第二百七十話 お前はどーする?
「……はあ。まあいいや。それで……おい、ルディ? お前はどーすんだ?」
アインツにジト目を向けた後、ため息を吐いてクラウスは視線をルディに向ける。そんなクラウスの視線を受け、ルディが少しだけ身じろぎして見せる。
「僕……は……」
何を、どういえば良いのか。悩むようなルディのその姿に、クラウスはふっと笑みを浮かべて見せる。
「……まあ、ルディが色々と難しい事を考えているのは分かるけどよ? 俺ら皆、ルディの味方でいるつもりだぜ? だから……んな難しく考えずにシンプルに考えようぜ?」
「シンプルに?」
ああ、と一つ頷き。
「一つ。ルディは王位を継ぐのに自信がない」
「自信が無いって言うか……いや、自信も無いけど、エディの方が」
「エディはルディの方が向いているって言ってるんだよ。まあ、それは良いや。んじゃまあ、仮にルディが自信が無いとしようや。さっきアインツが言っただろう? 俺もアインツもエディもエルマーも、皆お前さんが国王になったら支えるつもりでいる。自信が無くてもいいじゃねーか。俺だってアインツだって、今すぐ親父殿並みの仕事なんて出来ねーよ。なあ、アインツ?」
クラウスの言葉にアインツが頷いて見せる。そんなアインツにクラウスも頷き返し、視線をルディに戻す。
「一つ。王城内にルディ派とエディ派が出来る事に、ルディは怯えている」
「……まあ、うん。派閥が出来るのは良い事じゃ――」
「人が三人集まれば二人と一人で派閥は出来るぞ?」
「――……」
「近衛だってそうだし、王城内だってそうだ。だから、派閥が出来る事なんて気にしなくて良いんだよ。つうか、もう片一方の派閥のボス……っていうか、神輿がルディ派筆頭みたいなもんだぞ? そう考えればエディ派なんてもう壊滅してるみたいなもんだ」
「それは……でも! 今はエディが王位を継ぐのが規定路線なんだよ? そんな中で僕がしゃしゃり出たら、王城が混乱するっていうか……」
ルディの言葉に、クラウスが大袈裟にため息を吐いて見せる。
「……あんな? そもそもルディが王位を継がないって方が混乱するんだぞ? お前らはまだ双子だからアレだけど……基本、ラージナルの相続は長子相続が基本なの。だからこそ俺だって兄貴が家督は継ぐもんだと思っている訳だしな」
まあ、兄貴の方が優秀だけどな、とカラカラと笑って見せて。
「そういう訳で、ルディが王位を継ぐのは問題ねーの。まあ、多少の混乱はあるだろうけど……んなもん、今までのラージナル王国で何度もあっただろうが。まさかルディ、お前、自分の御先祖様の全員が全員、平和的に王位を継承して来たなんて幻想持っている訳じゃないだろうな? もしそうなら、歴史を一から勉強しなおせよ?」
ラージナル王国は比較的平和に王位継承が為されてきた国家である。国家であるがしかし、それでも国の最高権力者の地位の相続なのだ。全部が全部平和に継承なんてされてきている訳は無いし、それこそ周りの国家から『野蛮』と評される国である。基本、血気盛んな人間が多いし、血が流れたことだってない訳じゃないのだ。
「今回はエディのスタンスが明確だからな。そこまでにはなんねーだろ。なら、ルディが王位を継いだほうが良いだろうし」
そこまで喋り、視線をクリスティーナにちらりと向けて。
「一つ。最後になるけどよ? そもそもてめーが惚れた女、不幸にするのが趣味なのか、お前? そうだとしたら、友人関係見直さなきゃいけねーんだけど?」
おかしそうに笑って。
「――クリスが大事で、嫁に欲しいなら……王位を継げよ、ルディ。それがきっと、クリスが一番幸せになれる方法だ。難しい事は何にも考えなくて良いんだ。ホレた女だろ? 守ってやれ」
「……流石にそれはどうなのさ? 我儘っていうか……国王陛下っぽくない考えじゃない?」
「王様なんて我儘なもんだろうが。つうかな? 自分のホレた女の幸せも守れねーやつが、国民の幸せなんて守れる訳ねーだろ? まあ、お前が別にクリスなんてどーでも良いって言うなら、話は別だけど」
違うんだろ? と。
「そこで『別にクリスの事なんて』みたいな事言う様な情けないヤツだとは思ってねーぞ、親友?」
まるで悪友にする様、クラウスはそう言ってニカっと笑って見せた。




