかねますが?」


 努めて冷静に……まあ、にぎった拳はぷるぷると震えてるし、よく見ると体も小刻みに揺れてはいるのだが、ともかくいち早く立ち直り声を発したのはクリスティーナだった。そんなクリスティーナに、メアリはきょとんとした顔で口を開いた。


「え?」


「『え?』ってなんですか、『え?』って!! なんで貴方、ルディに一番愛されている事になるんですかっ!!」


 次に怒鳴るのはディア。二人の抗議の声を聞いても、メアリに動揺の色は見られない。


「私はルディ様と一番、長い時を過ごしております。ルディ様が五歳の頃より十年、おはようからおやすみまでルディ様を見つめ続けて来た自負がありますが?」


 どっかのハミガキ粉メーカーみたいな事を言いだすメアリ。そんなメアリに反論の声を上げたのはクリスティーナだ。


「そ、それは……ま、まあ、専属侍女としてメアリさんが一番ルディの側に居た事は、認めましょう。で、ですが!! それはメアリさんがルディの側に長くいただけの事では無いですか!! それでなんでルディに一番愛されている事になるんですか!!」


「え? だって私、ルディ様に一番最初にプロポーズされましたよ?」


「前後の脈絡が無さすぎません!? っていうかあれは冗談ってメアリさんが言ってたじゃないですか!」


 クリスティーナの絶叫が響く。そんなクリスティーナを意に介さず、メアリは言葉を継いだ。


「確かに、あの時のルディ様は平常では無かったでしょう。冗談、でもあったかもしれません。ですが、今のこの状況を考えて下さいませ。有難くも、私はルディ様にプロポーズをして頂きました。ルディ様ですよ? 降って沸いた様に私への愛を囁いてくださったと……そう、思いますか?」


「……うぐぅ」


 メアリに言葉に思わず言葉につまるクリスティーナとディア。そうだ。ルディなのだ。あのルディが、さして好意を抱いていない相手に『嫁に来ない?』なんて冗談でも言うはずがないのだ。


 ……まあ、裏を返せば、多少の好意があれば『嫁に来ない?』の冗談くらいは普通にいうのだが、ルディは。事実、クレアにも『仕方ないから僕の所に来る?』くらいは言っているのだ。それをディアが忘れているのは、偏にルディがメアリを一番愛しているかも知れないという焦燥があるから。それくらい、ディアやクリスティーナにとってメアリという女性は強力なライバルなのだ。


「……」


「それに……」


 少しだけ申し訳無さそうに目を伏せて。


「これはお二人のせいではないですが……クリスティーナ様はスモロア王女、クラウディア様はラージナル一の大貴族の令嬢です。そのお二人のどちらかを寵愛するとなると……ルディ様のお立場が悪くなります」


 あちらを立てればこちらが立たず。クリスティーナを寵愛することはメルウェーズ公爵家を蔑ろにすることになるし、ディアを寵愛することはスモロア王国を蔑ろにすることになる。両方に配慮し、どちらも立ててどちらも下げない事がルディの国家運営上は必要になるのだ。


「……ルディ様は今まで、国政に関わる事を想定されておられませんでした。そんなルディ様が……そうですね、『家庭』でもストレスを抱える事になるのは得策と云えないのでは無いでしょうか?」


「それは……」


「そ、そうですが……」


「そもそも私は男爵家の三女に御座います。政治的なリスクは極小でしょう。ウチの実家がどれほど頑張ったところで、スモロア王国とメルウェーズ公爵家を相手に回して大立ち回りを演じれるはずがありませんので。そもそも、それくらいの気概が我が家にあれば男爵程度で爵位が止まっている訳もありませんし」


 良くも悪くも小市民なのだ、メアリの実家は。


「それに……」


 そう言って少しだけ目を伏せて、拗ねた様に。




「――お二人は、公式に『愛される』お立場なのです。せめて家庭内くらいは……私に譲って下さっても良いじゃないですか……」




 そんなメアリの弱弱しい態度に、クリスティーナとディアは目を見合わせる。やがて、どちらからともなくメアリの肩に手を置いて、優しく微笑んで。



「「――正妃の立場が欲しいのですか?」」



「え? いりません、面倒ですし」


「でしょうねぇ!! 貴方、ズルくないですか! 公式の面倒くさいのはいやで、愛されるだけ欲しいってズルくないですか!!」


「……っち。バレましたか」


「舌打ちしましたよ、この人!! っていうか、よくもまああんなザルな演技で私たちが騙されると思いましたねぇ! 馬鹿にしすぎじゃないですか、メアリさん!!」


 メンタル最強なのである、メアリ。


 


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