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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百七十七話 祝福と、密室の悩み


「どうぞ、クリスティーナ様、クラウディア様」


「ありがとうございます、メアリさん」


「ありがとうございます。さあ、メアリさん? メアリさんも座ってください? 今日は『お祝い』ですから」


 メアリの部屋にて、クリスティーナとディアが座る席の前に紅茶を置くと、和やかな笑顔を浮かべるクリスティーナとディアに、メアリも笑顔を浮かべる。


「……よろしいのですか?」


「勿論です。ねえ、クララ?」


「ええ、ええ。だってこれから三人でルディを『支えて行く』仲間なのですから」


 先ほどよりも笑みを増した二人にメアリも笑みを増し、二人の眼前に座る。


「……ありがとうございます。そして……遅ればせながら、おめでとうございます、お二人とも」


「ありがとうございます、メアリさん」


「ええ。祝福の言葉に感謝を、メアリさん。そして、メアリさんもおめでとうございます。これで私達三人は『対等』ですね?」


 本当に嬉しそうに笑顔を浮かべて見せるクリスティーナに、メアリが少しだけ困惑した顔を浮かべて見せる。


「有難い話ではありますが、クリスティーナ様。クラウディア様とクリスティーナ様が……まあ、対等というのは分かりますが、流石に私では……」


 クリスティーナは隣国の姫君、ディアは自国最大の公爵家令嬢。『つり合い』という点では流石に男爵令嬢のメアリでは荷が重い。そう思うメアリに、ディアが苦笑を浮かべて見せる。


「メアリさん? そういうのはルディが一番嫌いますよ? そもそも、家格云々はともかく……私たちの中では貴方が一番じゃないですか、『会長』?」


「そうですよ。まあ、対外的――公式行事の面では、正妃と側妃の違いはありますでしょうが、少なくとも『家庭内』では対等ですよ。無理強いはしませんが、出来れば私もクリスティーナ様なんて堅苦しい呼び方は勘弁して欲しいですが……」


「それは……ご容赦願えれば」


「ですよね。メアリさん的にはいい提案ではないでしょうから、無理強いはしません。ちなみに家庭内だけ、という条件でも?」


「そうですね。私は、オン・オフの切り替えの得意な方ではありませんので……つい、うっかりという事も有り得ますので」


「メアリさんがオン・オフの切り替えが苦手なんて言われたら、私たちはどうなるか、という話ですけどね、クララ?」


「そうですね。クリスにはあんまり言われたくはないですけど。貴方、ずっとオンじゃないですか?」


「愛ゆえですよ」


 クリスティーナとディアの言葉に苦笑を浮かべるメアリ。家庭内では対等と言っているし事実、正しくルディチルドレンであるクリスティーナやディアは、メアリが『クリス』や『クララ』と呼び捨てで呼んでも別段気にしない。別段気にしないが、これが『外から見ると』話が違ってくる。『あの男爵令嬢、ちょっとルドルフ殿下に見初められたから調子に乗っている』という話になってくるし、間違いなく側妃の地位になるメアリにとって、その評判はあまり宜しく無いのだ。正しく、政治である。


「……オン・オフはまあ、ひとまず置いておいて……正妃、側妃はどうなされるのですか? 私が第三夫人は確定でしょうが……」


 メアリの言葉に、クリスティーナとディアが困った顔を浮かべて見せる。


「それは私達も悩みどころなんですよね……私は別に正妃でも側妃でも構わないのですが……第一王女ですしね、私。流石に他国の側妃となるとあんまりいい顔をされないのは間違いないです。間違いないですが……ねえ、クララ?」


「それに関しては我が家も側妃はあまり良い顔をされないでしょうね。『次期国王の配偶者』として育てられてきましたし、それは当然『正妃』という考えの元ですので……どうしましょうか、というのが本音の所です」


 二人揃って『はぁ』とため息を吐いて見せる。そんな二人に、少しだけ同情的な視線を向けてメアリは紅茶のお代わりを提供し、ポツリと。


「……大変申し訳ありませんが……生まれて初めてかも知れませんね。男爵令嬢で……地位が低くて良かったと思うのは」


 メアリのルディの第三夫人は、もう、これ以上なく実家から祝福されるのである。なんせ男爵家の四女が、国王陛下の第三夫人である。メアリにそのつもりは無くとも、実家はもう、とんでもなく期待するであろう。国王家に関しても、『ルディに幼いころから仕えた男爵令嬢で、ルディ大好きで知られたメアリなら、第三夫人くらいは良いか』という感じで微笑ましく祝福して貰えるのは間違いないだろうし。


「……そうですね。メアリさんは確実に祝福されますものね」


「羨ましい話です……」


 そう言って肩を落として紅茶を一気に飲む二人にかける言葉はなく、メアリは黙って三杯目の紅茶を彼女たちのカップに淹れた。



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