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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百六十五話 よきに計らえ


「恋の魔法使いって……なんかこう……恥ずかしいね」


 少しだけ照れくさそうに頬を赤く染めるルディ。そんなルディに優しく微笑むクリスティーナの顔を見ながら、アインツとクラウスとエディ、そしてディアは同じ感想を浮かべる。それ、即ち。




((((――ぴったり過ぎる))))




 いや、まあルディの自己認識はともかくクリスティーナ、ディア、メアリというガチ恋勢を含めて、『ルディファンクラブ』という、ちょっと頭のおかしい集団を非公認と云えど持っている剛の者なのである、ルディは。


「……兄上にぴったりだな」


「ああ。ルディの為にある魔法なんじゃねーか、恋の魔法って」


「そうですね……私が言うのもなんですが、ルディはファンも多いですし……本気、というとアレですが、ルディから求められて断る人間は……少なくとも、ルディ付きの侍女の中では居ないでしょうね。しかも全員……なんというか……熱が高いというか、圧が強いというか……やはりルディ専用の魔法かもしれませんね、恋の魔法は」


「……それは流石に言い過ぎだ。まあ、分らんでも無いが……」


 エルマーだって、『恋の魔法はルディ専用』なんて言っているクラウスだって、特定の相手に対しては恋の魔法使いだったりするのだ。そういう意味ではルディ専用では当然ないが。


「……あれ? そうすると、その魔法の使い手じゃないのって……俺だけか?」


 アインツ、気付きたくない事実――『非モテ』であることに気付いて愕然としてしまう。そんなアインツの肩にポンっと手が置かれた。エディだ。


「……安心しろ、アインツ。俺だって似た様なものだ」


「エディ……いや、待て。お前だって充分人気だろうが! 完璧王子のファンは多いだろう!」


「それは違うだろう。クラウディア風に言うなら……まあ、熱も圧も低いし弱いだろ?」


 遠くに見るアイドルがエディ、ガチ恋勢抱えるのがルディ、という感じである。ちなみに一人で非モテと落ち込んでいるアインツだって、『イケメンの将来宰相の最有力候補』という事でそこそこに人気はあるのだが……残念ながらというか、アインツにとっての幸福というか、彼のファンたちはディアやクリスティーナとは違って常識人であり、あんな狂気の――失礼、変な騒ぎ方をしないだけである。なんて慎ましいんだ、アインツのファン。


「コホン。まあ、それはともかく……兄上?」


「なに、エディ?」


「そろそろ話を再開しても構わないか? 微笑ましい姿だし、満足いくまで堪能させてあげたいが……あまり時間を取ると人が来るだろうし、なにより、俺の右足の甲の骨がそろそろヒールの鋭角で砕けそうなんだ」


 照れくさそうに微笑むルディと、それを嬉しそうに見守るというクリスティーナの姿は確かに絵になるし、長年のクリスティーナの想いを知っているエディも満足するまでしていればいいじゃないかという気持ちもあるのだが、なんせ朝の忙しい時間帯、寝坊がデフォルトの貴族令息、令嬢もそろそろ食堂に集合するだろうし、何より『なにいい雰囲気作ってやがりますかっ……!』と言わんばかりに、エディの足の甲をグリグリと踏みにじるディアの攻撃にエディが耐えるのもそろそろ限界なのである。ちなみにディア、完全に無意識でこれをやっている辺り、本当に怖い。


「微笑ましいって……」


「照れなくてもいいさ、兄上。正確にはクリスの視線の方だが……まあ、そこに差異はないさ。ともかくクリスの想いも伝えられて良かった、良かったで終わりたい所ではあるのだが……」


 一息。


「……実際問題、クリスティーナ・スモロアというスモロア王国の王女が嫁ぐ以上、兄上が『ただの王族』では流石に都合があまり良くない。兄上は嫌うだろうし、俺だって本音では反対ではあるが……まあ、どうしたって『家格』というものはあるからな。だから兄上、そろそろ覚悟を決めて」




 王位を、継いでくれないか、と。




「俺は勿論、アインツもクラウスも協力してくれる。クラウディアだって協力してくれるだろう。クラウスの幼馴染も『兄上派』なんだろう? ならば、国家の――少なくとも『次代』の認識では、次の王位は兄上――ルドルフ・ラージナルで決まりだ」


 視線をルディに固定して。


「なに、アインツでは無いが万難を排してでも兄上を王の頂きに押し上げて見せるさ。兄上は何も心配することも、憂慮することもなく、ただ一言、言葉を発して貰えればそれで良い。即ち」




 ――よきに計らえ、と。




「その言葉で、俺たちは――私たちは貴方の為に動きますよ、『国王陛下』?」




 まるで演劇の役者の様に、仰々しくエディはそう言ってお辞儀をして見せた。



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