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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百七十六話 永遠に、共に

 メアリの呆然自失の視線をルディは笑顔で受け止める。その視線の意味に気付かないメアリではない。無いがしかし、一応。


「それは……私の仕事に何かご不満があるからでしょうか?」


 それでも、一応の確認。そんなメアリに、ルディは首を左右に振って見せる。


「まさか。メアリ以外が僕の側仕えから離れるなんて、想像も出来ないよ」


 そんなルディの言葉と態度に、安堵の――まあ、メアリ自身、こちらの心配はしていない。ルディの事に関して手を抜いて接したことなど神に誓ってないという自信も、自負もある。だけど。


「……もしかして、バレた、という線もありますか?」


「バレた?」


 ルディファンクラブの会長職の事である。こっちに関しては――神に誓って、疚しい事をしている事は無いと言えるが、恥ずかしい事をしている自負はありまくるのである。それこそ、ルディにバレたら一発で首になっても文句は言えないだろう、という事であることも。まあ、その際はディアもクリスも道連れであるし、もっと言えば王城の女官の半数くらいは王城から叩き出されるだろうが。


「……なんでもありません」


「……なんか不安な言い方だけど……まあ、メアリにもメアリの事情もあるだろうしね。それに……イイ女には秘密があるって言うしね。多少、ミステリアスな方が女性として魅力的だよね?」


 そう言ってウインクをして見せるルディにメアリ、罪悪感が止まらない。少なくとも『多少、ミステリアスな所が』みたいな綺麗な話ではないのだ。そんなルディに、メアリは薄く微笑んで。



「ええ。私にも……たとえ、敬愛するルディ様であっても、言えない事の一つや二つ、ありますので」



 敬愛するルディ様にすることかよ、という突っ込みは聞こえない。突っ込み不在で、しかして会話は回り。


「……では、なぜでしょうか? 私の仕事に不満がなく、私の以外が側仕えとなることを想像できないルディ様が、私に仕事を辞めろと仰る、その理由は?」


 そして、会話は踊り。




「簡単だよ。メアリ? もし、メアリがまだ僕の事を慕ってくれるっていうのなら」




 僕の『お嫁さん』にならないかな? と。


「……」


 会話を進めて、微笑むルディにメアリはこちらも微笑んでみせる。



「……私も、女性です」


「うん?」


「ルディ様のお言葉は天にも昇るほど、嬉しいです。貴方の側で……『立場』を変えて、お仕えできる、私の愛に応えて下さる、その一事が、堪らなく嬉しいです。嬉しいですが」


 もう一度。



「私も、女性なのです、ルディ様」



 微笑を浮かべたまま、涙を一筋流して。


「もう一度、今度は……私に委ねる形ではなく……ルディ様から、端的にお言葉を賜る事は出来ないでしょうか? お嫁に来ないか? などと……私に都合の良い言葉ではなく」



 理性を飛ばして。


 論理を追いて。


 知性を脇に置いて。



「ただ、ただ、求めてくれませんか? 『私が欲しい』と、貴方に求めて貰いたいという、私の願いは叶わないでしょうか?」



 無責任に。



 箍を外して。


 

 ただ――感情の、そのままに。


「優しいルディ様も大好きです。頼りになるルディ様も大好きです。支えて下さる、皆様を支えていたルディ様も、大好きです。ですが」



 今、欲しいのはそれじゃない。




「こんな昼間からとか、告白して直ぐにどうなんだろうとか、そんな下らない常識を、全部、全部投げ捨てて」


 

 私の体が、壊れてバラバラになるぐらい、きつく、きつく。



「優しい貴方は、私の事を思って受け入れてくれたんだと、私がそう――『誤解』しないよう。貴方に、ルディ様に、真に求められていると自信が持てるように。そんな風に」



 ただ、私を抱きしめて。



「愛の言葉を囁いて、頂けませんか?」



 ダメですかぁ? と甘える様な、そんな仕草を見せるメアリに、ルディは一瞬息を呑んだ後、ガシガシと頭を掻いて椅子から立ち上がる。その仕草にあわせるように、メアリも一緒に席を立ち。



「……僕の所に嫁に来てよ、メアリ。僕も、メアリが大好きだから……結婚、してくれないかな?」



 そのまま、メアリの希望に応えるようにメアリの体を強く、強く抱きしめる。そんなルディの態度に、本当に幸せそうにメアリは微笑んで。



「はい……はい、はい! メアリは、幸せ者です。メアリは……ずっと、ルディ様と一緒です。永遠に、共に、例え今世が終わった後でも、ずっと、ずっとルディ様のお側に居続けます。ルディ様がお許し下さる限り、ずっと、ずっと」



 蕩ける様な声と笑みのまま、メアリはルディの背にそっと手を伸ばして、ルディと一緒かそれ以上の力でルディを抱きしめた。




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