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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百六十一話 人生最高の日


「……お前な? 流石にいきなり鼻血噴き出すのはどうなんだ?」


 両方の鼻の穴にティッシュを詰め込んで『ふがふが』言いながら、『ふへへ~……ふへへ~』と気持ち悪い笑顔を見せながら幸せそうに眠るクリスティーナに、物凄く冷たい視線を向けるアインツ。そんなアインツに苦笑をしながら、クラウスがその肩をポンっと叩く。


「は、ははは。まあ、しょうがねーじゃねーか、アインツ。クリスだってホレ、ずっとルディにベタ惚れだった訳だしな?」


「仮にベタ惚れだったとしても、だ。あんな人間噴水みたいな勢いで鼻血を噴き出す人間がいると思っているのか? っていうか、クリスの体、本当にどうなっているんだ? 一遍、エルマー殿に調べて貰うか?」


「あー……まあ、確かにとんでもねーとは思うけど……でもな? エルマーはダメだろう?」


「なぜ――ああ、怒るか。彼女殿が」


「ユリア嬢は関係ねーよ。エルマー、医術は専門じゃないだろ? あいつの得意なのは機械いじりの方だからな。流石にクリスが幾ら人外でも、流石に人間の範疇だろう? 生物学的には」


「……まあ、そうか。確かにエルマー殿は専門では無いかも知れないな」


「……黙って聞いていたら、あなた方二人、失礼過ぎませんか?」


 ようやく鼻血の悪夢――という割にはニヤニヤした笑顔の夢から覚めたのか、クリスティーナが両鼻に詰めていたティッシュを取ってアインツとクラウスを睨む。ちなみに、ルディはその間ずっとクリスティーナに背を向けていたりするが、これはアレだ、流石に乙女的に鼻ティッシュ状態を見られたくないだろうという、クリスティーナの乙女心的なナニカに配慮したアインツとクラウス、それにディアのお願いだったりする。まあ、鼻血を大量噴出している時点で、乙女心もへったくれもあったものでは無いのだが。


「復活したか、クリス?」


「お陰様で。ご迷惑をお掛けしました」


「気にする――まあ、迷惑は迷惑だが、そこまで気にしなくていい。おい、ルディ? もう良いぞ?」


「ん? もう良いの?」


 アインツの言葉に、ルディは振り返って笑顔を浮かべて見せる。そんなルディの笑顔に、少しだけ照れくさそうにクリスティーナが微笑んでルディの前に一歩、また一歩と歩みを進めた。


「その……ご迷惑と……お恥ずかしい所をお見せしました」


「ははは。ご迷惑とは思ってないし、お恥ずかしいとも思ってないよ?」


「それはありがとう――ああ、いえ? ルディ? 流石に私も年頃の女の子ですし、鼻血は恥ずかしいですよ? っていうか、恥ずかしい姿と思って下さいよ。なんかそれだと、『クリスはいっつも鼻血を出しているから、問題ないよ?』って意味にも取れるんですが?」


 クリスティーナ、流石に穿ち過ぎである。穿ち過ぎであるが、大変な醜態を晒して『別に恥ずかしくないよ』と言われるのはクリスとしても心外なのだ。だからと言って、『本当に恥ずかしい姿だったね?』なんて言われた日にはショックで寝込んだりするのだが。厄介なのだ、乙女心とは。


「それで……そ、その……わ、私がは……なぢを出してしまいましたので、ちょっとうやむやになっている感はあるのですが……そ、その、ルディ? ルディは……そ、その……」


 恥ずかしそうに胸の前で両手の人差し指をちょんちょんと合わせながら、上目遣いでそんな事を聞くクリスティーナ。そんなクリスティーナがなんだか可愛らしく見えてルディの顔にも笑みが浮かんで。



「――うん。僕は、クリスの事が好きだよ。だから……良ければクリス?」



 僕と結婚してください、と。



「……嬉しい」


「……」


「……本当に、本当に嬉しいです、ルディ。私の長年の想いが、ようやく……報われました」


 胸の前で手を組んで、幸せそうな笑みを唇に乗せて、瞳を閉じるクリスティーナ。そんなクリスティーナの閉じた瞳から、涙が一筋零れる。


「……待たせてごめんね、クリス」


 そんなクリスティーナの涙をそっと人差し指の腹で拭うルディ。ゆっくりと閉じた瞳を開けたクリスティーナは、心の底からの美しい笑みを浮かべて見せた。



「構いません!! 今日は人生最高の日です!! 今まで待ったのも、今日という最高の日を迎える為だと思えば、何でもないです!! アレです!! お預けされた御飯の方が、普通に食べる御飯よりも何倍も美味しいとか、そういうのと一緒です!!」


「……もうちょっと言い方ない?」


「えへへ。嬉しくて、変な言い方になっちゃいました」


 クリスティーナの言葉にルディが苦笑を浮かべると、同様にクリスティーナの方も苦笑を浮かべる。そんな二人を温かい目で見つめていたアインツだが、コホンと咳払いを一つして。




「想いが通じ合ってまことに結構だ。だが……まあ、いい機会だ。ちょっと『今後』の話をしないか?」




「……もうちょっと空気とか読めませんか、アインツ? 普通は此処で私達を二人きりにするくらいの心遣いはあっても罰は当たらないと思いますよ?」


 真面目腐った顔でそういうアインツに、クリスティーナの抗議は通らなかった。




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