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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百七十四話 受かっちゃった



『神の見えざる手』という言葉がある。



これはカードゲームのカードの名前でも、某サッカー選手のヘディングかハンドか分からなかったシュートでも、女神の映画の名前でも、当然、人気歌手の歌でもない。古典経済の大家、アダム・スミスによって提唱された、需給バランスに関する一事である。当初の意味はともかく、ざっくり言えば『皆が勝手に経済活動しても、需要と供給は釣り合うから価格は安定するよね? 別に誰かが価格を決めた訳でもないよね? これって、神様の見えない手によって導かれてるじゃん! 神様、スゲー!』という理論である。これを古典派経済学という。


 それから二百年近く経ち、世界は天才経済学者の誕生を迎える。ベッドの中で三万ポンドを三十八万ポンドに増やした男、ケインズだ。別にケインズが床上手ですべからく女性を篭絡したわけではない。単純に、投資で増やしたのだ。


 ケインズは需要と供給に対しての一つの解を示した。まあ、こちらもざっくり言えば『神様は死んだんだよ!! これからは需要は神様じゃなくて人間が作るんだよ!! は? どうやって? んなもん、国が金出せよ!!』という理論だ。これを財政政策という。アレだ。年末とか年度末に道路を掘り起こして埋める、例のアレである。あれにはあれで意味があるし、一々掘り返して埋めるのにも理由があったりするのだが、詳細は本題では無いので省く。要は、景気が悪くなったら国が金出せよ、という話である。さて、それでは国家として一番『簡単に』需要を満たすのは何か。



 軍隊である。



 戦争は沢山の人力を必要とする。食い詰めた者たちによる、『供給』は腐るほどあるのだ。下手に力のあり余ったそいつらが、山賊とかそれに類する犯罪者になるよりは、国家で管理した方が良い、と考えるのは当然の帰結でもある。それをしないのは金が無いからで、幸い、ラージナル王国には常備軍を一個増やす程度の歳費はあったのだ。


――っていうか、『このまま不景気続いたら治安も心配じゃん? もう、仕方ないからさ? 元々、作るつもりの『第二近衛騎士団』を、食い詰めた者たちの就職先にしちゃわない?』という暴論が出たのだ。『貴族の誇りガー』とか『栄光ある近衛ガー』というガーガーおじさんは一定数居たのは居たのだが、経済不安のまま過ごすよりはマシ、そもそも『第二』であって近衛じゃないし、という強行理論で乗り切ったのである。



「……受かっちゃった」



 真新しい軍服に身を包み、与えられた宿舎の一室で鏡を見ながらジムはとてもびみょーな表情を浮かべて見せる。嬉しいのだ。嬉しいんだよ? でも、大工になるつもりの自分がなんの因果か――まあ、不景気の因果なのだが、ともかく軍人なのだ。衝撃の大きさが半端ない。


「……っていうか筆記試験、良く受かったよな」


 正直、受かるとは思っていなかったのだ。読み書き程度は出来るけど、言ってみればそこまでしか出来ないのだ、ジムは。そんな自分が、まさか受かるとは、である。大丈夫か、第二近衛、と思わないでも無いが、当然裏がある。


ジムは学科の試験はさっぱりだったが、第二近衛騎士団、平民ばっかりの応募だったので、他の応募者も似たり寄ったりだったのである。代わりに実技の方は持ち前の運動神経もあって満点に近かったので、まあ順当な合格と言っていい。実技と言っても体力試験、これも、剣術や槍術、或いは弓術みたいな経験が必要なものが試験範囲ならジムの合格は無かっただろうが……正直、第二近衛の一期生なのだ。試験する側も手探りだし、平民でも可! としちゃったから貴族とかは受けに来ないし、そんな奴らに素人剣術とかさせてもどんぐりの背比べじゃね? 体力試験だけでいいじゃん! となったのだ。第二近衛『騎士』団とはなんなのか、と小一時間問い詰めたい。


「……まあ、これで取り合えず食い詰める事はねーか。大工の夢は諦めた訳じゃねーし、今はちょっと景気も悪いだろうけど……その内、家がバンバン建つ時代もくんだろ。そん時は大工に戻って……それから、リーナを呼び寄せるか!!」


 パンパンと両の手で自身の頬を叩き、気合を入れて、ジムは鏡の前でにっと笑って見せた。



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